セリエA開幕直前の20日、“コンテ”が辞任した。

 といっても、職を辞したのはインテルの新指揮官アントニオ・コンテではなく、同姓のイタリア共和国首相ジュゼッペ・コンテだ。

 内閣内部の不和は限界に達した。連立政権再編か解散総選挙か、地中海の長靴の形の国の政治的混乱は続く。

 そして、何の波乱もなく8年が過ぎたセリエAの覇権争いにも、今季は混戦の気配が漂う。スクデット9連覇を目指す絶対王者ユベントスに、最強の挑戦者インテルが立ちはだかるからだ。

 今季のインテルは、これまでのライバルたちとは格段に危険度がちがう。

 何しろ新監督に就任したコンテは、8連覇の端緒となった2011-12年シーズンのユーベの優勝監督であり、現在よりはるかに劣った戦力でその後リーグ史上最多勝ち点記録を含む3連覇を達成した名将だ。

 コンテ招聘に尽力したのは、これもユーベの敏腕フロントだったマロッタCEOで、彼は今夏の移籍市場で2億ユーロ規模の巨大補強を次々に敢行。

 マンチェスター・ユナイテッドからクラブ史上最多の移籍金総額7500万ユーロを投じて獲得したFWルカクを筆頭に、元A・マドリー主将のDFゴディン、イタリア代表MFバレッラ(前カリアリ)ら実力者が次々に補強された。

 戦術ベースも昨季までの4-2-3-1から3-5-2へ変更され、気の緩みを一切許さない闘将によってインテルの戦いぶりは一変する。

王者の裏の裏まで知るコンテ。

 何より“老貴婦人”が恐れるのは、敵将となったコンテがOBとしてユーベの裏の裏を知り尽くすだけでなく、長いシーズンをどう戦うかといった戦略やノウハウに長けるエキスパートであることだろう。

 ミラノに着任し、今季の目標を問われたコンテは8年前と同じ言葉を掲げた。

「限界は作らない。私のチームはいけるところまでいく」

 つまり、闘将は“優勝のチャンスありと見れば俺は逃がさんぞ”と言っているのだ。

 潤沢な“南京マネー”によってクラブの経営基盤は年々増強されている。9年ぶりの王座奪還へネラッズーロ(黒・青)の野心は膨らむ。

貪欲に補強する王者ユベントス。

 だが、この8年間、あらゆるライバルを蹴落としてきた常勝軍団ユーベも、ただ手をこまねいてシーズンに臨むわけではない。

 指導者としてセリエAでは前人未到の個人5連覇を成し遂げながら退任した名将アッレグリの代わりに、昨季のELを制したサッリ監督(前チェルシー)を招聘、9連覇とCL優勝を目指す。

 サッリは2シーズン前にナポリを率いる敵将として、優勝まであと一歩のところまで王者を追い詰めた。かいた冷や汗はユベンティーノたちの記憶にまだ新しい。

 フロントは今夏も貪欲に動いた。

 守備陣に昨季CLで敗れたアヤックスの主将デリフトとSBダニーロ(前マンチェスター・シティ)を加え、中盤にはMFラビオ(前パリ・サンジェルマン)とMFラムジー(前アーセナル)を補強。

 欧州の一線級で増強された新チームは、セリエA得点王と6個目のバロンドールを目指す惑星最高の男C・ロナウドとともにサッリ流の4-3-3へ順応を図る。

時間が必要なサッリスタイル。

 不安要素は、サッリ自身が危惧している通り、彼の要求する高連動・高機動サッカーの習熟に時間がかかることだ。

 いずれも3シーズンを率いたエンポリとナポリでも顕著だったが、チームが攻守のメカニズムを完全に会得するには最低でも数カ月を要する。

 プロ選手経験がなく、地方クラブ生活が長かった無頼の指揮官サッリは、欧州の最上流クラブであるユベントスの価値観とは言葉遣いから着る物まで正反対の人間だ。クラブの伝統とサッカー観の異なる人材をあえて招いたフロントの英断は称賛すべきだが、一方で内部衝突のリスクも孕む。

