「十年一昔」とは言うが、欧州サッカーで10年、20年前の話はもう「大昔」なんじゃないかと感じる。

 21世紀初頭は日韓W杯が開催される直前ということもあって、空前の海外サッカーブームだった。ベッカムの一挙手一投足に注目が集まり、フィーゴの“禁断の移籍”やジダンの世紀の移籍による「銀河系軍団」レアルが完成。ウイイレが飛ぶように売れ、ババンギダの知名度が妙に高かったあの頃と今を比べると、各国リーグの勢力図も大きく変わっている。

「あれ、このクラブ、こんな強かった(弱かった)っけ?」

 動画配信の進化によって、久々に現在の海外サッカーを見るという人は、時の移ろいを感じているのではないか。

 順位表を見るとCL圏内くらいまではお馴染みのメガクラブが並ぶ。

 ただそこから最近はこぼれ落ちた名門だったり、その座を奪い取った新鋭クラブも意外と多い。またかつてはリーグ優勝したこともあるクラブが、1部にすらいないといったケースもあるのだ。

 そこで4大リーグ(プレミア、リーガ、ブンデス、セリエA)とその他リーグの21世紀初頭と2018-19シーズン時点での順位やタイトル等を比較して、当時と今の「成り上がり・復活」、「停滞・没落」を位置づけてみた。

オイルマネーで潤ったチェルシーとシティ。

■プレミアリーグ■

<成り上がり・復活>
チェルシー、マンチェスター・シティ、トッテナム、レスター

 今や優勝争いをしていないと騒がれるチェルシーとシティ。言わずもがな欧州サッカーを席巻したオイルマネーの象徴である。チェルシーは2003年にロマン・アブラモビッチオーナー、シティは2008年にUAEの投資グループが買収。そこからの大補強、そしてモウリーニョやコンテ、ペジェグリーニ、グアルディオラといった名将の招聘でのし上がった。

 一方で2000-01シーズンのプレミア最終順位を見ると、チェルシーは6位、シティに至っては18位で降格の憂き目にあっている。同じロンドンとマンチェスターをホームタウンとするアーセナルとユナイテッドに遠く届かない存在だったのだ。

 2クラブ以外に立ち位置を確立したのはトッテナムとレスターだろう。

 リバプールを含めた「ビッグ6」に比べれば、レスターの規模は小さい。それでも1部昇格直後の2015-16シーズンに成し遂げた奇跡のプレミア優勝は語り草だし、その後も12位、9位、9位。2008-09シーズンには3部相当であるリーグ1にいたことを思えば、エースのバーディーとともに成り上がったクラブだ。トッテナムもベイルやモドリッチらを輩出し、ポチェッティーノ監督就任後はCLの常連に。昨季のCL準優勝をはじめタイトルにあと一歩という状況だが、ケイン、ソン・フンミンらの豪華アタッカー陣を見ると、その壁を超える期待感はある。

懐かしいリーズの大躍進。

<停滞・没落>
マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リーズ

 「停滞・没落」に入れたとはいえ、ユナイテッド、アーセナルは今も世界的な人気を誇るメガクラブである。しかしユナイテッドは21世紀に入って7度のプレミア優勝、アーセナルは無敗優勝した2003-04シーズンの栄華と比べると、現状が寂しい成績なのは間違いない。両クラブとも若返りを果たす中で、かつては下に従えていたチェルシー、シティとの立場を再びひっくり返せるだろうか。

 文字通り没落したのはリーズ。若き日のリオ・ファーディナンドやキューウェルを擁してCLベスト4に入るなど、まさに大躍進だった。しかしムチャな補強のツケがたたって2部、3部と転がるように降格していった。

フォルラン、アグエロの強力2トップ。

■リーガ・エスパニョーラ■

<成り上がり・復活>
アトレティコ・マドリー

 20世紀末から21世紀初頭にかけてのリーガは群雄割拠だった。また2000-01シーズンはレアルが優勝したものの、2位はデポル、3位はマジョルカ。翌シーズンはバレンシアが優勝、2位はデポル、レアルは3位。バルサは2シーズン連続4位の屈辱を味わったのである。

