W杯の前哨戦として、8月12日からニュージーランド、アルゼンチン、ドイツ、チュニジアと国際試合を戦っているバスケットボール男子日本代表。

 14日に行われたニュージーランドとの2戦目は、八村塁、渡邊雄太、ニック・ファジーカスの3選手が同じコートに立ち注目を集めたが、試合は87-104で敗北した。

 日本のエースを担ってきた比江島慎は、約20分のプレータイムで9得点、1アシスト、1スティール。強化試合ならではの試験的な選手起用があったとはいえ、W杯予選で見せていた相手を翻弄する縦横無尽のドライブや、1対1から相手を崩してファウルももらう3点プレーなど、点取り屋・比江島の姿はなりをひそめていた。

 本人も試合後に「ニックや(八村)塁を生かそうとしすぎた。満足のいく試合ではなかった」と話した。

 その一方で、前向きな言葉もあった。

「(八村・渡邊・ニックの)3人と一緒にコートに出るのか、交代して出るかで自分の役割は変わるが、僕が攻撃の軸としてチームを引っ張る意識でやっていきます。これから身長の大きな相手と当たる中で、自分の役割は増えてくると思う。(今回の結果に)下を向く必要はないし、W杯までにギアを上げていきます」

 比江島が1年前からスタートしたタフな海外挑戦の経験は、W杯本戦に向けて目線を前に向かせているようだ。

昨季は栃木でプレー、代表でも活躍。

 昨年8月、比江島は6シーズン在籍したシーホース三河を離れ、オーストラリアのブリスベン・ブレッツへ移籍した。しかし、ほとんど試合の出場機会がないまま約5カ月でチームを解雇され、Bリーグ2018-19シーズンは途中加入した栃木ブレックス(現・宇都宮ブレックス)でプレーした。

 Bリーグと並行して開催されたW杯予選では、4連敗中のチームで孤軍奮闘し、21年ぶりの本大会出場に大きな役割を果たしている。

 その後、6月にNBAダラス・マーベリックスとニューオーリンズ・ペリカンズのミニキャンプに参加したのち、ラスベガスで開催されたサマーリーグに出場。この1年間、海外で戦い続けてきた比江島はサマーリーグで何を考え、何を得て、W杯直前のいま何を思うのか? 代表合宿に参加中の比江島に、話を聞いた。

ミニキャンプは「もっとできた」

 質問の答えをじっと考えて、ゆっくり話す。言葉を選ぶときに、すっと上を向いて考える。インタビューの応じかたも、穏やかな雰囲気も、いつもと変わらない。しかし、どこか吹っ切れたような、気負いのない表情がいつもとは違う。

 それは、もう前しか向かないと決めたような、すっきりした表情だった――。

 5月30日、比江島はNBAダラス・マーベリックスのミニキャンプに参加すると発表した。6月5日の渡米前からワークアウトを開始し、6月16日から始まるミニキャンプに向けて準備をしていた。

「最初はミニキャンプに参加できればいいかな、くらいの気持ちでアメリカに行きましたが、ゲーム形式のミニキャンプに参加するうちに、サマーリーグに出たくなってきた。ゲームをするのが本当に楽しくて、こんな選手たちと試合のできるサマーリーグに出たいという気持ちが芽生えてきました」

 ミニキャンプに参加するのは、NBAを目指す若手や新人選手が多い。当時28歳の比江島は体格の差に加えて、年齢差にも悩まされた。

「マーベリックスでは自分の得意なプレー、ドライブからのシュートとかを見せることに集中していました。実際にキャンプに参加して、自分は通用すると感じていました。

 ただ、僕の年齢だと周りの選手を圧倒しないといけない。突出したスキルを見せるとか、リーダーシップもアピールしなければいけないと思っていた。もっともっとミスを恐れずに、自分が(サマーリーグのロスターに)選ばれるために積極的にいけばよかった。もっとできた、というのが正直なところです」