 新しいサッカーをモノにするか、その前に自壊するか。王者ユーベは今季も泥臭い戦いに臨む。

初CLアタランタは戦力維持に成功。

 国内に敵なしだったユーベを昨季のコッパイタリア準々決勝で完全に叩きのめし、ジャイアントキリングを起こしたのが、地方クラブの星アタランタだ。

 3-0の完勝で王者の大会5連覇の夢を打ち砕いた彼らは決勝戦で敗れコッパのタイトル獲得こそならなかったが、セリエAで3位を奪取、今季はクラブ史上初のCLにも挑む。

 リーグ最多77得点を挙げたチームは移籍市場での引き抜き攻勢を耐えしのぎ、戦力維持に成功。

 4年目の戦術家ガスペリーニによる攻撃サッカーは90分間見応え満点で、あらゆるチームにとってアタランタ戦は鬼門になるだろう。

新体制で挑むミラン、ローマ。

 上位陣のうち、昨季5位のミランと6位ローマは、いずれも監督交代に踏み切った。

 昨季のレジェンドOB監督ガットゥーゾは守備に特化したチームでCL出場権を逃し、レオナルドTDとともに辞任。

 新たにTDに就任したマルディーニとフロント入りしたかつての盟友ボバンは、攻撃サッカーで脚光を浴びたサンプドリアの監督ジャンパオロを引き抜いた。

 昨季、36歳のベテランFWクアリアレッラに得点王をとらせた智将ジャンパオロは、サッリやガスペリーニ同様、ボールをもって主導権を握り、積極的に仕掛けるスタイルの指導者だ。エースFWピョンテクをワールドクラスのストライカーに育て上げつつ、聖地サン・シーロを熱狂させるチームを構築できるか。

 ローマはセリエA初挑戦のポルトガル人監督フォンセカを招聘した。

 永遠の都から主将デロッシが去り、トッティもフロントを去った。端境期を迎えたクラブにあって、むしろ何のしがらみもないフォンセカが思うままに采配を取れれば、欧州のトップクラブに一泡ふかせてきたシャフタール・ドネツク時代の再現も夢ではない。

 もちろん、監督続投路線をとった昨季2位のナポリと7位トリノ、8位ラツィオも侮れない。彼らも昨季に劣らぬ戦力を揃え、開幕への態勢を整えた。

冨安のセリエAデビュー。

 今季のセリエAには久しぶりに日本人プレーヤーも帰ってきた。

 日本人初のセンターバックとしてボローニャへ入団したDF冨安健洋は、昨季10位と躍進したチームでEL出場圏を目指す。

 C・ロナウドやルカクといった世界的ストライカーが眼前に立ちはだかり、鉄人キエッリーニ(ユベントス)やリーグ最強DFクリバリー(ナポリ)ら世界最高峰のセンターバックと比較されることが彼の日常になる。

 東京五輪のプレシーズンに、冨安は守備の国の真髄を知るだろう。

10年前、ユーベ8連覇を誰が予想できたか。

 今季は開幕早々、2節で「ラツィオvs.ローマ」と「ユベントスvs.ナポリ」のビッグマッチが実現する。

 4節の「ミランvs.インテル」の後、7節で「インテルvs.ユベントス」が組まれるなど、シーズン序盤から見逃せない目玉カードが目白押しだ。

 タイムマシンに乗って10年前に遡ってみよう――。

 モウリーニョに率いられ、3冠を達成しようとするインテルの黄金時代当時だ。「そう遠くない未来にユベントスが8連覇する」といったら、大笑いされるだろう。アタランタがCLに出る、といってもやはり狂人扱いされたにちがいない。

 時代は変わる。主役たちの顔ぶれが変わり、覇権も必ず動く。

 イタリア半島の夏が終わり、人々の頭から前の首相の名が遠ざかる頃、今季もセリエAの幕が開く。

(「セリエA ダイレクト・レポート」弓削高志 = 文)