壁を3Dスキャンすることで、WEB上での課題閲覧を可能にした「OnlineObservation(オンライン・オブザベーション)」。本連載では、OnlineObservationが持つ膨大なアーカイブの中から厳選した、魅力的な課題を紹介していく。

 今回登場するのは、近年コンペなどへの協賛でも話題となっている国産ハリボテ(※)メーカー「ICICL volume(アイシクル・ボリューム)」(以下、ICICL)と、OnlineObservationスタジオのコラボレーション課題。さっそく3Dスキャンをご覧いただき、オブザベーションしてもらいたい。

※1:大振りなホールド。ボリュームとも言う。

 

Vol.9「オンラインオブザベーション × ICICL Volume」


セッター:OnlineObservation
グレード:2級 これは、普段なかなかお目にかかれない “巨大ボテ” を贅沢に使ったコーディネーション系(※2)課題だ。「大きなハリボテに立ち上がるだけでしっかりとした壁の傾斜を感じ、さらに味わいながら走ることができます」とは課題をセットしたOnlineObservation開発者の筒井真佐人さん。難易度は比較的易しめのラン課題となっていて、走った先には右手と左足を同時に使うトウキャッチ、カンテ(※3)、凹角、面プッシュと、形状によって生まれる様々なムーブが添えられた。

※2:ムーブの一種。手足が連動した俊敏な動きを指すことが多い。
※3:壁の角。

 
<ムーブ動画>

 ここで用いられているハリボテが、2018年に誕生したICICL(英語で氷柱の意)だ。自然の素材が持つ美しさを伝えていくというコンセプトを持ち、原材料には強度、耐水性を兼ね備えた白樺を使用。「人の手で触れるものは人の手でなければ仕上げる事は出来ない」と、納得のいくまで手作業で形が整えられる。



 そこから生み出されるのが流麗な木目がユニークな“芸術品”。チョーク粉やシューズのラバーによる汚れを高圧洗浄できるほか、長期間の使用にも適した耐久性、そして独自のフリクションが施されている。受注から納品までの全過程は、代表である野内俊輔さん1人で行っている。

 「見た目からも、壁の形状を変えられる」と、以前からOnlineObservationスタジオにある市松模様の壁と一体化するハリボテを求めていた筒井さんが声をかけ、デザイン性の高さも決め手となって実現したという今回のコラボレーション。ハリボテの製作は、オーダーメイド受注という形で進められた。

 ジムがホールドを仕入れる際には、人気の高い海外のホールドを輸入販売している国内代理店、または国内メーカーからすでにある形のものを注文するか、要望を伝えて製作するオーダーメイドの2パターンに分かれる。オリジナルのホールド製作は、どのような過程で壁に取り付けられることになるのか。今回のケースでは、以下の流れで進んでいったという。

[1:企画]

壁の前で打ち合わせを行い、どの様なサイズ・形状の物をいくつ製作するのかを決める。

[2:設計]

デュアルテクスチャー(※4)をどのように配置するのかまで、緻密にハリボテの設計を行う。

※4:ツルツルした摩擦(フリクション)の少ない加工を取り入れること。

[3:試作]

一度安価な材料を切り出し組立てたサンプルを作り、形状を確認するという工程を挟む。

[4:製作]

ひとつずつ木の表情(色、模様など)を厳選し、切り出し、組み立てる。各工程はそれぞれ別々の部屋を使い製作を行う。

[5:納品]

巨大ハリボテの納品は大仕事。通常の物流では対応しきれない事も多く、野内さん自らの運転で納品した。

 野内さんによれば、過去に例のなかった大きさのハリボテがオーダーされたこともあって、「大きければ大きいほど木目部分を平滑に塗装するのが難しくなる」「とんでもない重量だったので、納品も大変だった」と、製作から納品までの過程が特に苦労したという。しかしその出来栄えには、筒井さんも「とにかくでかい、そして綺麗。デュアル面が群を抜いて美しい」と満足の様子だった。

 その外観や質が認められ、有名ジム周年コンペや「Master of BLoC」などの国内大会で、はやくも使用され始めているICICL。2017年にスタートしたOnlineObservationが、すでに国際スポーツクライミング連盟によるクライミングワールドカップの大会中継で活用されているように、この美しい木目が世界の舞台で見られる日も、そう遠くはないかもしれない。

OnlineObservation(オンライン・オブザベーション)

3D化された課題の写真や動画をPC・スマホで自由に“オブザベ”でき、かつ今までになかったライブラリとして誰でも共有、自由に投稿も可能な新時代のサービス。クライマーが閲覧することはもちろん、ルートセッターの課題ライブラリとして、クライミングジムのPR効果を狙ったメディアとしても活用されている。

CREDITS

取材・構成・文

編集部・OnlineObservation