長野県野辺山で、今年の7月17日から20日までフィギュアスケートの第29回全国有望新人発掘合宿が行われた。今年のノービスA(11歳から12歳)は、男子17人、女子46人が参加した。

 この合宿で、スケーティングの講師として招かれたトリノオリンピック男子銀メダリスト、ステファン・ランビエルが独占インタビューに応じた。

「初めてここに来たのは、確か2012年でした。スケジュールが合わなかった1年を除いて、それ以来毎年戻ってきています。最初に依頼をもらったときは、とても光栄に思いました。当時ぼくはまだコーチとしての経験が浅かったので、自分が何を与えられるのか、そして教えることを通してどんなものを自分が学んでいけるのか、とても興味がありました」

 そう語るランビエルは、4トウループが得意だったことに加え、美しいスケーティングと秀でた音楽表現で高い評価を受けた選手で、現在でも日本にも多くのファンがいる。

 トリノオリンピック銀メダル、2005年と2006年に世界タイトルを手にし、2010年バンクーバーオリンピックで4位となったのを最後にアマチュア競技を引退した。現在はスイスのシャンペリーでスケート教室を開催し、子供も合わせて20人余りの生徒を抱えているという。

「この合宿で大勢のグループを教えることにより、全体に目を行き届かせる訓練ができました。子供たちは本当に1人1人違っていて、天性で体の使い方がうまい子もいれば、逆にまったく不器用な子供もいる。

 ダンスフロアで輝いていて思わず目が吸い寄せられる子が、氷の上ではジャンプが苦手だという場合もあります。その1人1人の個性を把握して、弱点を克服するための方向性をつけてあげる。それがぼくの役割です」

時には必要なサポートもする。

 ランビエルが音楽にのってステップやターンなどをまずやってみせると、子供たちがそれを真似しながら後ろについていく。

 氷の上の、全国から選び抜かれて集まってきた子供たちだけではなく、それぞれのコーチたちも観客席から、あるいはスケート靴を履いてリンクの端に立って見守りながら時には必要なサポートもする。

日本の生徒たちの長所とは?

 日本スケート連盟の小林芳子強化部長は、「合宿はわずか数日でも、コーチの方々も一緒に学ぶことにより、ここで得たものを生かして、それぞれのリンクに戻って練習を続けていくことができるんです」と説明する。

「日本の子供たちを教えていて、他の国の生徒と一番違うのはその練習の集中力ですね。たとえば何かをやって見せると、日本の生徒は何も言わなくても何度も何度もそれを繰り返して練習している。

 スイスのぼくの生徒たちは、1回やってみただけでぼくのところに戻ってくる。もっと何度も練習しなさい、と言わないと繰り返さない。でも日本の子たちは、はいストップ、というまで何度も繰り返し練習をするのです」

 海外の関係者からよく、なぜ日本のスケーターはここまで強くなったのかと聞かれるが、こうした勤勉な国民性が根底にあることも1つの理由に違いない。

演技会の評価で次のステップへ。

「生徒の中には、昨年やその前からこの合宿に来ている子もいて、その成長を見るのも楽しみの1つです」とランビエル。

 生徒たちのひとりひとりの成長のスピードは違う。

「特に男の子たちは、見ていて面白いですね。女の子たちは精神的にも成長が早く、ノービスでもある程度もうスケートに向かう気持ちなどもできあがって落ち着いている。それに対して、男の子たちは予測ができない。

 1年の間に全くスケートに対する興味を失ってしまったり、あるいは逆に別人のように成長していたりと人それぞれ。もっと年齢が上になってもいつ選手として本格的に覚醒するのか、そのタイミングは本当に個人的なものなので、結果を出させることに焦ってはいけないと思っています」

 この合宿の後半には子供たちの氷上演技会も行われ、演技の評価に加えて体力測定・ダンス表現・生活態度の総合的な評価も受ける。ここで評価が高かった生徒は、全日本ノービス大会の予選であるブロック大会を免除されるシード権を手にすることができ、また全日本ジュニア合宿に参加できるようになる。

島田高志郎のシニアGPデビューに期待。

 ランビエルが指導している島田高志郎も、もともと数年前にこの有望新人発掘合宿で出会った生徒だった。現在17歳の島田は2017年にランビエルに師事するためにスイスに移住して、この秋で3シーズン目を迎える。

 昨シーズンは全日本ジュニア3位、さらにジュニアGPファイナルに進出し3位入賞と好成績を収めた。今年のスケートアメリカで、シニアGPデビューを果たす。

「彼にはシニアで戦う準備ができていると思います。プログラムも2本とも、彼の良さを引き出す良い作品に仕上がりました。もちろんいきなりデビュー戦で上位に行くことは期待していない。でもシニアのトップ選手たちに混ざって戦いに加わる能力は、すでに十分あると信じています」

 そうランビエルは頷く。

コーチとして今後の課題とは。

 現役時代は、技術と表現力を兼ね備えた素晴らしい選手だったランビエルだが、彼自身ほどの天性に恵まれていない子供たちのことはどう導いていくのか。彼の指導者としての今後の課題は何なのか。

「選手のプッシュの仕方を覚えること、でしょうね」

 少し考えて、彼はそう答えた。

「ぼくは現役時代、自分のコーチ(ピーター・グルター)にプッシュされたという記憶がないんです。だからぼく自身、選手当人がプレッシャーを与えられているとは感じない形で、選手をプッシュしていく方法を学ばなくてはと思っています」

 フランス語訛りの優しい英語で物腰も柔らかい一方、内に秘めた熱い情熱を感じさせるランビエル。彼に指導を受ける機会に恵まれた、日本の若手たちがこれからどのように成長していくのか、楽しみだ。

(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)