「これ、何を書いたらいいか、わからないですよね」 

 外は38度。8月の深谷ビッグタートルは立ち見も出るほど多くの観客が押し寄せる盛況ぶりであったにもかかわらず、パソコンを手にした記者からは思わずそんな言葉が漏れる。女子バレーボール日本代表が出場するワールドカップ前の貴重な公式戦。6月のネーションズリーグからどれほどの変化や進化を遂げたのか、9月に開幕するワールドカップ、さらには来年の東京五輪へ向けた現在地を見定めるいい機会のはずだった。

 だが現実はといえば、ネーションズリーグで厳選されたメンバーに加え、荒木絵里香や昨季はルーマニアリーグでプレーした田代佳奈美、井上琴絵と、昨秋の世界選手権出場選手が加わった日本(世界ランキング6位)に対し、対戦したチャイニーズタイペイ(同33位)は若手主体。直前まで24カ国によるオリンピック最終予選が開催されたため、ランキング上位国とのマッチメイクが難しい時期だということは分かるが、サーブだけで連続失点を喫する相手では、試合前までははしゃいでいたのに居眠りをしてしまう子供の姿もちらほら。いくら親善試合とはいえ、間もなく始まるワールドカップへの準備にするには、あまりにレベルが違った。

日本代表は何を重視していたか。

 いささか拍子抜け感は漂っていたが、それでも貴重な実戦の場。どんな相手だとしても、やるべきことはある。中田久美監督も「何ができた、できなかった、というよりも前に、まずこの試合はネーションズリーグからここまで練習してきた成果が発揮できるか。その点に重きを置いていた」と語った。

 ワールドカップに向け、日本代表は何を重視していたか。

 7勝8敗。9位で終えたネーションズリーグで把握できた、克服すべき課題はいくつもある。そのなかの大きな1つが攻撃の偏向だ。圧倒的な攻撃力を誇る選手を擁するわけではない日本が、より効率的に得点を取るには特定の1人の選手や決まったポジションからだけでなく、どんな場所からでもいくつものパターンの攻撃を展開することが不可欠となる。

ミドルからの攻撃本数を増やす。

 日本には「ミドルからの攻撃本数を増やす」という長年の課題がある。

 ネーションズリーグ序盤や、その前のモントルーバレーマスターズでは、セッターにミドルからの攻撃展開を得意とする関菜々巳を起用したが、中盤からはほぼすべての試合で佐藤美弥に任せた。

 Vリーグではミドルを絡めた攻撃展開を得意とする佐藤だが、世界を相手にすればブロックの高さやシステム、サーブの精度や威力も違う。セッターが待つポジションから、ほぼ動かずトスを上げるAパス時なら多彩な攻撃展開ができても、アタックラインやその後方、サイドラインを割るような位置に返るBパス時にはレフトへトスが偏り、ブロックに屈する場面が少なからず見られた。

「エース」からだけの攻撃では……。

 ネーションズリーグでは攻守の要として主軸を担った石井優希や、黒後愛、古賀紗理那といった「エース」と称される選手を擁したが、いくら攻撃力があるとはいえ「ここからしか打ってこない」となると、ブロック、レシーブを相手に揃えられて、得点を取るのは容易ではない。ならば古賀が「(セッターにきれいな)パスを返そう、というのは一番にあるけれど、なかなかそういうシチュエーションばかりにはならないので、(崩されたときに上がる、高く大きいトスの)ハイセットをどこに決めようか、と切り替えるようにしている」と言うように、重視すべきは「いかにパスを正確に返すか」よりも「崩れた状況からでもいかに攻撃を展開できるか」であるはずだ。

 チャイニーズタイペイとの親善試合でスタメン出場した田代はこう言った。

「ネーションズリーグを見ていて、ライトゾーンからの攻撃、ミドルやバックアタックがまだ少ないと感じていました。Bパスになるとレフトが多かったので、Bパスからでもミドルの(片足で踏み切る)ワンレッグを使う。そこにプラスして(新鍋)理沙の速いライトがあれば相手も嫌だと思うので、パスが返った時だけでなく、理沙を積極的に使うよう意識しました」

パスが乱れた状況でのバリエーション。

 田代の言葉にあるように、序盤から新鍋、ミドルの荒木、芥川愛加、さらにサイドアウト時やラリー中も石井、黒後のバックアタックを積極的に使う姿勢を中田監督も「パスも返っていたし、まず使おうという姿勢が見られたことはよかった」と評価した。

