NBAコミッショナーのアダム・シルバーがステージ上に出てくると、八村塁は下を向いた。直前に代理人から指名を知らされていたのだという。シルバーが「2019年ドラフト9位で、ワシントン・ウィザーズは日本の富山出身でゴンザガ大学のルイ・ハチムラを指名しました」と発表すると、満面笑顔で顔をあげた。

 壇上でコミッショナーと握手し、記念撮影した後、レポーターに「カメラに向かって日本の人たちにメッセージを」と言われると、またも笑顔を輝かせ、日本語で言った。

「皆さん、やりました。日本人初(ドラフト1巡目指名での)NBAです!」

 こうして、八村は笑顔とともに歴史に名前を刻んだ。

 NBAドラフトは多くの夢が現実となる舞台だ。コミッショナーに名前を呼び上げられることで、子供の頃から夢見ていたNBAの世界への切符が与えられる。八村にとっても、中学1年のときにコーチから「お前はNBAに行ける」と言われたときから信じてきた夢が現実になったときだった。

予想より早い順位での指名となった八村。

 実は1巡目9位というのは、ドラフト前の多くの専門家たちが出していたモックドラフト(予想)よりも少し早い順位での指名だった。

 大方の予想では11位のティンバーウルブズ(直前にトレードで指名権をサンズに譲渡)、12位のホーネッツ、19位のスパーズのあたりが八村に興味を持っていると言われており、これらのチームの指名を予想する専門家が多かった。9位という予想も、ウィザーズが指名するという予想もなかった。ウィザーズ・ファンの中にはデューク大のカム・レディッシュの指名を期待していた人たちもいて、八村の指名にがっかりしたという声も出ていた。

 ウィザーズも一時は、もう少し下の順位でも八村を指名できるかもしれないと、トレードで順位を下げることも考えたのだという。実際に、下位のいくつかのチームから指名順交換のオファーがもちかけられた。しかし、持ちかけてきた中に八村狙いのチームがありそうだと感じ、結局9位に留まった。

「多くの人(チーム)が9位を欲しがった。みんな、同じ選手(八村)の指名を考えていたのだと思う。100%確実ではないけれどね。でも、この仕事を長くやっているから、チームがドラフトで特定の順位を欲しがり、特定の選手を取りたいときはわかる。それをさせるわけにはいかなかった。ルイこそ、私たちが欲しかった選手なんだ」と、トミー・シェパードGM代行は語る。

 実は、ドラフト前の八村に対する評価は、人によって差が大きかった。

ウィザーズは八村の伸びしろに期待大!

 正確なジャンプシュート力を持ち、1年目から即戦力として使える選手というのは多くの人に共通した評価だったが、一方で、3Pシュートの数が少ないことに懸念を示す人もいた。現代バスケで3Pシュート力がない選手は時代遅れで、結局は試合で使えなくなってしまうからだ。

 また、ディフェンス面でも、ウィザーズは「どのポジションでも守れる選手」と評価するが、大学時代の試合でスイッチの連携がうまくいかなかった場面や、ガードにマッチアップしてついていけなかった場面を取り上げ、バスケットボール感覚に欠けると不安視する人も多かった。

 有望選手は20歳になる前にNBA入りするなかで、八村は大学3年を終えた21歳。その年齢から弱点はこの先修正されることなく、これ以上の伸びしろがないと断定する声もあったのだ。しかし、ウィザーズはバスケットボールを始めたのが中学からと遅く、トップレベルの中でプレーしたのもわずか3年だということに注目し、八村の伸びしろはまだ大きいと期待する。

ウィザーズHCは田臥勇太とも縁のある人物。

 ドラフト前には厳選したチームとしか面接やワークアウトをしなかった八村は、ウィザーズのワークアウトや面接にも行っていない。9位という高い指名なのに、面接もしたことがない選手を指名したことを揶揄する声もあるが、シェパードは「私たちは(ゴンザガに入ってからの)3年間、ずっと彼を見てきた。ゴンザガのコーチや、対戦相手のコーチ、選手にも意見を聞いた。私も試合の後に、1人の通りすがりの人間として言葉を交わしたこともある。毎回、彼はとても丁寧でプロフェッショナルだった」と、たとえ公式に面接という形で会っていなくても、八村の性格や練習熱心なことはわかっていて、不安もなかったと断言する。

 ウィザーズのヘッドコーチ、スコット・ブルックスは、かつて、田臥勇太がトレーニングキャンプに参加した時のデンバー・ナゲッツのアシスタント・コーチだったことがある。その後、オクラホマシティ・サンダーで、20代前半のケビン・デュラント、ラッセル・ウェストブルック、ジェームズ・ハーデンを率い、2012年にはNBAファイナルにも進出している。

 それだけに、どんな才能がある選手でも、若いときにはまだすべてが完璧にできる選手はいないということを理解している。

「みんながルイのことを大好きだった」

 ブルックスHCは言う。

「私が見たところ、ルイはいいところばかりだった。

 私はこれまで多くの若い選手を見てきたから、そういった(専門家の)人たちとは違う見方をする。若い選手は時間がかかる。今の時代はすぐに結果を求めるけれど、ルイもまだ学んでいるプロセスにある。私はコーチとして多くの若い選手たちを相手にしてきたし、辛抱強くなくてはいけないということがわかっている。

 困難なときを自分で乗り越えさせるようにしなくてはいけない。励まし続け、ポジティブであり続け、自信を与え続ける。若い選手はそういうものだ」

 八村をウィザーズの指名候補として検討する中で、単に試合映像でプレーを見るだけでなく、ゴンザガのマーク・フューHCなど、様々な関係者に話を聞いたという。

「話をしたみんながルイのことを大好きだった。彼のプレーの仕方、競争のしかた、ゲームへのアプローチ、チームメイトとの交流のしかた、とてもフレンドリーで、すごく親しみやすく、敬意をもって人に接する。彼のそういうところは大好きだ。彼を獲得できたのはとても嬉しい」と、単に身体のサイズ、運動能力やスキルだけでなく、彼の人間性にも惚れ込んでの指名だったと語る。

過渡期にあるウィザーズの現状とは?

 実は現在、ウィザーズはチームとして岐路にある。

 チームのスーパースター、ジョン・ウォールは今年2月にアキレス腱を断裂し、長期欠場が予想され、復帰後も故障前のような活躍ができるのか疑う声もある。

 2番手のブラッドリー・ビールはオールスター選手に成長したが、ウォール復帰まで時間がかかることから、チームで最もトレード価値が高い彼を、契約が2年残っている今、思い切って放出し、チーム再建を進めるべきではないかという意見もある。しかし、それを決めるべき正GMが不在で、今回のドラフトで全権を持っていたシェパードはGM代行にすぎない。

 そんな渦中に八村もあるわけだ。

ゴンザガ大の時と同じ志で臨むNBA。

 チーム状況は決して安定しているとは言えないが、少なくとも、チームは八村のことを高く評価して指名し、彼をさらに育てたいと考えている。

 1年目から出場時間が与えられる可能性も高く、早くから自分を証明するチャンスだ。

 八村自身は、「チームにインパクトを与えたい」と目標を語る。ドラフトでどこから指名されてもそれを目標として考えていたのだという。

 ゴンザガ大のときと同じ姿勢だ。

 ウィザーズがどんな道を歩もうと、その目標は変わらない。

「スタッツなどではなく、チームに貢献することを目標にできたらと思います」と、ウィザーズのためにプレーすることを誓った。

(「日々是バスケ」宮地陽子 = 文)