7月10日の試合でプロ野球前半戦が終了した。2019年の前半戦で最も衝撃を与えた投手は、オリックス3年目の20歳、山本由伸と言ってもいいのではないだろうか。

 昨年はリリーフとして主に8回を任され、54試合に登板したが、今年は志願して先発に転向し、開幕ローテーションに入った。

 今季初登板となった4月3日の福岡ソフトバンク戦でいきなり快投を見せた。ソフトバンク打線を7回までノーヒットに抑え、最終的に9回1安打無失点。味方の援護がなく延長戦の末、引き分けに終わったが、ソフトバンクに対しては7月5日の試合の4回に失点するまで、27イニング無失点だった。6月28日の埼玉西武戦では初完投初完封勝利も挙げた。

 前半戦は13試合に登板し、防御率1.92は、ソフトバンクの千賀滉大を抑え、パ・リーグ1位である。

「打たれたらキャッチャーの責任」(若月)

 3年間ですくすくと伸びた体と心が、山本の今の立ち位置を築いている。

 身長178cm、体重80kgと体格はプロ選手としては特別大きいわけではない。しかしストレートの最速は156kmに及ぶ。カットボールやシュートも150kmに届くスピードで変化し、フォーク、スライダーも一級品。リリーフではあまり投げなかったカーブも、今年はカウント球としても勝負球としても有効だ。捕手の若月健矢はこう語っていた。

「いい球をいっぱい持っているし、ボールの力で勝てていますね。フォーク、スライダーは一発で仕留めるというか、空振り三振を取るイメージ。カット、シュートはずらしてゴロを打たせられるし、カーブで緩急もつけられる。万能ですね。すごいと思います。打たれたらキャッチャーの責任だと思っています(苦笑)」

 ランナーがいない場面では見せ球などは考えず、どんどん3球勝負を仕掛けていく。

終盤でも落ちない球威の理由。

 また、試合終盤になっても球の威力が変わらないと若月は言う。

 124球を投げて完封した6月28日の西武戦は、1回から155kmを連発しながら、8回に153km、9回に152kmをマークした。山本は言う。

「全然疲れはなかったです。むしろ自分は尻上がり。9回とかの方が感覚はすごく鋭い。投げるほどフォームがどんどんまとまっていい感覚になるし、力みがいい具合になるので、後半の方が楽に投げられている感じがします」

 終盤のイニングでも疲れを感じない理由は、「力で投げていないから」だと言う。

「1年目は力で投げてたから、疲れたらもう投げられなくなっていたんですけど、今は力じゃないんです。だからいつでもスピードを出せるようになりました」

 力ではなく、では何を使って投げているのかと聞くと、こう答える。

「力じゃない力。力を抜いた中で、力を出せる。体全体でしっかりボールに力を伝えられているという感じですね」

柔軟性と連動性を意識し始めた1年目のオフ。

 転機はプロ1年目のオフだった。山本は1年目からファームで登板を重ね、33回2/3を投げて失点1、防御率0.27という驚異的な結果を残し、シーズン終盤に一軍で先発し初勝利も挙げた。ただ、一軍では5回を投げるのが精一杯で、登板翌日は痛みでキャッチボールもできない状態だった。

「今のままじゃ無理だ」

 そう痛感した山本はその年のオフ、横浜DeNAの筒香嘉智たちと自主トレを共にした。そこで出会ったトレーナーや筒香に大きな衝撃を受け、考え方や練習方法は一変した。その直後の春季キャンプでは、「とにかくすごいんです」と目を輝かせていた。

 多くは明かさないが、体の強さや柔軟性、連動性といったあらゆるものを同時に高められるトレーニングを教わり、チームに戻ってからも継続してきた。

 ただ、昨年は、そこで会得したことをマウンドで思うように活かせなかったと悔やむ。

「やっぱり去年は8回の1イニングだったので、場面的にもすごく力が入ってしまって、やりたいことが全然できていなかった。中継ぎだと、抑えようとしすぎて、自然と力で投げちゃう。結果を求めすぎましたね。

