内藤哲也は聞いてはいけないスリーカウントを聞いてしまった。ジョン・モクスリーの強さに、内藤は無念の3敗目を喫した。

 7月28日、名古屋の愛知県体育館(ドルフィンズアリーナ)で行われた新日本プロレスのG1クライマックスのメインイベントは内藤vs.モクスリーだった。

 Bブロックはこの日、全9戦のうちの5戦目で、試合前まで内藤は2勝2敗、首位を走るモクスリー4勝無敗。内藤はこの直接対決で、勝ち点を縮められるチャンスをものにしたいところだった。星勘定から考えて内藤に負けは許されず、もしもの3敗目は優勝戦線から大きく遠のくことを意味していた。

 内藤には自身が保持しているIWGPインターコンチネンタル王座とともに、オカダ・カズチカが保持しているIWGPヘビー級王座を同時に巻くというプランがある。それはできることなら来年1月4日の東京ドーム大会で実現したいと思っている。

 そんな内藤の願いは、このG1クライマックスで優勝すれば自動的にIWGP王座への挑戦の権利証を手にすることができるから、ぐっと引き寄せることができる。

観客をかき分けて登場したモクスリー。

 前日、内藤から挑発されてかなりいらだっていたモクスリーだが、印象的なシーンがあった。モクスリーはリング上でゆっくりと息をしながら10数えて「カームダウン」(落ち着け)と冷静さを保つように自らに言い聞かせていた。

 モクスリーは入場ゲートから現れようとはしない。この日も、2階の照明の落ちた暗い観客席に姿を見せると、観客をかき分けて1階のアリーナ席に降りて来てリングに入って内藤を待った。

 内藤は後からライトを浴びて赤い花道に姿を見せると、ゆっくりと、ゆっくりと歩いた。途中で何度も立ち止まって、リング上のモクスリーを「トランキーロ、あせんなよ」と挑発し続けた。

 モクスリーは腕時計を示すポーズで内藤の入場を「カマン。早く入って来い」と促した。

のらりくらり、挑発する内藤。

 やっとリングに入った内藤だが、マントやシャツなどのコスチュームを脱ぐのにいつも以上に時間をかけた。シャツのボタンも一つ一つゆっくりと外した。内藤はモクスリーのいら立ちを楽しむようにニヤっと笑いながらそんな仕草を続けた。

 内藤の入場から試合開始のゴングまでは、実に5分間を要した。

 内藤が脱いだズボンをモクスリーに投げつけた。殴り合いが始まったが、内藤はすぐに場外に逃げてモクスリーのイライラをさらに募らせようとした。モクスリーをかわすようなのらりくらりの内藤の作戦はうまくいっているように見えた。

 戦いに戻って、最初の場外戦はモクスリーに分があった。モクスリーはフェンスで内藤を痛めつけると、床に寝そべって肘をついた内藤の得意ポーズまで披露した。

 モクスリーはさすがに手ごわかった。

モクスリーを追い込んだように見えたが……。

 内藤はどうにかして自分のペースに引き込もうと努めた。場外でモクスリーが用意したイスでの殴りには応じなかった。不意を突いて、ドロップキックでパイプ・イスごとモクスリーを吹っ飛ばした。花道ではモクスリーを抱え込むとDDTを放ち、さらにイスに座らせたモクスリーに助走をつけた低空ドロップキックを叩き込んだ。

 内藤は流れをつかんだように見えた。リングに戻っても、飛びつき式のリバースDDTであるデスティーノを決めて、モクスリーを追い込んだ。

 だが、モクスリーは顔面砕きやダブルアーム式DDTで内藤を逆転。最後はデスライダーという名の高角度ダブルアーム式脳天くい打ちで内藤をしっかりとフォールした。

 モクスリーが強いことはわかっていた。でも、内藤の勝ちを信じて、それを願っていた会場のファンは驚きとともに、目の前で起きた内藤の敗戦という現実に直面することになってしまった。

 内藤は立ち上がることができない。2勝3敗。3敗という数字が重く内藤にのしかかった。

“絶望”に近い内藤の状況。

 モクスリーはマイクを握ると興奮気味に叫んだ。

「なにがトランキーロだ。もう、オマエになんか用はない。この勝利の瞬間をこのナゴヤのみんなと共有できてうれしいよ。5連勝だ。オレが単独首位だ。オレの実力を過小評価していたヤツらも、目の前の現実に頭の中が変わったはずだ。みんなオレの後ろを歩いていればいいんだ。

 これはオレからメッセージだ。オレから目を離すなよ。オレの前に立ちはだかるヤツはすべて敵だ。叩き潰す。今夜よりも派手にな。このG1クライマックスのトーナメントを制するのはオレ、ジョン・モクスリーだ」

 内藤哲也は敗戦の痛みに一言もしゃべることはなかった。ここで決勝戦や優勝という言葉を口にしたところで、現実からはかけ離れている。

 リーグ戦は残り4試合で、首位モクスリーとの3つの勝利差、勝ち点で6差を追いつくことはかなり難しいと思われる。残りの4試合を勝ち続けて、後は他力本願的境地でモクスリーの3つの敗戦を祈るしかない。もし、奇跡的に運よく勝ち点で追いついたところで、直接対決で負けているわけだから、実際には絶望に近いのだ。

 G1クライマックスはこの後、7月30日、高松。8月1日、福岡。そして8月3日、4日の大阪府立体育館(エディオンアリーナ大阪)2連戦へと続く。

 Aブロックの首位は5連勝のオカダ・カズチカ。7月27日のKENTAとの注目の一戦も制して無傷だ。オカダは高松でランス・アーチァー、大阪の初日ではSANADAと当たる。

 Bブロックの首位モクスリーは福岡では、矢野通、大阪の2日目ではジェイ・ホワイトと対戦する。

(「プロレス写真記者の眼」原悦生 = 文)