夏の王者はサンフレッチェ広島。

 8月17日、広島はアウェーで首位のFC東京を破り、4位に浮上。6月14日の湘南ベルマーレ戦以来、J1では9試合無敗(5勝4分)を続けている。

 東京戦の広島は、とても賢い試合運びを見せた。

 サイドで起点を作ると、その周りにトライアングルを作ってパスコースを確保。しっかりとボールをつなぎながら、全体を押し上げていく。東京があっさりと引いていたこともあって、前半はほとんどハーフコートマッチのようになった。

 ハーフコートマッチというと、再三シュートを放った印象を受けるかもしれない。だが実は、前半のシュート数はわずか1本だった。実に奇妙なスタッツである。

まるでゴールのないミニゲーム。

 東京が厳しい守備をしたのかというと、そういうわけではない。広島はただひたすら、ボールをつないでいたのだ。敵のペナルティエリアが近づいても、ゴールを狙わず、横や後ろへの確実なパスを選択する。

 まるでゴールのないミニゲームを見ているかのよう。思わず「たらたらしてんじゃねーよ!」と言いたくなる、冒険しない試合運びだ。

 だが、理解できるところはあった。

 この夜の気温は32度。風もほとんどなく、うだるような暑さだった。この暑さでは、リスクを最小限に抑え、確実性を重視した省エネサッカーが正解。下手に攻め急ぐと、ボールを失って守りに奔走しなければならないからだ。そうなると体力が奪われる。

 敵陣で淡々とつなぐ広島の試合運びを見て、ふと思い出したチームがある。この夏、日産スタジアムで横浜F・マリノスと対戦したマンチェスター・シティだ。

シティのサッカーと通じるもの。

 ジョゼップ・グアルディオラが鍛え上げたチームは、変に攻め急いでボールを失うようなことはしない。前にボールを運んでも、その先が厳しければ、無理をせず後ろや横にいる「いい体勢」の味方に預ける。

 ゴールから一度は遠ざかったとしても、いい体勢の味方に預けることで、ゴールへの手順は進んだという考えかただ。勝負をかけるのは、残り1/3に入ってから。そこまでは素早く丁寧にパスをはたいて、全体を押し上げていく。

 もちろん、シティと広島ではクオリティは異なる。だが、リスクを冒さず、安全な道を選ぶという考え方は相通じるものがあった。

シュート2本で獲った勝点3。

 後半も「動きの少ない一方的な展開」は続き、61分、広島に突然ゴールが生まれる。

 敵陣右サイドから3本の横パスがつながり、左サイドの柏好文に渡る。柏が1対1になったところで、横にいた川辺駿が同サイドの縦に流れ、ここに縦パスが通る。

 横、横、横と来て縦。いままでになかった、リスクを負ったプレーだった。東京の注意が川辺に集まったところで、柏はペナルティエリア左にできたスペースに走り込み、リターンパスをそのままフィニッシュ。ニアサイドを打ち破る。

 広島は、たった一度のチャンスを確実に仕留めた。

 彼らは、この試合2本目のシュートをゴールに結びつけた。そしてこれが、広島の最後のシュートになる。シュート2本で1-0。終盤のカウンターからのチャンスは逃したが、広島は省エネサッカーで勝点3を手に入れた。

 盛りは過ぎたが、猛暑はもうしばらく続きそうだ。広島が見せた、冒険しない確実性重視の省エネサッカーは、夏を乗り切るひとつのヒントになるのではないか。

術中にハマった首位FC東京。

 最後に、敗れた東京について触れる。

 彼らはまんまと広島の術中にはめられた。意図的にたらたらした広島のペースに巻き込まれ、気がつけば先制されていた。失点したことでようやく反撃に転じたが、チャンスはつくれず、逆にカウンターから何度もピンチを招いた。

 広島のシュート数2本に対して、こちらもわずかに5本。これはもちろん、狙った数字ではない。依然として首位を走っているが、相手の意図を読んで、相手のリズムを壊し、主導権を引き寄せるということができない。

 優勝争いはまだまだ波乱含みだろう。

(「JリーグPRESS」熊崎敬 = 文)