今、日本の格闘技界は10数年ぶりの黄金時代を迎えている。K-1のビッグマッチがインターネットのAbemaTVで若年層に人気となり、地上波ではMMAを中心とするRIZINが定着しつつある。

 もちろん、量=人気の面ではまだ発展途上。地上波3局で大晦日イベントが中継されたK-1・PRIDE全盛期には及ばない。だが質の面では現在の日本のほうが上ではないか。

 軽量級への偏見を完全に払拭した新生K-1を牽引する、3階級制覇の武尊。

 RISE王者の那須川天心はムエタイ王者をKOし、RIZINにキックボクシング部門を確立させた。昨年大晦日には、エキシビションとはいえフロイド・メイウェザーとの対戦が実現した。

 RIZINでは浜崎朱加も、女子MMAの世界トップファイターとして尊敬を集める存在だ。

RIZINのグレードを上げた“世界のホリグチ”

 そして“日本格闘技・新黄金時代”を代表するもう1人の重要人物が、堀口恭司だ。

 修斗でキャリアをスタートし、世界タイトルを獲得するとUFCへ。フライ級で最高3位にランクされ、タイトル挑戦経験もある。

 2017年からはRIZINに参戦。“世界のホリグチ”が上がるリングとして、RIZINはそのグレードを高めることになった。「堀口と闘いたいからRIZINに出る」という選手も少なくない。

 RIZINでは最初の数試合で圧倒的な実力を見せ、バンタム級に階級を上げることに。それでも世界トーナメントに優勝すると、昨年大晦日にはUFCに次ぐアメリカのメジャー団体ベラトールのチャンピオンであるダリオン・コールドウェルに一本勝ちしてみせた。

 さらに今年6月、コールドウェルとのリマッチを敵地=ベラトールのニューヨーク大会(マディソン・スクエア・ガーデン)で敢行。試合運びの妙もあって判定勝利を収め、ベラトールのベルトを巻いた。RIZINとの2冠達成であり“北米メジャー”タイトル奪取という偉業だ。

 テレビ中継でのキャッチフレーズは“史上最強のMade in Japan”。

 黎明期のレジェンド・桜庭和志に対し、こちらはMMAが競技として確立された時代の中で抜群の“国際競争力”を誇る。

山本KID門下になった理由とは?

 1990年生まれの堀口は少年時代に旧K-1やPRIDEを見て育った世代であり、プロファイターとしては常に海外を意識してきた。筆者が新人時代にインタビューした際も、はっきり「目標はUFCです。この世界で食べていきたいので」と語っていた。

 伝統派空手をベースとし、遠い間合いから一気に踏み込んでのパンチを武器とするファイトスタイルはオリジナリティに満ちている。というより、彼はそのキャリアすべてを“自力”で開拓してきたと言っていい。

 高校卒業とともに上京、プロになるため入門したのは山本“KID”徳郁率いるKRAZY BEEだった。KIDへの憧れだけでなく、打撃主体のファイトスタイルが自分のお手本になるという判断もあってのことだった。

 放任主義のジムで、先輩たちから「恭司は大丈夫」と太鼓判を押され、アマチュア修斗1戦のみでプロデビュー。KOを量産したが、それはあくまで理詰めの闘いの結果だった。

 UFCに参戦し、海外で闘いを重ねる中でジムを移籍してもいる。新たに所属したのはフロリダの名門「アメリカン・トップチーム(ATT)」だ。

“MMAの首都”アメリカでは練習パートナーにもこと欠かない。堀口はRIZINが主戦場となった今もアメリカに住み、ATTで練習漬けの毎日を送っている。アメリカでできなくて困るのは空手の練習と「渓流釣り」だそうだ。

UFC離脱で“世界地図”を変える。

 UFC離脱、RIZIN出場もキャリア上の大きな決断だった。UFCでは軽量級は人気がないとされ、なかなか試合が組まれない状況で、いち早く世界最大の団体から“脱藩”したのである。もっとチャンスがほしかったし、RIZINで軽量級が盛り上がれば“世界地図”自体が変わると考えたのだ。

「(フライ級世界最強と目される)デメトリアス・ジョンソンがこっちにくる可能性だってあると思いますよ」

 RIZIN出場が決まると、そう語った堀口。それからしばらくして、ジョンソンはシンガポールを拠点とするONE Championshipにトレード移籍している。堀口、ジョンソンによって軽量級勢力図が大きく変わったのは間違いない。

既成概念に囚われない自由な発想で。

 ファイトスタイルにしろキャリアの選択にしろ、堀口には「普通ならこうする」とか「とりあえずは現状のままで」といった発想がまったくない。

 昨年9月には、那須川天心とキックボクシングルールで対戦してもいる。

 さすがに判定で敗れたとはいえ(敗戦は3年半ぶりのことだった)、キック界の頂点に君臨する那須川にKOされず、ダウンも取られず最後までスリリングな攻防を展開したのだから驚異的だ。

新鋭との対戦に「しっかり力の差を見せたい」。

 次戦は8月18日のRIZIN名古屋大会で朝倉海と対戦する。

『THE OUTSIDER』から成り上がり、RIZINでも4連勝中のライジングスターだ。堀口と闘うには実績不足と見るファンもいるが、RIZINならではのマッチメイクでもある。“見たいか見たくないかでいったら凄く見たい”。そんな顔合わせと言えばニュアンスが伝わるだろうか。

 堀口自身は、朝倉との対戦についてこう語っている。

「UFCみたいな強い者同士の対戦ばかりだと、相手のスケジュールもあってなかなか試合が決まらないことがあるので。こういうマッチメイクはありがたいんですよ。試合がコンスタントにできますから。自分にとっても勉強になりますし」

 すでに対戦相手の研究も進めている。「(朝倉は)トータル的にできる選手ですよね。打撃だけじゃなくタックルもある」。ただし「そこから先(寝技でフィニッシュする力)はないですけど」とも。

「しっかり力の差を見せたいですね。全体的に自分のほうが上だと思ってます。もちろん勝負だから一発当たったら終わり。そこは慎重にいきながら、将棋みたいに詰めていって最後はKO、一本で決めたいですね」

2冠王になった今もまったくブレない。

 ことさらにリップサービスをするタイプではない。

 ビッグマウスで盛り上げるつもりもない。

 2冠王になったことについても「強い相手に勝った結果そうなったということで、僕自身に変化はないです」と言う。

 7月大会ではKRAZY BEEで同門だった矢地祐介が朝倉の兄・未来に敗れているが「(仇討など)そういう気持ちを勝負に持ち込むといいことがないので」。

 強者はあくまでも揺るぎない。

「日本ではコンビニでも声をかけられるようになった」という堀口だが、このワールドクラスのアスリートの存在は、世間にもっと知られていいはずだ。

(「濃度・オブ・ザ・リング」橋本宗洋 = 文)