 そんな中で今やバルサ、レアルに次ぐ3強の座を占めているアトレティコだが、21世紀初頭は2部でくすぶっていたのである。

 若き日のフェルナンド・トーレスの活躍で2002-03シーズンに1部復帰したが、それからの数年は中位が定位置だった。だが2007-08シーズン、ハビエル・アギーレ監督のもとでフォルランとアグエロがエースを務め、リーガ4位に入って久々のCL出場権を手にした。シメオネ監督が率いてからの規律、は鮮烈だが、彼らの奮闘を覚えている人は意外と少ないのではないか。

デポルもマラガも今や2部が定位置……。

<停滞・没落>
バレンシア、デポルティーボ、マジョルカ、マラガ

 アトレティコとは対照的に、バレンシアとデポルは2000年代中盤以降に苦しんだ。

 バレンシアは巨大な負債を抱えた2010年代に成長著しかったビジャ、ダビド・シルバ、マタ、ジョルディ・アルバを次々と放出した。もし彼らが全員いれば、3強にも太刀打ちできそうだ……。

 それでもバレンシアはシンガポールの実業家に買収されて以降は体勢を立て直しつつあるので、まだいい方かもしれない。もっと厳しい立場なのはデポルだ。

 1999-00シーズンにリーガ制覇したが、あくまでガリシアの地方クラブ。補強費をどんどんつぎ込めるわけでなく、バレロンらのケガもあって競争力を徐々に失った。

 2010年代だけを見ると、今季は4シーズン目の2部となる。「スーペル・デポル」と呼ばれた鮮烈さを知っている身としては、ぜひとも柴崎岳の活躍で1部復帰する姿を見たい。岡崎慎司が加入したマラガもデポルと同じく2部で、一時期の隆盛からは遠のいている。

 また久保建英がレンタルで加入したマジョルカは今季が7シーズンぶりの1部復帰で、CLやELで結果を残したビジャレアルやベティスも降格を経験している。バルサと両マドリー勢以外はいつ浮き沈みしてもおかしくないのだ。

13位で終えたシーズンもあったドルトムント。

■ブンデスリーガ■

<成り上がり・復活>
ドルトムント、ホッフェンハイム、ライプツィヒ

 バイエルンという大巨人に、どのクラブが挑戦権を得るか。ブンデスの構図は今も昔も変わらない。ただこの10年間で“No.2”のポジションはドルトムントで固まった。

 それもあってドルトムントを成り上がりに分類するのは、正直違和感があるだろう。しかし2001-02シーズンの優勝とその前後のシーズンの3位以降、CL圏内にすら入れない状態だったのだ。2007-08シーズンにいたっては13位にまで転落していた。

 この危機的状況に、翌シーズンから監督に就任したのは、ご存知クロップだった。その後の逆襲劇は香川真司やレバンドフスキらの大活躍を思い出せば説明不要のはず。

 クロップをきっかけに復活したドルトムントとは対照的に、一気にのし上がったのはホッフェンハイムとライプツィヒ。前者はユリアン・ナーゲルスマンという若き「ラップトップ型」監督とともに成長していった。そのナーゲルスマンは今季からレッドブルの資本で昇格し続け、昨季3位に食い込んだライプツィヒの監督に。新興勢力同士の奪い合いも、なかなかえげつない。

少しでも歯車が狂うと……。

<停滞・没落>
シュツットガルト、ハンブルガーSV

 新興クラブが台頭したのとは対照的なのは、日本人選手も多く在籍していた名門チームの苦戦だ。2006-07シーズン優勝したシュツットガルト、リーグ創設から常に1部に在籍していたハンブルガーSVが2部に沈んでいるという現実もある。経営が安定しているイメージのブンデスもやはり、少しでも歯車がかみ合わなければ転落してしまう世界である。

