8月20日から25日まで、ニューヨーク州都オールバニーで、女子スポーツのチームイベント、オーロラゲームズが開催された。

 テニス、バスケットボール、体操など合計7種目でアメリカチームと世界中から集まったメンバーによるワールドチームが対決し、合計スコアを競うという趣向のこの大会。フィギュアスケートのフリーで、14歳のアリサ・リュウが2度の3アクセル、そしてアメリカの女子として初の4回転ルッツをきめたことが大きな話題となっている。

 もっともこのオーロラゲームズは、ISUジャッジシステムで行われたわけではない。ジャッジもスルヤ・ボナリーやエリザベス・マンリーなど過去のチャンピオンたちが招かれて10点満点システムで評価する、娯楽イベントである。4ルッツや3アクセルもISUの技術スペシャリストが技を認定したわけではなく、もちろんISUの記録にも残らない。

最年少の全米女子チャンピオンに。

 リュウは13歳だった昨シーズン、全米選手権のフリーで2度の3アクセルを成功させて最年少の女子チャンピオンとなった。だが8月生まれの彼女はシニアはもちろん、ジュニアの国際試合の出場年齢規定にも達していなかった。1月に全米選手権で優勝したものの、その後大会に出場することなくシーズンを終えていた。その彼女が7カ月ぶりに登場した公の場で4ルッツを見せたのだから、アメリカのマスコミが沸くのも不思議ではない。

 だが彼女の本当の勝負は、8月28日(現地時間)からニューヨーク州レイクプラシッドで開催されるジュニアGP大会デビュー戦だ。

 先週フランスで開催されたジュニアGP大会初戦では、ロシアの13歳、カミーラ・バリエヴァが4トウループを成功させて優勝している。ジュニアの女子ではすでに、4回転を跳べないとトップにいけない時代が到来した。

4回転を成功させてきたジュニア女子たち。

 女子の4回転が初めて国際試合で認定されたのは2002年12月のジュニアGPファイナルで、当時14歳だった安藤美姫が降りた4サルコウだった。

 それからしばらく間が空いていたが、2018年3月のジュニア世界選手権女子フリーで、当時13歳だったロシアのアレクサンドラ・トゥルソワが女子史上初の4トウループと、史上2人目となる4サルコウを成功させて優勝。そして初めて1つのプログラムで2度の4回転ジャンプを成功させた女子スケーターになった。

 さらに昨シーズンは14歳になったトゥルソワが、女子初の4+3トウループのコンビネーション、そして4ルッツを試合で成功させている。

 他にもロシアのアンナ・シェルバコワが国際大会ではまだクリーンにきめていないが、国内戦で4ルッツを着氷した。いずれもエテリ・トゥトベリーゼの門下生たちだ。

 アリーナ・ザギトワやエフゲニア・メドベデワが、2018年平昌オリンピックで「ジュニアの後輩たちはもっと難しいジャンプをやっているので、自分たちも負けてはいられない」と語っていたのは、謙遜でも誇張でもなかったのである。15歳のザギトワがベテラン勢を追い越して五輪金メダルを手にしてから、わずか2シーズン目にして、女子は大きな転機を迎えようとしているのだ。

19歳の選手が4サルコウを着氷。

 これまではもっぱら、試合で4回転を成功させた女子はいずれも身体の小さな13~14歳のジュニアスケーターだった。

 だが2019年3月にさいたまスーパーアリーナで開催された世界選手権で、カザフスタンのエリザベート・トゥルシンバエワが4サルコウを着氷。シニア女子として初の快挙で、銀メダルを手にした。もっともトゥルシンバエワは19歳とはいえ、身長150センチに満たない小柄な体型が有利にはたらいたことは間違いない。

2022年北京五輪では、誰が4回転を?

 今から2022年北京オリンピックの間までに、シニア女子の間で4回転はどこまで浸透するだろうか。

 トゥルソワとシェルバコワの2人は、今季シニアGP大会デビューをする。

 トゥルソワはスケートカナダとロステルコム杯、シェルバコワはスケートアメリカと中国杯に出場が予定されている。トゥルシンバエヴァはスケートアメリカと、中国杯の2戦でシェルバコワとぶつかることになる。

 少なくとも今シーズンは、彼女たちが出場するアメリカ、カナダ、中国とロステルコム杯では、4回転を見ることができそうだ。

紀平梨花はどう迎え撃つか

 その一方で、昨年の世界チャンピオンであるアリーナ・ザギトワをはじめとする大多数のトップ女子選手は、おそらく4回転も、3アクセルもない従来の戦い方を続けていくことになるだろう。

 いくら必要になったと言われても、シニアになってからそう易々とマスターできるような技ではなく、怪我のリスクも高いためだ。

 そんな現状の中で、昨シーズンGPファイナル初優勝をきめた17歳の紀平梨花はアメリカで4回転のトレーニングを行い、練習ではすでに成功させている。

 質の高い3アクセルを高い確率で跳んできた紀平になら、4回転を試合で成功させるのは現実的なことだろう。

 音楽表現などでも高い評価を受ける紀平に安定した4回転が加わったなら、おそらく敵無しの状態になる。だが3アクセルも加えたプログラムの身体への負担は、半端なものではないに違いない。

ジャッジはどこまでの評価を出すのか?

 まず注目されるのは、今季シニアデビューのトゥルソワたちが4回転を成功させたときに、ジャッジがどこまでの評価を出すのか。

 そして彼女たちが遠くない将来、思春期に伴う体形の変化を迎えて、どの程度まで現在跳んでいるジャンプを保っていられるのか。

 その意味では、もっとも怖いのはやはりアリサ・リュウかもしれない。この夏ようやく14歳になったリュウがシニアデビューするのは、2021-2022年。北京オリンピックのシーズンである。

 その頃までに、女子の戦いがどのようなレベルになっているのか。

 その鍵を握る今シーズン、シニア女子の4回転の戦いに注目したい。

(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)