日本人初のNBAドラフト1巡目でウィザーズに入った八村塁選手が、早速活躍しています。

 彼が素晴らしいポテンシャルを持ったバスケットボール選手であることはもちろんですが、私はそれ以上に、21歳にして「生き様」の元になる個性を持っていることに感動しました。

「生き様」という言葉がマイナスの意味を持っていた時期があるのは承知していますが、だいぶ定着した表現だと思うので、今回はそのまま使おうと思います。

 八村選手の話に戻りましょう。

 私が驚いたのはドラフト1巡目指名以上に、ジョーダンブランドとの契約です。日本では「バスケット選手としての将来性を評価された」という文脈で報道されていますが、それは物事の半分しか捉えていないのではないかと思います。

ブランドとしての期待値の高さ。

 ナイキ以上に少数精鋭のジョーダンブランドが八村選手をなぜ選んだかと考えれば、彼の生き方がかっこよくて、ファッショナブルだからでしょう。“ブランド”として顧客から評価されうる要素やストーリーを保有し、今後もそれを築き続けるという期待値が高く評価されたのだと思います。

 ドラフト指名を待っている時の、ブルーのシャツに大きめの蝶ネクタイ、さらにエンジというかパープルのまだら模様のジャケットは印象的過ぎでしたし、記者会見でのチェックのジャケットにドットのネクタイも、ストライプのポロシャツをぴっちり上までボタンしめた上につけたネックレスも、登場する度にファッションに注目してしまいますよね。

 日本のプロ野球の入団会見に、あんな個性的なファッションで出てくる選手はいません。いたとしても内部でバッシングに遭うのが目に見えています。

 八村選手が持つ日本人初のNBAドラフト1巡目というストーリーや、あの場所にあの服装を選ぶセンス、価値観、そういうものがジョーダンブランドとの契約につながったのだと思います。

服装という形でも自分を表現する。

 これは「アスリートは服装も意識しよう」というレベルの話ではありません。彼の生き様が、服装という形でも表現されていることが重要なのです。

 アスリートにとって生き様がなぜ大事かというと、それがないと、ただの「スポーツがとんでもなくうまい人」で終わってしまうからです。もちろんそれはそれですごいことなのですが、もはやそれで終わりでは世間は驚かない時代なのです。

 ある競技を限界まで極めていくことには価値があるとしても、それだけでは現役を引退したら何もなくなってしまいます。社会への影響力も持ちえません。

 サッカーの本田圭佑選手や長友佑都選手が近年ピッチ上に留まらない活動をしているのは、いつか現役生活が終わった後も、人生が続いていくのをわかっているからでしょう。そのフェーズも充実させるために、現役の時から選手以外の活動やストーリーを始める必要性を感じているからに違いありません。

 彼らだけでなく、最近は「競技だけやっていればいい」と考える選手は確実に減っています。指導者や解説者になってその競技の世界で活動するにせよ、競技と離れて新しいジャンルに挑むにせよ、引退後につながる何かを現役時代から始めたい、という選手のニーズは確実に高まっています。

 現役時代の一番影響力があるタイミングで、人生を通して“生き様ブランド”に人生を通して昇華させることのできる競技外の何かを掴みたいと本能で感じ、アスリート特有のパワーと行動力をもって遮二無二挑戦する選手が増えるでしょう。

「プレーだけ」は人生を制限する。

 一方で今は、アスリートが現役を終えた後に進む道を決めるのが手探りすぎると思いませんか。競技以外のことを始めると「プレーに集中しろ」とか「練習しろ」と言われる状況がまだまだ強くて、たとえ何かやりたいと思っても手がかりすらないことがほとんどです。

 しかしその考え方がアスリートの人生を制限していることを、本人たちは気づき始めています。

 そこで私が最近あったらいいなと感じているのは、アスリートと経営者をビジネスパートナーとしてつなぐマッチングサービスです。アスリートは自分の興味や関心がある分野について知識と能力のある経営者と組むメリットがあり、経営者はアスリートのファンと知名度、投資財力やストーリー性、つまり「生き様」に魅力を感じます。

 この両者をパートナーとしてつなぐことで、大きな可能性が生まれます。

 今も自身のコネクションで経営者とのパイプをつくっているアスリートが多いのは周知の事実です。それがより効率的によりピンポインントで、より気軽に手軽にマッチングされるといいですよね。

アスリートと経営者の関係も変わる。

 アスリートと経営者の関係性はこれまで、経営者やその企業がお金を出して、アスリートがその対価として自分の人気を切り売りする形の広告塔が主流でした。そうではなく、お互いに自分が持つ能力、資金、ストーリーを出し合って一緒にビジネスを作るのです。

 CM広告契約で一番お金が動くのではなく、パートナー契約で大きなお金が動く時代になっていくのです。

 私はお金というのは消費するよりも投資するものだと思っていますし、人生の長さで考えると、アスリートが現役時代に稼ぐお金というのは、その後の人生で新たな生き様をつくる投資のための原資だと思っています。

 現役時代に稼いだお金と、知名度やストーリーのような力を使って新たなビジネスに乗り出し、アスリートとはまた違う形で成功して生き様を豊かにしていくことが大切です。

ジョーダンという競技を超えた存在。

 マイケル・ジョーダンやアーノルド・パーマーは、その筆頭でしょう。八村選手がジョーダンブランドとの契約を発表してる映像で驚いたのですが、後ろのビルが「ジョーダンビルディング」でした。彼は自社のオフィスビルディングを持ってるわけです。

 マイケル・ジョーダンは現役時代に唯一無二のスーパースターでしたが、今はその時と同じか、もしかすると当時以上の存在感を、競技を超えたもっともっと広い“社会”の中で発揮していますよね。

 現役時代に得た資金と「生き様」を武器にビジネスの世界で成功し、今では八村選手を筆頭に次世代の選手と次世代の生き様にも投資をする立場になっている。これは本当にすごいことです。

 日本で言えば、サッカーレジェンドの選手が日本を代表するファッションブランドを保有して大々的にビジネス展開していて、久保建英選手と契約するような事態です。このことの凄さが、日本ではまだピンと来ていないような感じがしています。

中田英寿、野茂という数少ない例。

 もちろん誰もがジョーダンではないので、世界的なブランドを作ることは難しいかもしれませんが、日本のスター、地域のスターという自分に合ったサイズからスタートすることは誰にでもできるはずだと思います。

 そうするうちに、元スポーツ選手という枠を超えて、新たなキャラクター、生き様がその人のブランドになっていくのです。中田英寿や野茂英雄は、日本人で数少ないその状況に到達しつつある人たちでしょう。

 ここまで話してくると、八村選手のジョーダンブランドとの契約がどれほど凄いことかわかってもらえたのではないでしょうか。

 八村選手はこれからバスケットボール選手としてのストーリーを作って行く段階ですが、そのプロキャリアが始まる前の大学卒業時点で、すでにファッションや考え方に強烈な個性を持っています。そのことは彼の人生において大きなアドバンテージになるはずです。

 バスケだけでなく、彼の今後のファッションや生き様が楽しみですね。

(「【NSBC補講I】 池田純のスポーツビジネス補講」池田純 = 文)