スキャンダルだらけのセリエA。

■セリエA■

<没落のち復活>
ユベントス、ナポリ、フィオレンティーナ、パルマ

<黄金期のち停滞>
インテル、ミラン

 申し訳ないのだが、セリエAは“仕分け”が難しいというか、特殊である。ほぼすべての有名クラブがどこかのタイミングで“没落”しているからだ。分かりやすいのはユーベ、インテル、ミランだろう。21世紀初頭はこの3強がタイトルを争う構図だったが、2006年のカルチョスキャンダルでユーベがセリエB降格、ミランはセリエAに残ったものの競争力を失った。

 このタイミングを逃さなかったのはインテル。ユーベが優勝を剥奪され、インテルの手に渡った2005-06シーズンを契機に5連覇を達成。一方でミランも2010-11シーズンに優勝し、ミラノ勢復権の時代になる……かに見えた。

 しかし2011-12シーズン、クラブの象徴であるデル・ピエーロのクラブ在籍最終年にユーベがリーグタイトルを奪還。セリエB降格の憂き目にあってもブッフォンらを手放さなかったことがやはり大きかったのだろう、セリエA8連覇につなげている。

“セリエC”からの這い上がり。

 追う立場だったはずのミラノ勢が力を失い、ここ近年ユーベに挑んでいたのは南部の雄ローマ、そしてナポリだった。特にナポリは2004年の破産宣告によってセリエC行きに。2000年代はセリエBに4シーズン、その下のセリエC1に2シーズンいた。当時から応援する熱狂的なファンでも、アンチェロッティが監督を務め、メルテンスやミリクらが名を連ねる現在の隆盛を想像できなかっただろう。

 ナポリと同じかそれ以上に波乱万丈なのは、クラブ消滅を経てセリエAに戻ったパルマとフィオレンティーナだろう。

 特にフィオレンティーナのジェットコースターぶりがすごい。2002年に経営破綻で4部セリエC2へ降格。そこから一度は這い上がったがカルチョスキャンダルでセリエBに再び逆戻り。1年でセリエA復帰し、2010年代は4度のEL出場権を確保している。昨季は16位と残留争いに巻き込まれたが、過去を思えばかすり傷程度なのかもしれない。今季はリベリーを獲得するなど、台風の目になれるだろうか。

残留争いをしていたパリSG。

 4大リーグ以外も簡単に見ておこう。

 フランスは何といってもパリ・サンジェルマンが“成金”と言えるだろう。カタールのオイルマネーが入って以降、イブラヒモビッチ、ネイマールを筆頭とした大型補強はもうおなじみだ。しかし21世紀初の優勝は2012-13シーズン。21世紀初頭はリヨンが7連覇を果たす陰で良くて中位、ひどい時には残留争いに片足を突っ込んでいたほどだった。

 オランダはAZ(2008-09)とトウェンテ(2009-10)、ポルトガルはボアビスタ(2000-01)が優勝した以外、基本的に限られた数クラブの争いであることは変わりない。

 限られたチームが覇権を争うパワーバランスが唯一崩れたのは、スコットランド・プレミアリーグだろう。

 優勝はほとんどセルティックとレンジャーズの2強で、中村俊輔がセルティックに所属した頃の宿敵、というイメージは強いだろう。しかしその一角であるレンジャーズが危機的状況にいたのだ。

 クラブは2012年に破産し、翌シーズンから4部相当のリーグに降格。2014-15シーズンには2部で3位に終わり、昇格を逃す屈辱も味わった。プレミア復帰後も2年連続で3位に終わり、スティーブン・ジェラードが監督に就任した昨季ようやく“定位置の1つ”である2位。打倒セルティックを目指せる立場に戻ってきた。

 経営状況、天才プレーヤーの加入、気鋭の指導者の登場……リーグの勢力図が変わるきっかけは様々だ。何かのきっかけでその潮流が変わるかも――そんなことを想像しつつ、週末に眠い目をこすりつつワールドクラスのプレーに驚くのも、趣深いのではないか。

(「スポーツ百珍」茂野聡士 = 文)