2019年上半期、NumberWebで人気を集めたベスト記事セレクションを発表します。
サッカー部門の第3位はこちら!(初公開日:2019年1月28日)

 日本がベトナムをかろうじて振り切ったアジアカップ準々決勝をイビチャ・オシムはどう見たのか。試合直後にオシムに話を聞いた。

相手を警戒し過ぎたのは残念。

――簡単な試合ではなかったです。とりわけ前半はそうでした。

「たしかにこういう試合は難しい。両チームとも何としても勝ち上がりたいと思っている。だからどちらも緊張して手堅くなりリスクを冒そうとはしない。

 技術的にはちょっと酷かった。日本は意味もなくボールを失い過ぎた。

 相手に合わせてしまうのは、敬意を抱いているからだ。お互いに相手に敬意を払った……ということなのだろう。日本も、自分たちの方が能力的に優れているにもかかわらずサッカーそのものが消極的だったのは残念なことだ。

 両チームともに守備に重きを置き、途中でテレビの前から離れたくなるような展開だった。相手を警戒しすぎて、終始積極的ではなかったからだ。リスクを冒して何かをしようとする気がなかった……本当に残念だ。

 この日本代表はもっといいプレーができるはずだ。

 的確なプレーが正確にできるはずだし、やらねばならないと感じている。しかも危険なプレーを、だ。そもそも、どんな試合でもリスクを冒さずに勝つことはできないのだから。後ろに留まって何もしないのでは、何よりも観衆が満足しない。

 私も満足できなかった。私は日本が技術でベトナムを凌駕すべきだと思っていた。技術で上回れば勝利も得られる。だがこの試合はそうではなく、逆に日本の酷さをベトナムに突かれる場面がしばしば見られた。

 日本は自分たちを過信しているように見えた。

 しかも、試合運びがうまくいかずに、ピッチ上でどうしていいかわからないようだった。トップクラスの選手がひとりふたりは必要だ。パスを供給できる選手、ドリブルで相手の守備を崩せる選手、そしてゴールを奪える選手が」

――そうかも知れません。

技術的な優位を示していない。

「私の監督時代も前線はいまひとつ効率を欠き、それがずっと私の悩みの種だった。

 献身的にプレーするという点では彼らは悪くはなかったが、しばしばボールを安易に失った。せっかくいいプレーをしても、直後に意味なくボールを失ってしまう。アジアではそれでも許されるが、ヨーロッパや南米ではそれでは済まない。

 この試合で日本は技術的な優位を示してはいない。試合は技術だ。日本は技術の力がとてもある。ただ技術が欠けていれば、ボールをコントロールできずプレーが繋がらない。技術的に満足できない状態は容認できない。ボールを5回奪っても4回はすぐに失うのは技術が拙いからだ。それこそ直していくべき点だ。

 相手の裏を突くパスがなかなか通らず、ロングパスもコントロールが難しかった。相手がアグレッシブな守備を敷いてきたら、そこで何かをするのはとても難しい。試合はスタートからベトナムが負けないための戦いをして、強固な守備を敷いてきた。

 それでも結果が得られれば内容はあまり問われない。どちらも駄目ならば何も残らない。すべての準備が無駄になる。希望も潰える。

 もっともっと努力が必要だ。とりわけ選手ができると思っていることをさらに突き詰める必要がある。技術はどこでも同じだ。ボールのコントロールと質の高いパス、それからシュートも。すべてはトレーニングだ。練習で繰り返すことで質が向上する。

 選手はしばしば練習ではすべてをうまくこなす。だが、このような重要な試合になると萎縮してしまい、同じことをするのが難しくなる。残念だ。ところで君はいつまでそちらにいるのか?」

他国の進歩を知ったはず。

――決勝までです。最後まで残ります。

「悪いことばかりでなく良いところもよく見るべきだ。悪いことには過剰に反応しがちだが、良いところもしっかりと見る必要がある。

 ただ、選手たちには、『まだ優勝したわけではない。もっとやらねばならない』と言うべきだ。なぜなら別の試合では、よく学んだことを彼らは示したからだ。コンビネーションもシュートも素晴らしかった。だがまだ足りない。さらなる進歩が必要だ。他のどの国も進歩しているのだから。

