「NOT FOR EVERYONE」

「誰にでもやれることじゃない」

 インテルが今シーズンの国際販促キャンペーンの標語に掲げたフレーズである。

「勇気と冒険心をもって挑戦する我々の姿勢を表現するもの。そして、我々のようにピッチの内外で他と差をつけたいと頑張る人たちに手を拡げ、仲間として歓迎するためのスローガンだ」と公式HPでスティーブン・チャン会長は宣言した。

 インテルの年間シートの販促キャンペーンには「NOT FOR EVERYONE」の標語が使われ、ポスターはミラノの街の至るところで見られる。6月から移転した新オフィスのあるポルタ・ヌウォーバ地区(イタリアで最も再開発事業が進んでいる地域だ)には、ビルの壁面いっぱいを使った巨大広告まで張り出された。

ビエリ、ロナウドらを抜く移籍金。

 8月8日、彼らはその巨大広告をバックに、新戦力のベルギー代表FWロメル・ルカクを紹介するビデオクリップを撮影した。

「誰にでもやれることじゃない。だから、僕はここにいる」

 彼の第一声である。前所属のマンチェスター・ユナイテッドにインテルが支払いを決めた移籍金総額は6500万ユーロ+1300万ユーロの成功ボーナス。ロシアW杯で4得点を挙げ、ベルギーの3位入賞にも貢献したセンターフォワードは、インテルでのタイトル奪取という“誰にでもやれることではない”責務を背負うことになった。

 あのクリスティアン・ビエリや“フェノーメノ”ロナウドらを抜いて、大型補強で知られるこのクラブの中でも歴代最高となる移籍金だ。輝かしい過去の時代を彷彿とさせる大型補強で、タイトルに飢えてきたインテリスタたちが熱狂するのも当然のことだった。

 自主トレを積んでいたベルギーからプライベートジェットでミラノまで飛んできたのは8日の深夜2時。にもかかわらず、ミラノ・マルペンサ空港のビジネスジェット用ターミナルには200名を超えるファンが詰めかけ、到着を歓迎した。

16歳でプロ契約、18歳でプレミア挑戦。

 190cm、94kgの巨漢だがスピードと敏捷性も備えており、試合中のランニングでは最高時速36km超のスピードを叩き出したことでも知られるフィジカルモンスターである。出身はアントウェルペン。5歳の頃にサッカーを始めると、9歳の頃にリールセからのスカウトを受ける。下部組織で腕を磨く間、70試合で116ゴールを挙げる。

 現在、ラツィオに所属するジョルダン・ルカクは実弟だが、モチベーションを焚きつけないと練習しない弟に比べ、兄ロメルは自主的に努力を積むタイプだったという。

 そんな彼は2006年、今度は強豪のアンデルレヒトに引き抜かれ、3年後に16歳でプロ契約を結んだ。2009-10シーズンからはトップチームに完全定着し、2年間で97試合に出場、41ゴールという戦績を残した。その活躍はディディエ・ドログバの後継者を探し始めていたチェルシーの目に留まり、18歳でプレミアリーグに挑戦することとなった。

 その後、チェルシーでは定位置を獲得することができなかったが、エバートンに移籍すると才能が開花する。2014-15シーズンではUEFAヨーロッパリーグで8得点を挙げ得点王となり、2016-17シーズンはプレミアリーグで25点を挙げ得点ランキング2位に輝いた。

ルカクに惚れこむコンテ監督。

 この活躍を見てルカクに惚れ込んだのが、当時チェルシーを指揮していたアントニオ・コンテ監督だったのである。クラブへ再獲得を進言したが、失敗。ルカクはマンUに移籍することとなった。

 2年後、そのコンテを監督として招聘することに決めたインテルは、指揮官の積年の希望を叶えることにしたのだ。マンUも8000万ユーロを超える移籍金をエバートンに払ってルカクを獲得していたため、交渉は簡単ではなかった。さらにインテルの積年の宿敵であるユベントスからも横やりが入る。パウロ・ディバラのトレードをチラつかせて競合を図る彼らに出し抜かれて、一時期ユーべ移籍で決定か、という報道もなされていた。

