圧勝の展開からミスを皮切りに1点差まで迫られたというのに、やけに落ち着いて戦っていたのが印象的だった。

 仙台育英が8−5で鳴門を下して、3回戦進出を決めた。序盤の大量リードから一転、1点差まで詰め寄られたものの、再び突き放して試合をものにしたのである。

「前半に点を失っても、ゲームの流れの1つだと思ってプレーしているので、一喜一憂しないで戦えているのだと思います」

 仙台育英の指揮官・須江航監督は確かな手応えをかみしめていた。

圧勝の予感から一転、接戦へ。

 この日の仙台育英は、1回表に4点を先行する電光石火の攻撃でまず優位に立った。

 1回表、1番の中里光貴が鳴門の左腕エース・西野知輝を捉えて、左翼線二塁打で口火を切ると、無死一、三塁から併殺打の間に1点を先制。2死となったものの、4番の小濃塁が右翼スタンドにソロ本塁打を運んで打線を再点火させると、そこから3連打でさらに2点を追加。

 4回表にも中里のタイムリーなどで2点を追加し、6−0とリードを広げた。

 仙台育英は1回戦の飯山戦で20得点を挙げており、この日も一気に相手を圧倒していくのではないかという空気すら感じさせた。

 しかし、それが暗転する。

 4回裏、鳴門の先頭の車谷幹太のショートゴロを、遊撃手の入江大樹が弾いてしまう。続く3番・田口の犠打が内野安打になり、そこから鳴門打線が一気呵成に攻め込ん。4番・浦和博を皮切りに4本の安打を連ねて5得点を挙げた。

 追いすがる鳴門の勢いは、終盤の逆転劇を想像させた。

仙台育英を支える終盤の異様な強さ。

 しかし、仙台育英は決して慌てなかった。

 4回裏、反撃のきっかけを与える失策をした遊撃手の入江はこう話す。

「少しバウンドが変わってしまって、うまく合わせられなかった。ただ、落ち込むことはなかったです。チームとして終盤3イニングをどう戦うかの練習をしてきたので、前半戦で負けていたり、劣勢な展開になっても問題なくプレーできました。そういう練習をしてきたので、それが自信になっていると思います」

 終盤3イニングの練習――。

 仙台育英の強さの源になっているのは、日頃の練習で行うこの「終盤3イニングの紅白戦」なのだ。

終盤に自信があれば、チームは崩れない。

 1年生捕手の木村航大は、この実戦練習で勝ち方を知ったと語る。

「試合に勝っている展開で迎えた3イニング、ビハインドの時と想定が2つあるんですけど、試合展開によって配球は異なってくるので、その練習をしてきました」

 終盤3イニングの練習では、試合の決着を意識したインサイドワークが捕手に求められる。チームとしてビハインドならば、いかに逆転していくための流れを作るか。

 一方勝っているときは、いかに何も起こさせずに勝利を収めていくかを考えて戦うという。終盤の戦いを熟知することで、勝利へのシナリオが描かれていくというわけである。

 終盤3イニングの試合運びに自信を持つことは、さらなる副産物を生んでいる。この日も6点リードから5失点して1点差に詰められたのは4回だったが、終盤に自信があるからこそ落ち着いて戦えるのだ。主将の千葉蓮はこう語る。
 
「練習の集中力が切れてきた時に終盤3イニングの紅白戦をやることが多くて、それが持ち味になっています。終盤に強いのはもちろん、どんな展開になっても焦らずにできている。今日は5点を失いましたけど、そこから徐々にやっていこうと誰も雰囲気が落ちることなくやれたと思います。1点勝っていましたし、勝負するのは終盤なので」
 
 チーム全体が慌てなかったのは、そうした裏付けがあるからなのだ。

悲願達成の気配が漂ってきた。

「試合を見ていて監督としてヒヤヒヤしたという感じはなかったです。終盤での強さを選手たちも自覚しているので、前半のゲームの振れ幅が大きくても、そんなに慌てなかったです」

 試合後に、須江はチームへの信頼をそう語っている。

 6、7回に1点ずつを追加して勝利した試合展開について、須江はこう付け加えた。

「こういう試合展開になると予想していましたので、1回戦が終わってから小さい野球をする準備をしてきました。試合の前半にリードできたので、練習の成果が後半にでたなと思います」

 20得点で圧勝した1回戦とは打って変わって、粘る相手を振り切っての勝利は、このチームの勝負強さを物語るものと言える。

 仙台育英に、悲願達成の気配が漂ってきた。

(「野球善哉」氏原英明 = 文)