 今日の対戦で日本は、他も進歩しているのを身をもって知った。東南アジアはまだアジアのトップにまでは達していないが、アラブの国々は違う。日本、韓国、中国の東アジアの国々もさらなる進歩を目指すべきだ。あなた方はサッカーに多くのエネルギーと資本を投資して……。今の日本代表でヨーロッパのクラブに所属するのは何人なのか?」

酒井は経験が生きていた。

――ほぼ半分がヨーロッパでプレーしています。

「ヨーロッパで求められるプレーをほとんどの選手はここでしていない。酒井を見たか。彼は相応しいプレーをしていた。経験がプレーに生きていた。それは見ればすぐにわかることだ。

 私は日本がアジアサッカーを支配しリードすべきと考えている。それも完璧にだ。セカンドチームを起用してもそれは同じだ」

――現状は程遠いです。

「日本は選手や監督などに多くを投資している。だからこそ選手ももっと迅速に学ばねばならない。そうでなければ難しい。他も同様に進歩しているからだ。そのことを忘れがちだが、どこも進歩を続けている。小さな国でもだ」

優勝候補という自覚を。

――今日のベトナムがそうです。

「戦術的にきつく守られれば、それをこじ開けてゴールを決めることはできない。簡単ではない。選手たちは別のやり方を始めるべきだった。

 自分たちが優勝候補なのかどうかを自覚する。候補であるのなら別の戦い方があった。もしも自分たちがアウトサイダーであるならば、守備を知らねばならないし守備面で多くのことをやらねばならない。そこには心理面も大きな要因となる。監督と選手、メディアがいい雰囲気を試合前に作り出す必要がある。

 君らがどんなことを書いているか知らないが、私の印象ではとにかく勝てばそれでいいという了解があるように見える。しかしそんな考えでは絶対に勝てない。というのもサッカーは驚きのスポーツであるからだ。相手に対してコレクトであることが重要だ。

 これからボクシングの試合を見る。イタリアの試合だ」

――こちらの次の試合はイラン対中国です(3-0でイランが勝利した)。

「そうか。人口やサポーターの数を比べたら、勝つのは中国だ(笑)。正確にどのぐらいの人口なのか知らないが、中国が勝って当然だ。しかしイランもサッカーでは素晴らしいチームを作っている。経済や政治では中国が優位だが」

イランは常にシリアスだ。

――サッカーは違います。

「私はイランに勝ちあがって欲しい」

――イランは大会の本命ですし。

「彼らは常にシリアスだ。私も何度か対戦した経験があるがいつも厳しい戦いだった。強固で戦闘能力が高い。限界まで彼らは戦い続ける。中国がどのぐらいやるか興味深いが、十分に進歩しているとは言い難い。国外でプレーする選手がほとんどおらず、中国リーグには外国人がたくさんいるが、中国サッカーの進歩に貢献していない。そこが日本との違いだ。日本は高額で獲得したスペイン人選手たちからもほとんどもとは取った。

 申し訳ないがトイレに行く。ボクシングも始まった。後にはクロアチアやボスニアの試合もある」

――次の対戦は恐らく日本対イランになります。中国の可能性もありますが、たぶんイランになるでしょう。

「決して侮ってはいけない。イランはヨーロッパタイプのチームだ。抜け目がないうえに容赦なくとてもハードだ。技術的・戦術的にも優れ、体格の良さを彼らは生かしている。フィジカルも含め、すべての面で彼らは水準に達している」

――プレーもカルロス・ケイロスが2011年から指揮して成熟しています。

「妻がそう言っていた。名古屋でピクシーとも一緒だったポルトガル人が監督を務めているというから私も思い出した。簡単ではないが、日本がいい戦いをして結果を得ることを期待している」

――メルシー、イバン。

(「ワインとシエスタとフットボールと」田村修一 = 文)