 今年は、自分が求めているものをぶれさせず、結果にビビらず、しっかりやっていけば、自然と結果がついてくるのかなと思ってやっています。最近やっと感覚がわかってきたというか、まだまだなんですけど、徐々に納得するところも増えてきたかなと思います」

“体全部でひとつ”というイメージ。

 今年、オリックスの鎌田一生トレーナーが、「山本由伸150キロ台中盤の豪速球の秘密」と題して、山本が自主トレから持ち帰って行なっているトレーニングの一部をインスタグラムで公開した。例えば、ブリッジの姿勢から手足を上げたり、回転したりするものだが、それはメニューのほんの一部に過ぎないという。

 その映像を見るだけで、山本の体の柔軟性やしなやかさがわかるが、「そんな単純なものじゃないんです」と山本は言う。

「柔らかさだけじゃなく強さをすごく意識しています。体の内の力というか……。力を抜いた中で力を出せるように、力じゃない力を鍛えてる。そんな感じですかね」

 どの部分をどう鍛えるといったトレーニングではないため、「言葉では説明できない」と苦笑しながらも、こんな表現で話してくれた。

「自分の動作に、“足で”とか、“手で”とか、“右手をこうする”とか、そういう概念が今はないんです。“体全部でひとつ”というイメージです」

数字よりも勝利にこだわる山本。

 オリックスの鎌田トレーナーはこう解説してくれた。

「よくアマチュアの子などに『どこを鍛えたら球が速くなりますか?』という質問をされるんですが、どこか1カ所を鍛えても無理なんです。全身の連動なので。もちろん基礎筋力は大事ですが、筋力があればあるほどいいというわけではありません。“筋力イコール球速”ではない、ということを由伸が証明してくれていると思います」

 前半戦は防御率1位の座をキープしてきたが、「1人1人、1イニングずつ積み重ねていったものが数字になっているだけで、防御率をよくしようというイメージはないですね」と冷静だった。

「自分の調子が(防御率に)表れるので参考にしたりはしますけど、そこばっかり見てると、点を取られた時にショックだったり、勝つという目的よりもちょっと上回ってしまったら、個人プレーになっちゃう。野球はチームプレー。チームのために、が一番ですからね」

 どのタイトルにもこだわりはあるが、もっともこだわるのは“勝利”だ。以前から山本はプロでの目標を「チームを勝たせられるエースになること」と語っていた。

「とにかく勝ちたい。自分が投げた試合でチームが勝つ。それが一番の仕事です」

若きエースに響くベテラン比嘉の言葉。

 一方で、「自分に勝ちがつくかどうかは、一番最後の、おまけ」だと言う。

 今年の前半戦、山本はとことん打線の援護に恵まれなかった。防御率1点台で、13試合のうち9試合で自責点2以下に抑えたにも関わらず、4勝4敗にとどまっている。

 それでも不満はおくびにも出さず、自身がマウンドを降りた後は、ベンチで身を乗り出して試合を見つめる。自分に勝ちがつかなくても、チームに得点が入れば無邪気に、全身で喜びを表現する。

 山本が胸に刻んでいるのは、先輩である比嘉幹貴の「いい時こそ謙虚に、悪い時こそ明るく」という言葉だ。昨年、山本がリリーフをしていた時にかけられた言葉だという。

「確か由伸がちょっと暗かったので、『どうした?』みたいなノリから、そんな話をしたんだと思います。いいピッチャーなんだから、明るくいけよ、みたいなね。そんな言葉を覚えててくれて、言ってくれて、すいませんって感じです(笑)。嬉しいですね。そんなん覚えててくれたんだなーって」

 比嘉はそう言って笑う。そんな腰の低い36歳のベテランを敬愛する山本は、うなぎ上りの世間の評価に浮つくことなく、まっすぐに伸びていく。

 6月28日のプロ初完封について聞いた時、山本はこう語っていた。

「もちろん嬉しいですけど、お祭りまではいかないですね。シーズンはまだこれからというか、半分もあるので、いいピッチングをもっともっと積み重ねていきたいなと思います」

 オールスターゲームや後半戦でも、まだまだ衝撃的なピッチングを見せてくれそうだ。

(「猛牛のささやき」米虫紀子 = 文)