学校の部活動の指導者が、子どもに手をあげる事態が各地で繰り返されている。どうしたらなくすことができるのか。

 ある東北地方の20代の男性は中学時代、強豪校の男子バスケットボール部に所属。顧問の指示通りにプレーができないとコートの横で腹を殴られ、顔を平手打ちされたという。当時は「体罰は結果を残すため」と思っていた。男性の代では県大会で上位入賞。「部活の成績が加味されて高校に推薦入学できた。自分にとって成功体験」だった。

 しかし2012年、大阪市立桜宮高校バスケットボール部の主将の男子生徒(当時17)が顧問の暴力がもとで自殺。自身の経験と重なり、教師を目指して進学した大学で体罰の論文を読み込んだ。「体罰はよくない」と頭で理解しても、厳しく指導する場面では仕方ないとの思いがあった。「自分の過去は否定しづらかった」と葛藤を明かす。だが、次第に「体罰はすべきではない」と考えが変わった。男性は小学校の教師になった。「恐怖を与えて言うことを聞かせる体罰は長い目では将来につながらず、指導とは言えないと思う」

■血で汚れたTシャツ、教諭が捨てさせる

 兵庫県の公立高校男子バレーボール部の元部員の40代男性は「監督の男性教師から、ささいなミスでほぼ毎日殴られたり、たたかれたりしていた」と振り返る。成人してからもトラウマに苦しんでいるという。「たたかれる時は『ハイ』と返事をしなければならない。パチン、ハイ、パチン、ハイが延々と続いた」。唇や口の中からの流血でTシャツが汚れることもあった。

 「教師はいつも新品のTシャツを袋に入れていた。着替えさせ、汚れたTシャツは捨てさせた。親に発覚しないようにするためだったのでは」と振り返る。

 男性は「何年たっても教師に殴られる夢にうなされる。殴られても殴られても部活を辞めさせてもらえず、追い詰められる夢です」と訴える。

 九州地方の小学校教師の女性(39)は中学のソフトボール部で監督の男性教師から体罰を受けた。空振りやエラーのたびにビンタされ、フライを捕れないと「消えろ」「死ね」。たたかれながら教師の気が済むのを待ったという。

 「ミスした自分が悪い」と思い込み、親にも相談できなかった。部活をしないと高校受験で不利との理由で、退部もできなかった。

 数年前、同僚の教師が子どもを怒鳴りつける様子を見るなどして、不眠や吐き気がでて精神科を受診。PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、「中学時代の体罰が関係している」と医師に言われた。

 女性は「自分の指導力不足で子どもが動かないのに、脅して動かそうとする指導者が少なくない。体罰がいかに心に長く傷を残すかを実感しており、私は絶対に子どもに体罰をしない」と話す。

 文部科学省は体罰を「受けた生徒のみならず、その場に居合わせて目撃した生徒の後々の人生まで、肉体的、精神的に悪い影響を及ぼす」としており、学校教育法でも禁止している。なぜ、なくならないのか。

■「成果」出した指導者、異動させず

 早稲田大の友添秀則教授(スポーツ倫理学)は、「勝利至上主義」を挙げる。スポーツで知名度をあげようとする学校は少なくなく、指導者は全国大会での活躍が仕事上、「必須」。生徒側も好成績を残せば進学につながる。結果を出した指導者をブランド力をあげるために長年異動させない結果、他者がものを言えない状態になるケースも少なくない。こうした環境だと「勝つためには何をしても許される」と指導者が勘違いしがちだという。

 また、「体罰が嫌な人はスポーツをやめ、『愛情だった』などと肯定的に捉えた人がスポーツ界に残って指導者になるため暴力が再生産される」という。

 大阪体育大(大阪)では、スポーツ指導での暴力根絶を目指す講義「運動部指導実践論」を、土屋裕睦(ひろのぶ)教授(スポーツ心理学)が開いている。「ミスを繰り返す選手を走らせるのは体罰か」といった実際の指導で起こりうる場面を想定し、体罰の是非を学生が議論。授業後には体罰否定派が増えるという。

 部活の「自治」を提唱するのは、関西大の神谷拓教授(スポーツ教育学)。「部の目標や方針」「練習の内容」「出場メンバー」などを、子どもが中心になって決める。宮城や山梨の学校で実践してきた。「みんなで話し合う場を設けることで体罰は抑止できる」と話す。

 いま体罰に苦しむ子はどうしたらいいのか。「自分が悪いと思わず、まずその場から離れる。教育委員会やスクールカウンセラーなど複数に相談し、しっかりと対応してくれる大人を探して欲しい」と話す。(坂東慎一郎、吉田博行、長富由希子)

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