夏の高校野球をスポーツ紙はどう伝えたか。

 まずは決勝戦前の履正社の練習について。 

『奥川剛球イメトレ完璧 履正社 攻略へ巨大スクリーン投影』(日刊スポーツ8月22日)

《ナインの目の前には、映画が見られるほどの巨大スクリーンがあった。そこに映し出されていたのは、“バーチャル奥川”。(略)衝撃度満点のアップ映像だった。そんな迫力映像を前に、45分間全員でバットを振り込んだ。》

 この練習のどこに注目かって「スポーツ紙映え」もしてるところだ。このド派手感、わかりやすさ。スポーツ紙と高校野球の相性の良さを再確認。

 特訓の効果もあったのだろう。履正社は今春のセンバツ、6月の練習試合で完敗した星稜のエース奥川恭伸投手にリベンジ。

スポーツ紙のピークは智弁和歌山戦。

 その星稜、各紙に載った松井秀喜さん(星稜OB)の言葉がよかった。

《今までの星稜だったら、智弁和歌山に負けて終わり。甲子園での死闘は必ず敗者になった。あの試合に勝てたことは、今までの星稜の歴史を変えてくれたと思います。》

《でも、ここで優勝できないのが、星稜。母校のそういうところも大好きです。》

 松井も言及した星稜と智弁和歌山の一戦(17日)は、スポーツ新聞的にもピークの1つだった。

延長14回タイブレークの末に星稜がサヨナラ勝ち。奥川投手は165球を投げ、23三振を奪う。

 翌日1面で報じた新聞を並べてみると、

『涙の甲子園新伝説 奥川23K』(スポニチ)

『涙!感動の165球!新伝説生み出した 奥川』(デイリー)

『奥川に泣けた 23K 154キロ連発』(日刊スポーツ)

『泣いた 耐えた 十四回タイブレーク 奥川23K』(サンスポ)

『右脚つっても165球投げきった 奥川23K』(東京中日スポーツ)

「涙」と「感動」がここに集結!

“差し入れ”に対して高野連は……。

 気になるのは『右脚つっても』(東京中日)というくだり。

 延長11回、奥川投手は暑さで右脚がつった。猛暑の甲子園。この試合を中継するNHKの画面には熱中症に注意する呼びかけがテロップでも同時に出ていた。なんともシュールな中継画面だったのだが、奥川投手にも暑さが襲ったのだ。

 この様子を伝える各紙を読むと、あるエピソードがあったことを知る。奥川投手が足をつった直後の11回裏。 

《熱中症防止に効果があるという漢方の錠剤を渡された。攻守交代時、智弁和歌山の黒川主将から「奥川に」と託されていた。》(日刊スポーツ)

 相手の智弁和歌山から奥川に漢方の錠剤の差し入れがあったという。

 この美談に『ライバルの心意気、友情…エンジン再点火には十分だった。昨今の球数制限の議論など超えた次元でのぶつかり合いがあった』(日刊スポーツ)、『試合中“敵から塩”』(スポーツ報知)と各紙沸き立ったが、私が注目したのはここ。

 日本高野連の竹中事務局長は「試合中に渡したのはフェアプレーでたたえられること」と語りつつ、

《奥川選手はこれから世界に羽ばたいていく選手。アンチドーピングのこともあり、薬を安易に服用するのはよくない》(スポーツ報知8月18日)

 カ、カテエ……。そもそも奥川投手は酷暑の甲子園でこういう事態になったのだが……。

「高校野球大会」を擬人化するなら「おじさん」。

 スポーツ紙の「美談」に、高野連の「説教」。そして試合にドキドキしながらも涼しい部屋でテレビ観戦してる私のような視聴者の「気まずさ」。

 高校野球には伝統と規律が醸し出すゆえの“最後の大ボケ感”がある。時として大ボケはダイナミズムを生む。だからこそツッコまれ、でも一方で愛される。

 しかしさすがに最近は「大ボケ」「天然」を楽しんでいるだけじゃダメだよね、と皆が考えるようになってきた。

 決勝前に休養日を設けることに関してサンスポのコラムが次のように書いていた。

《オールドファンには違和感もあるだろう。これも時代の流れで健康管理に世間の目も厳しくなった。休養日に続き「高校野球では邪道」といわれながらも昨年からタイブレークを導入。(略)異論はもう聞かれない。100回大会の昨年を境に少しずつでも変化が感じられる。》(「甘口辛口」8月22日)

 高校野球はその名の通り高校生が主役だ。しかし高野連や主催新聞社などによる「高校野球大会」を擬人化するなら「おじさん」だと私は思う。しかも頭がカタいおじさん。

 でも令和の時代、アップデートしていかなくてはいけないのは「おじさん」だ。高校野球が“少しずつでも変化が感じられる”のは良いことではないか。

あの錠剤を渡した球児とは……。

 さて先ほどの「奥川への智弁和歌山からの差し入れ」話だが、実はこんなオチがあった。

『「球児の友情」のウラに“球児アリ”』(8月19日)

 これはデイリースポーツの「トラ番25時」というコラム(和田剛記者)。

「実はあの錠剤は球児が中谷監督に差し入れしたものらしいですね」

 ……球児が差し入れって当たり前じゃないか?と思ったら、ここで言う球児とは「阪神・藤川球児」だった!

《智弁和歌山の中谷監督は元猛虎戦士。阪神で1年後輩に当たる藤川球児がチームへ差し入れしたという。》(デイリー・同)

 なるほど。だから記事冒頭に「球児同士の敵味方を超えた友情秘話の裏には“球児”の存在があった」と書いたのか。でもややこしい!

 しかしこれぞ「美談の真相」である。トラ番記者だからこそ仕入れた情報だ。スポーツ紙のこういう小ネタが大好物です。

ゆで卵好きの坂東英二は?

 最後に。

 奥川投手のスケールをどう例えるかが各紙興味深かった。

『中谷監督 奥川に脱帽 「田中将大のようだった」』(デイリー8月18日)

 智弁和歌山の監督は「田中将大」。

『低め直球伸び 松坂みたいだ』(スポーツ報知8月18日)

 元・横浜高校監督の渡辺元智氏は「松坂大輔」。

 そしてスポニチは、

『奥川は半熟卵 板東英二』(8月18日)

《完全な煮抜き(固ゆで)卵になるまで、大人が割らないよう見守ってあげて》

 ゆで卵好きの板東英二が登場。実は板東さんは夏の甲子園の奪三振記録保持者でもある。奥川の活躍はこんなレジェンドまで引っ張り出したのだ。

 板東英二さんとともに奥川投手の大成を願いたい。

 以上、「月刊スポーツ新聞時評」高校野球読み比べでした。

(「月刊スポーツ新聞時評」プチ鹿島 = 文)