 攻撃のパターンを増やすために、さまざまな場所からの攻撃回数を増やす。それは課題克服に向け、1つのステップであるのは間違いない。

 だがもう少し視野を広げるならば、いかに同じタイミングで、さまざまな場所から攻撃を展開するか、さらにパスが乱れた状況でもどれだけ攻撃のバリエーションを持つことができるか、というのも日本代表にとって大きな課題であるはずだ。特に新鍋が後衛に下がると、攻撃準備よりも守備面のフォローを重視するため、さらに攻撃枚数が減り、必然的に攻撃場所が偏る。

より確実に得点するために不可欠なこと。

 ボールを落とせば終わり。

 至ってシンプルなバレーボールにおいて、ディフェンスはもちろん重視されるポイントで、レシーブ力が日本の武器であるのも間違いない。だが、より確実に得点するためには、個々の技術の精度を高めるだけでなく、攻撃枚数を増やすことは不可欠だ。

 それを同じチャイニーズタイペイに対し、わかりやすい形で見せたのが、8月18日に開幕したアジア選手権日本代表チームだった。7月のU20世界選手権で優勝したメンバーに加え、ネーションズリーグにも出場した関、長内美和子、中川美柚といった若手主体のチームは、実に多彩な攻撃展開を見せた。

 レフトに入る長内と、その対角の吉野優理、オポジットの中川。アウトサイドヒッターの3人は前衛、後衛に限らず常に助走し、攻撃準備に入る。

 また異なるメンバーの時でもセッターが前衛の際はミドルの平山詩嫣がセッター前方からのA、Bクイックだけでなく、ライト側で大きく開いて、レフトの石川真佑や西川有喜と同じタイミングで攻撃に入る。さらにオポジットの曽我啓菜が前衛、後衛とポジションが違っても常に積極的な攻撃姿勢を見せることでさらにバリエーションも増え、相手のディフェンスに迷いが生じる。

U20世界選手権MVP・石川の言葉。

 一斉に、さまざまな場所から攻撃展開し、それを全員が決める。同様のスタイルで世界を制したU20世界選手権で主将を務め、MVPも受賞した石川はこう言った。

「曽我が後ろからフェイクで攻撃に入るのを見せるだけでも、相手のブロックが遅れるし、常に全員がバックアタックへ入る準備をすればブロックは分散する。アタッカーとしては、自分に集めてもらって本数を打つ中で調子が上がることもありますが、常に攻撃枚数があればそれだけチームの武器になる。分散した中でも、上がってきたらそこで確実に決め切る。それが、これからに向けた自分の課題だと思っています」

 U20が達成した快挙を見れば、多少パスが乱れても攻撃枚数を増やすことが世界と戦ううえで第一の策であるように思えるが、チームによって戦力や戦術が異なり、同じパターンがA代表を含むすべてにあてはまるとは限らない。

 セッター対角に守備のスペシャリストとも言うべき新鍋が入れば、サーブレシーブやディグ、つながるボールの本数が増えるのは事実である。ネーションズリーグ後のオランダとの親善試合では黒後がオポジット、石井、古賀がレフト対角に入る試合もあったが、田代は「セッターとしては理沙が入って守備が安定するほうが組み立てやすい」と述べた。

「安心させるとチームが締まらない」

 何が正解か。その答えは結果でしか証明されない。

 試行錯誤の時期を終えた今、その結果を示すべき場所が今秋のワールドカップだ。

 昨年、一昨年と国際大会が行われながらもセッターは定まらず、周囲から疑問の声が上がるたび、中田監督は「早く固定して安心させるとチームが締まらない。最後まで切磋琢磨させるためにもあえて絞らなかった」と言ってきたが、東京五輪へ向け、ワールドカップではセッターを定め、現在は5名いるミドルブロッカーも絞ると明言している。

 すでに五輪出場を決めたブラジル、中国、セルビア、アメリカといった国々がワールドカップにどんなメンバーで臨むのかはわからない。だが、日本にとって来る五輪を見据えた正念場であることに変わりはない。

 どんな戦い方が、これからの日本の正解なのか。あまりに格下との、わずか1時間程度で終わった親善試合では得られなかった「期待」を、ワールドカップでは抱かせてほしい。

(「バレーボールPRESS」田中夕子 = 文)