 しかし、ディバラがトレード移籍を拒否しユベントスへの移籍は頓挫。そこでインテルのジュゼッペ・マロッタCEOは再度コンタクトを仕掛け、難航していたクラブ間交渉をまとめた。仲介に動いていたのは、国際的な実績があり、インテルの多くの選手と付き合いのある敏腕代理人のフェデリコ・パストレッロだ。

「3度目のオファー提示でやっとまとまった。ロメルはインテルに来られたことに本当に満足している」とタフな交渉の様子を地元メディアに語っていた。

コンテのサッカーに不可欠な大型FW。

 そんなルカクの加入は、インテルにどんな変化をもたらすのか。

 インテルはこれまでのエースストライカーだったマウロ・イカルディの背番号を引き剥がし、9番を背負わせることを決定している。一方、イタリア国内でファンやサッカー関係者の反応を見ると、期待と懐疑論が半々で存在しているといった印象だ。

 期待する声のひとつは、コンテ監督の戦術には合っているのではないかという意見。元インテルDFでテレビ解説者を務めるフランチェスコ・コロンネーゼ氏がいうように、「ルカクにはフィジカルもあるし、足元の技術もある。コンテのサッカーには適しているはずだ」という見方を示す向きは多い。

 コンテはこれまで、大型のセンターフォワードを重用してきた監督でもある。3連覇を達成したユベントス時代はフェルナンド・ジョレンテに信頼を置き、「史上最低の戦力」といわれたイタリア代表監督時代には、グラッツィアーノ・ペッレを柱に据えて一定の結果を出していた。コンテ監督のサッカーは、最後尾のディフェンスラインから縦にパスを送った速攻を重視する。前線でパスの的になる大型のセンターフォワードは、いわば戦術上不可欠の存在なのだ。

走力があり、チャンスメイクも上手い。

 ただルカクは、ジョレンテやペッレらとは若干タイプが違う。

 エリア内には居座らず、前後左右に動くことを好む。マーカーを背負いながらパスをもらい、ボールを捌くポストプレーはそれほど上手くないという評価もある。

 ただし一方で、普通の大型FWが持ち合わせていない走力があり、動いてパスを引き出し、自ら前線にボールを運んでいくこともできる。チャンスメイクも上手く、アシストも一定数記録した。

 前線での守備もこなすところなどを見れば、組織プレーを重んじるコンテ監督が好きそうな選手だというのはやはり容易に想像がつく。

イカルディは大舞台でゴールを決めてきた。

 他方、ルカクに対する懐疑論として、ストライカーとしての純粋な得点力に疑問符をつける向きも少なくない。インテルの元会長であるマッシモ・モラッティ氏は「イカルディの方が強力だ」と断言。他にも「そんなに強力なFWだったら、なぜチェルシーやマンUでポジションを取れず、売りに出されることになったのか」などと、率直な指摘をする有識者もイタリアには存在する。

 ルカクはプレミアリーグの8年間で、外国人選手ではリーグ歴代最年少で通算100ゴールに到達した選手となった。ただその記録のなかには、強豪相手から奪ったゴールが少ない。

 そのことはイタリアのサッカー関係者やファンの間にも伝わっており、「純粋な得点力という点ではイカルディの方が上なのではないか」という指摘もある。確かにイカルディは、その点でルカクと逆。チームプレーへの貢献の少なさを批判される一方、ミラノダービーやユベントス戦、またCLバルセロナ戦など大舞台で決めてきたゴールが多い。

ルカクの能力を引き出す策は?

 もっとも、得点力だけを重視するということなら、最初からイカルディを干して多額の金でルカクを連れてくるようなことはしていないだろう。

 果たしてコンテ監督の頭の中には、いかにしてルカクの潜在能力を引き出すプランが存在するのだろうか。もともと、さまざまな攻撃戦術のパターンを反復練習で叩き込むことを重視する指導者である。「他の選手とどう組み合わせていくのか楽しみ」と、ルカクをコンビネーションの中で活かす意向を示している。

 インテルは8月11日、セリエDビルトゥス・ベルガモと練習試合を行い、ルカクは4ゴールを決めた。試合中はパートナーのFWと流動的にポジションを入れ替えながら、長身を生かして高いボールに反応しゴールを決めていた。コンテに任せたチームの改革を、完全なものにするためのルカク獲得。

 巨額の補強は、果たしてどんな結果を出すのか。

(「欧州サッカーPRESS」神尾光臣 = 文)