「劣っているとは思わなかった」

 マーベリックスのミニキャンプ参加後すぐに、比江島はペリカンズのキャンプにも参加した。そこでは、マーベリックスとは違った役割を与えられたという。

 チームは、7月にNBA屈指のベテランシューターJJ・レディックと契約しており、比江島はレディックとチームの状況を冷静に見ていた。

「ペリカンズでは、ドライブよりも僕のシュート力を見込んでくれました。たぶん、チームはシューターが欲しかったと思うんです。ペリカンズは、同じ時期にJJ・レディックと契約しているので、シューターを見極めたいというのがチームとしてあったと思う。僕は、Bリーグや日本代表で確率よくシュートを決めていたので、キャンプではそこを見てくれていました。

 周りはNBAでドラフトされるような選手たちばかりで、やっぱり練習を一緒にやっていても上手かったけれど、練習ではけっこうやれました。周りと比べて自分が劣っているとは思わなかった」

「サマーリーグはめちゃくちゃ嬉しかった」

 そして7月2日、ペリカンズから発表されたサマーリーグのロスターに、比江島は名を連ねた。ペリカンズにはNBAドラフト全体1位のザイオン・ウィリアムソンが在籍しており、今季もっとも注目が集まっているチームでのサマーリーグ参戦だった。

「サマーリーグに出られると分かって、めちゃくちゃ嬉しかった。単純にもう、NBAという最高峰の舞台で、これからスター選手になる人たちとバスケができる。しかもペリカンズですよ! 全米・全世界が注目している試合で、ドラフト1位の選手と同じチームでやれるんだって、もーう! 相当興奮しました」

 比江島のサマーリーグデビューは、7月6日に行われたニューヨーク・ニックス戦。ザイオンと大学のチームメイトだったRJ・バレットが対戦する注目の試合で、1万8000人収容の「トーマス&マック・センター」は観客で埋め尽くされていた。

ペリカンズで求められた役割。

「もう、今までに味わったことがない、すごい雰囲気でした。バスケの国の独特の雰囲気があって、素晴らしい選手と一緒のコートにいて、すごく緊張したけれど楽しかった。

 チームからは、ザイオンのマークマンを引きつけて、僕がボールをもらってスペーシングをして打つというのを言われていました。シューターの役割は少し難しかったというか……スピードのある大きな選手たちが高い身体能力でチェックにくるし、ディフェンスの間合いが日本やヨーロッパと違うから、今までとは違うボールをもらうまでの動きや、クイックリリースのシュートが求められる難しさはありました。楽しもうと思っていたけれど、1試合目は特に緊張して、何もできなかった」

 ペリカンズはサマーリーグで6試合を戦い、比江島はそのうちの3試合に出場した。

 最後の出場になったクリーブランド・キャバリアーズ戦では1Q途中から約5分間出場し、積極的に3Pシュートを打ちにいったが得点することはなかった。3試合の合計プレータイムは約12分、6本のシュートを放ち、無得点に終わった。

「1本でもシュートが入れば良かったのですが、1本でも入れば、だいぶん気持ちも楽だったと思うし……。それが自信にもなったと思うのですが」

3試合無得点に、落ち込んだが……。

 今年のサマーリーグは比江島、八村、渡邊、馬場雄大の4人の日本人選手が参加した。これは多くの日本人に、サマーリーグで複数の日本人選手を応援することの楽しみを与え、Bリーグからサマーリーグに参加できる可能性を切り拓いた出来事でもあった。

 比江島は確かにそのうちの1人であったし、日本からも多くのファンが応援していただろう。しかし、比江島に届いていたのは、また別の声だった。

「皆さんのサマーリーグの見方が、出るからには活躍しないといけないというか、(活躍しないと)叩かれるじゃないけれど……けっこういろんな声が聞こえてきて、ショックでした。他の3人と比べて、彼らがすごい活躍をするから、プレッシャーもあった。3試合に出て、得点できなくて、気持ちは落ちていました。

