まさか、藤田菜七子以上に騒がれる女性騎手が現れるとは思っていなかった。

「美しすぎる女性騎手」と言われていたミカエル・ミシェルが来日初勝利を挙げ、スタンド前に戻ってきた。馬上で両手を合わせてハートマークをつくって微笑むと、メインの重賞レースを上回る数のカメラマンが彼女を迎えた。

「世界で闘っている女性たちの代表として、ここに何か残したい。この大会の前から私の写真などをSNSにアップしてくれて嬉しいです。この国に恋をしました。(日本語で)ありがとう」

 勝利騎手インタビューで彼女がそう言うと、スタンドから大きな拍手が沸き起こった──。

 8月24日(土)と25日(日)、札幌競馬場で「2019ワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)」が開催された。

 参加したのは、国内外から集まった14人のトップジョッキー。4つのレースでポイントを争い、個人戦と団体戦(WAS選抜対JRA選抜)が繰り広げられる。

藤田菜七子に的場文男、そして外国人女性騎手。

 今年で5年目を迎え、 札幌の夏競馬の風物詩としてすっかり定着したこのイベント。過去2年、JRA選抜は同じメンバーだったが、今年はガラリと変わった。

 4年連続出場していたミルコ・デムーロと、3年連続出場していた内田博幸らに替わり、初出場の三浦皇成と藤田菜七子が名を連ねた。藤田は、前身のワールドスーパージョッキーズシリーズ(WSJS)時代を含め、JRAの女性騎手として史上初の出場となった。

 WAS選抜のメンバーも華やかだった。

「目玉」と言える存在は、まず、昨年、地方競馬通算最多勝記録となる7152勝を達成し、今なお最多勝記録を更新しつづけている大井のレジェンド・的場文男。WSJSには2009年に出場しているが、WASJには初出場となる。

 そして、2人の外国人女性騎手。

 ひとりは、過去3回短期免許で来日しているニュージーランドのリサ・オールプレス。

 もうひとりが、昨年72勝を挙げ、フランス女性騎手の年間最多勝記録を更新したミカエル・ミシェルである。

「美しすぎる~」というのは食傷気味だったのだが、本人を前にすると、そう表現してしまうのも仕方がないと思うほど、顔もスタイルもいい。何より、騎手としての腕がそれに負けていないのが素晴らしい。

武豊やルメールも参戦の豪華メンバー。

 ここで出場騎手全員を紹介したい。

 JRA選抜は武豊、クリストフ・ルメール、戸崎圭太、川田将雅、浜中俊、三浦皇成、藤田菜七子。

 WAS選抜は、リサ・オールプレス(新)、ミカエル・ミシェル(仏)、ジュリアン・ルパルー(米)、コルム・オドノヒュー(愛)、カリス・ティータン(港)、的場文男(大井)、吉村智洋(兵庫)。

 これだけの豪華メンバーが揃った札幌競馬場には、初日の土曜日から大勢のファンが詰めかけた。

 そんななか、ミシェルはWASJ第1戦で5着、第2戦で4着と、着実にポイントを稼いだ。

見事なポジショニング、そしてステッキ。

 そして2日目、日曜日のWASJ第3戦。第10レースに組まれたのは、ダート1700mの3歳以上2勝クラス(1000万円下)だった。騎乗馬は3番人気のスワーヴアラミス。

 スタートは速くなかったのだが、スタンド前で外に出し、積極的に押し上げた。1、2コーナーを回りながら、さらにポジションを上げて行く。

 気合をつけたまま、4番手の外で向正面に入った。そして、勝負どころで外からマクるように先頭に立ち、直線へ。ミシェルは右ステッキで騎乗馬を叱咤し、外からリアリストに迫られるとすぐさまステッキを左に持ち替えた。そこからは左ステッキを入れ、リアリストから馬体を離しながら内に誘導し、先頭でフィニッシュした。

「金曜日に調教で乗ったとき、関係者も好感触を得ていました。今日は自信を持って乗りました。自分の思ったとおりに馬が動いてくれた。勝ったとき、ファンのみなさんだけでなく、ほかの騎手たちも祝福してくれた。

 厳しい闘いのなかで、フェアな国だと思いました。昨日は勝てなかったのにたくさんの人が応援してくれて、今日勝ったとき、涙をこらえるのに必死でした」

 ミシェルはそう言って笑顔を見せた。

フランスが拠点でダートは不慣れなはずが……。

 フランスをベースに騎乗しているので、ダートでレースをしたことはほとんどないはずだ。特に日本のダートは特殊で、凱旋門賞を4勝している名手オリビエ・ペリエが、短期免許で来日したばかりのとき「ずっとエンジンをふかしながらエネルギーを溜めなくてはいけないので難しい」と語っていたほど、普通は慣れるのに時間がかかる。

 そこでこうして結果を出したのだから、適応力が高い。さすが、これまで4カ国で国際騎手招待競走に参加してきただけある。

 表彰式に集まった大勢のファンを見て、社台ファームの吉田照哉代表が言った。

「お客さんを呼ぶ人選でしたね。馬券以外にこういう楽しみがあるのは、とてもいいことだと思います」

 このWASJ第3戦を終えた時点で14人のトップに立ったミシェルは、第4戦で10着に敗れたものの、総合3位タイで表彰台に乗った。

「女性騎手代表として、またフランス代表として、ここに立つことができて幸せです」

 そう言って、恒例のビールかけを楽しんだ。

藤田菜七子は昨年の自己記録に並ぶ。

 一方、藤田菜七子は、的場文男と並ぶ13位タイの最下位だった。

「いい結果を出せず悔しいです。自分の未熟さを痛感しました」

 そう話したが、この日の第4レースで勝利を挙げ、昨年自身がつくった27勝という女性騎手の年間最多勝記録に早くも並んだ。

 藤田が憧れの存在と言っている、ニュージーランドでリーディングを3回獲ったオールプレスは、3年ぶりに再会した藤田を「ナナコは今日も勝ったように、うまく乗っている。成長しているわね」と讃えていた。

 なお、今年のWASJ個人戦で優勝したのは、メインのキーンランドカップも制した川田将雅だった。団体戦は、5年連続JRA選抜が優勝した。

(「沸騰! 日本サラブ列島」島田明宏 = 文)