想像を超える快挙を、平均年齢19.7歳の日本代表がやってのけた。

 8月18日から25日まで韓国・ソウルで開催されたアジア選手権で、女子バレーボール日本代表が優勝した。

 2年前のフィリピン・マニラ大会に続く連覇を達成したのだが、当時は東京五輪に向けて発足し、間もなく始まるワールドカップを目指す現在のトップチームが出場して大会を制した。それに対し、今回の日本はアンダーカテゴリーの選手が大半を占め、主軸になったのは7月にメキシコで開催されたU20世界選手権を制したメンバーだ。

 そうか、若い選手がアジアで勝ったんだ。

 一見すればそれだけのことかもしれない。だがそれをあえて「快挙」と打ち出すのには理由がある。

U20世界選手権よりも価値がある。

 まず、アンダーカテゴリーとはいえ、世界を制し表彰台の頂点に立ったメンバーが、それから間もない時期に、限られた時間でチームをつくり、今度はアジアを制したこと。

 しかも今回のアジア選手権に出場した韓国、タイは、東京オリンピック出場を目指すトップチームだ、ということ。

 チームを率いた相原昇監督はこう言った。

「韓国には世界のスーパーエース、キム・ヨンギョンがいて、1人ひとりの力を比べたら遠く及ばない。でも、その正真正銘の『世界』を相手に勝った。メキシコの世界ジュニア(U20世界選手権)よりも、価値ある勝利だったと思っています」

「100年に1人」の逸材相手に。

 アジア選手権の開催地は韓国。超満員の完全アウェイの状況下、観衆からは「テーハミング」コールが止むことなく沸き起こる。これまでアジア選手権で優勝したことがない韓国にとって、母国開催のアジア選手権を制することは悲願であり使命だった。

 そのため、8月のオリンピック最終予選で敗れた直後で、9月には日本でのワールドカップに出場することを踏まえながらも、キム・ヨンギョンを含めた現状のベストと言えるメンバーで臨んだ。

 ブロックを3枚揃えようと上から打ち、空いたコースへ的確に打ってくる。大会のベストミドルブロッカーに選出された山田二千華も「高さも巧さも、とにかくすごい。わかっていても決めて来る、世界のエースなんだと改めて実感した」と言うように、U20世界選手権でロシアやイタリアなど高さで勝る国々との対戦をしてきた選手たちにとっても、「100年に1人の逸材」と称される世界のスーパーエースは規格外で、異次元だった。

 その相手になぜ勝てたのか。

 U20世界選手権でのベストアウトサイドヒッターに続いてアジア選手権でもベストオポジットに選ばれた曽我啓菜はこう言う。

「とにかく守備を固めよう、と。ただ拾おうとしても全部は無理なので、ブロックで塞ぐところは塞ぐ、拾うところは必ず拾う。当たり前のことだけど、そこだけはとにかくやり抜こう、と思っていました」

当たり前にしてきたトータルディフェンスの構築。

 男子に比べて、女子は“ディフェンス=レシーブ”と考えられがちだ。だが、近年、春高バレーを制した金蘭会や下北沢成徳が「まずブロックの意識を高めないと、ディフェンスは構築されない」と徹底して勝利を収めたことで、「ただ拾えばいい」というだけではなく、どのコースを誰が拾うか、というブロックとレシーブを含めたトータルディフェンスの構築が共通認識になっていると言っても過言ではない。

 たとえ高さや巧さで上回る相手に対しても、アナリストやコーチから出されるデータをもとに、ストレートに来たら誰が止めて誰が拾うか、クロスの時はどのコースを塞いでどこを抜かせるか、高校生の頃から当たり前にしてきたディフェンスに対する意識の高さが、経験や技術で十分発揮された。

 その結果、打っても打っても決まらず、相手は確実に決まるポイントから攻撃を仕掛けようと、エースのキム・ヨンギョンにボールを集める。だが、それこそが日本にとっては思惑通り。レシーブの配置や、ブロックに跳ぶ位置を徹底し、簡単に攻撃を決めさせない。