 そのタイミングで、(宇都宮ブレックスHC・安齋)竜三さんが来てくれて、気楽にシュート1本でも決めてくればいいよって言ってくれて、気持ちは楽になりました」

「絶対にアメリカに行って良かったんだって」

 サマーリーグの無得点は、日本で陽のあたるバスケの道を歩んできた比江島にとって、かなり悔しい思いをした経験だっただろう。しかし、この1年間、どんな状況にあっても努力を積み重ねてきた日々は、比江島の心を強くしていた。

「サマーリーグが終わって、気持ちをW杯に切り替えました。日本に帰ってきてすぐに代表合宿が始まったので、もう、下を向いていられないというか……。

 W杯のアメリカ戦はすごい雰囲気になると思うので、サマーリーグの雰囲気を経験できて良かったし、アメリカ代表がやってくるだろうNBA最高峰のオフェンス・ディフェンスシステムを学んで経験ができた。サマーリーグは普通では経験できないことなんだから、絶対にアメリカに行って良かったんだって、そう思うしかないじゃないですか? そう思うようにしています」

 サマーリーグのプレーについて、落ち込むこともあるのだろう。しかし、落ち込むのは全てをやりきったあと、落ち込む以外にもう何もできなくなってからでいい。そして、比江島のそのときは、ずっとずっと先のことだろう。

「今は、だいぶんイイっす、イイんすよ」

 ブレッツ移籍から走り続けてきた比江島は、このタフな1年間で何を学び、得たのか?

「いろんな経験をしてきたので、今は余裕を持ってプレーできていると思います。ブレッツ、ブレックス、ペリカンズそれぞれにディフェンスは違うし、実際にやってみたからこそ、ロスのないボールリリースとか、もっとクリアなステップの踏み方など、大きな相手に対してどんなふうに攻めたらいいのか分かった。

 なによりも、レベルの高いところでやると自信になります。W杯(2次予選アウェーの)イラン戦も、言い方は悪いけれど、オーストラリアの高いレベルでやったからこそ『こんなやつらに負けるわけがない』、『僕を抑えられるわけがない』って思えたんです」

 海外で様々な経験を積んだからこそ得られる自信がある。自分は海外を相手に戦えるのだという自信が成長につながり、それが日本代表のためになる。その自信が、比江島に変化をもたらしているのに違いない。

 だが、気負いのない表情の理由は、もう1つあった。

「日本代表として国を背負う重圧があって、たぶんみなさんが思っているよりもそれを背負ってきたというか……、僕の中では責任を持ってやってきました。

 今回、2人の現役NBA選手が入ってきてくれたので、少し肩の荷をおろすというか、もちろん日本代表を背負う気持ちは忘れていないし、責任を持って戦うのですが、以前よりはリラックスしている状態です。今は、だいぶんイイっす、イイんすよ(笑)」

代表は目標であり、道しるべ。

 すっきりと前を向いて歩き出した比江島の目の前に、まずは1年間の集大成ともいえるW杯がある。

「日本代表は、プロバスケ選手をやっている以上はそこを目指さないといけないものだと思うし、そこに選ばれるために、そして、選ばれたら結果を出すために、Bリーグや海外で成長しないといけないと思う。代表になったら、いろんなプレッシャーや責任を背負わないといけないけれど、海外の選手と試合ができる場はなかなかないので、プレーをしていて楽しいです。

 僕にとって代表は、目標だし、道しるべみたいなもの。来年のオリンピックまでは、代表活動を中心にしっかり考えながらやっていきたいと思っています。僕は日本代表のために、今の人生を捧げているんです」

 日本はW杯1次ラウンドで、トルコ、チェコ、アメリカと対戦する。この1年間、自分で選んだ海外挑戦の道を信じてやり抜いた比江島は、すべてをかけて試合に臨む。

 八村にマークが集中したときは点取り屋になる。日本が高さで劣るなら磨いてきた突破力でボールを運び、八村・渡邊・ニックとのケミストリーで得点する。

 そんな覚醒した比江島のプレーがW杯で見たい。そう願っているファンは多いはずだ。

(「バスケットボールPRESS」石川歩 = 文)