「頼もしかった」石川真佑の存在。

 加えて、光ったのはそこからの攻撃展開だ。

 相手がミスをするまで拾い続けて粘り勝つというだけではなく、相手の攻撃をレシーブした後も両サイドからの攻撃にミドルを絡め、的を絞らせない。それが必然的に相手のブロック枚数を減らすことにもつながり、より攻撃側に優位な状況が生まれる。

 そうやって、粘って、つないだチャンスを最後に決めたのが、U20世界選手権に続いて大会MVPに輝いた石川真佑だ。

 U20世界選手権の課題を活かした、という相手ブロックをうまく利用した前衛からの攻撃を武器に、高さで勝り、前に出てくるブロックを最後まで見ながら時に緩急をつけ、弾き飛ばすだけでなく、横に出したり落としてみたりと、攻撃参加の意識が高いチームの中でも、さまざまな攻撃を仕掛けられる石川の決定力は大きな武器だった。

 チームの主将でセッターの松井珠己はこう語る。

「相手の攻撃を何とかレシーブして、やっとつながったというボールはどうしてもハイセットになることが多いのですが、それをどんな状況でも思い切り叩いて、打ち切ってくれる。特に、終盤の苦しい場面での勝負強さは、トスを上げていても『すごいな』と自分がびっくりするぐらい、頼もしかったです」

「高校時代の経験が活かされた」

 下北沢成徳高在学時から注目を集め、エースとして多くの本数を託されたが、最後の春高は相原監督が率いた東九州龍谷にフルセットの末、準決勝で敗れた。

 大事なところで自分が決めきれなかったことが敗因、と涙してから7カ月。

「世界ジュニア(U20)ではブロックに止められたことが多かったので、そこは意識して、アジア選手権ではうまくブロックに当てて出すことができたと思います。崩れた時や、ハイセットを打ち切ることは高校の頃からずっとやってきたことなので、まだ“自信になった”と言い切ることはできないですけど、でも、悔しかったことも含めて、高校時代の経験が活かされた、とは思いました」

 準決勝で韓国に勝利し、決勝のタイ戦は自らのサービスエースで優勝を決めた。

キム・ヨンギョンから祝福された石川。

 もはや「石川祐希の妹」ではなく、もう立派な「世界を制したエースの石川真佑」なのだが、成し遂げた快挙以上に嬉しかったことがある。

 表彰式ではキム・ヨンギョンと並んで、ベストアウトサイドヒッターに選出されたのだ。個人表彰の最後にMVPが発表される時には、隣にいるヨンギョンから「ほら、あなたの名前が呼ばれるよ」とばかりに笑顔で突つかれた。

「表彰式の後、一緒に写真を撮ってもらったんです。そうしたら“よかったですね”って。戦えただけでもすごいのに、ずっとテレビで見ていた選手と2人で並ぶことができて、そんな風に言われて、めちゃくちゃ嬉しかったです」

育成、強化が実った明るいニュースのはず。

 U20世界選手権で勝利し、アジア選手権も制したのだからこのままワールドカップもこのメンバーで臨めばいい。そう思う人もいるかもしれないが、来年に迫る五輪に向かうトップカテゴリーで同じように戦い、勝てるほど甘くはない。

 とはいえ、関菜々巳や長内美和子、中川美柚がネーションズリーグにも選出されたように、アンダーカテゴリーだからといってシニアに抜擢されるチャンスがないわけではない。

 MVPの石川に対して女子日本代表の中田久美監督も「可能性も力もあるし、新しい力としてどんどん出て来てくれれば、それがチームの勢いにもなる」と高い期待を寄せており、この快挙が後押しになる可能性は大いにある。

 ただ世界で勝った、アジアで勝ったという結果だけではない。過程を見れば長い年月をかけてアンダーカテゴリーの育成や強化に努めて来た背景があり、すぐ先の未来につながる可能性あふれる選手たちがいる。

 だからこそ、あえて苦言を述べるなら、これ以上ない明るいニュースを取り上げるメディアが少ないことだろう。少なくとも他競技ならば、帰国時の空港取材に4人しか来ず、ただ「へー、若い子が勝ったんだ」で終わらせてしまうような快挙ではないはずだ。

(「バレーボールPRESS」田中夕子 = 文)