重たい曇天の下で収めた1-0の勝利――。

 空の色やスコアと同様に内容も渋かったと言われたら、否定はできないだろう。実際、ホームで苦しみながら松本山雅を下した横浜F・マリノスの面々は、「我慢比べみたいな試合」(喜田拓也)、「じれた展開」(仲川輝人)と振り返っている。

 ただし、この3ポイントの持つ意味は大きい。

 横浜はこの日(6月22日のJ1第16節)を4位で迎え、後ろには勝ち点2差で続くチームが2つあった。15年ぶりのリーグ優勝を射程圏内に捉え続けるためには、14位の松本とのホームゲームは確実にモノにしなければならなかったわけだ。

三好、マルコスが不在の中で。

 また前節には、これ以上ないほど悔やまれる敗北を喫している。1週間前の清水エスパルス戦では、1-1で迎えた終盤に仲川が勝ち越し点を決めながら、89分とロスタイムに立て続けに被弾して敵地に歓喜を献上した。

 仲川の得点の直後に、マルコス・ジュニオールが2枚目の警告(GKから戻されたボールを大きく蹴って遅延行為と判定された)を受けた影響もあったかもしれない。いずれにせよ、チームは「本当に落胆」(アンジェ・ポステコグルー監督)し、そこからどう反応するかが試されたのである。

 加えて、中盤には出場停止のマルコスと、コパ・アメリカに参戦中の三好康児がいない。2年目のオーストラリア人監督が掲げる攻撃的なスタイルの根幹を担うミッドフィールドの構成も注目された。

 上位チームにふさわしいしぶとさ、立ち直る力、選手層――。結果的に、ポステコグルー監督と選手たちは、その3つの問いをすべてクリアした。

 たとえ、満点回答ではなかったとしても。

「自陣でのパスが多すぎたんだ」

「前半は相手に楽に陣形を作らせてしまい、彼らの望む展開に持っていかれた」とポステコグルー監督は試合後の会見で語った。

「(松本は)守備の強いチームで、うちの攻撃を断って逆襲につなげていった。こらちの問題は前線ではなく、その後ろにあった。自陣でのパスが多すぎたんだ」

 横浜は序盤こそ、マルコスの代役に指名された山田康太がボックス内から、天野純が直接FKから連続でゴール枠を強襲したものの、以降は監督の言葉通り、松本にペースを握られていった。

「去年なら、勝てなかったかもしれない」と指揮官は続けた。「だが選手たちは精神面の重要性も理解し始めている。そして少し修正を加えた上で、我々のやり方を貫いていった」

天野のポジションを下げた理由。

 5月のJ1最優秀監督に選ばれた53歳の戦術家は、天野のポジションを下げて中盤を逆三角形から正三角形気味に変更。その理由をこう説明する。

「前半の問題は選手がポジションに固執したようなところにあった。私たちのフットボールに、選手の決まった立ち位置は存在しない。また前半は動きが足りなかった。松本が引いて守ってくることがわかっていたから、うちの選手は前目で攻撃をしたかったのだろう。だが、前に入るのが早すぎたんだ。

 天野純には1試合あたり、50~70本のパスを出してもらわなければならない。しかし今日の前半は10本ほど。その理由は前に行こうとしすぎたからだ。だからそこを修正した。

 繰り返すが、このチームには選手それぞれの決まったポジションはない。我々のシステムは常に動き続けるものだ。サイドバック、センターバック、MF、FW、そしてGKも動かなければならない。ナンバー10も、ナンバー6もない。マリノスでプレーする選手なら、ボールを持った瞬間に(指をパチンと鳴らして)、スペースを探して、そこへ動かなければならない」

大津がエジガルの決勝弾をお膳立て。

 その天野が「前でやりたい気持ちもあるけど、折り合いをつけて」低めからの配球を担うと、マリノスは徐々に帆を張るようになる。

 適切に風を捕らえ始めた船は、フレッシュなクルーが投入されたことにより、さらに勢いを増した。

 64分、山田と交代したのは大津祐樹。今季、リーグ戦では1度の先発にとどまっているものの、リーグカップでは2得点を記録する背番号7は、「外から見ている時、足元へのパスが多かったので、自分が出たら背後のスペースをどんどん突いて行こう」と考えていた。

 そして80分、ダイナミックに左サイドの奥に駆け込み、並走する旧友の今井智基との競り合いを制して、右足のアウトサイドでボールを折り返す。すると中央でうまく反転して受けたエジガル・ジュニオが右足で4試合連続となるゴールを挙げ、J1得点ランキングで単独首位に。この1点が勝負を決した。

喜田「最後のひと刺しができた」。

「こういう難しいゲームをしっかり勝ち切るのは、とても大事なこと」と話したのは主将の喜田だ。

「崩れず、最後にひと刺しできました。これまではなかなか、こんな展開の試合を見せられなかったので、その意味では成長と言えるでしょうか」

 5月のJ1月間MVPに輝いた背番号8は前節の逆転負けは、「生かさないといけない」ものだったと言う。

「長いシーズン、こういう試合もあるよね、と言って終わりにしたくなかった。あれから学ぶべきものは本当にたくさんあったと思います。あの悔しすぎる結果はもう戻ってこない。だからシーズンが終わった時に、あそこがポイントだったと振り返られるぐらい、意味のあるものにしないといけない」

 公式記録には、攻撃的MFの代役の代役が決勝点をお膳立てしたことが記されている。

 スクアッド(陣容)全体が激しい生存競争のうえに成り立ち、控えのクオリティーもレギュラーと遜色ないこと──しかもタイプは多彩──がわかる。

誰が出ても遜色のないマリノス。

「うちにはいい選手がたくさんいるので」と10番を背負う天野は話す。

「おれが言うのもなんですけど、誰が出ても遜色なくマリノスのサッカーができますよね」

 勝ち切る力、回復力、厚みのある戦力。そのすべてを誇示したマリノスは、暫定2位に浮上した。今季は連敗がなく、総得点は長いこと1位を維持。ポステコグルー監督がナビゲートする攻撃的なチームに、安定感が備わり始めているようだ。

「今日は難しい試合だった」と指揮官は振り返った。彼が母国でブリスベン・ロアーを初のAリーグ制覇に導いたのも、就任2年目だった。2年目の今季の横浜でも、同じことができるだろうか。

「きれいな勝ち方ではないかもしれないけれど、結果を手にできた。多くのゴールは入らなかったが、ハードワークした末に勝ち点3を獲得できたのだ。今日の勝利は自分たちのスタイルを貫いた選手たちへのご褒美だ。間違いなく、選手の自信につながる」

 マルコスは次節から戻ってくるし、ブラジルで開催されているコパ・アメリカで大活躍する三好もそのうちに帰ってくる。小柄なドリブラー泉澤仁の新加入も決まった。そして選手と監督の最新の月間MVPは、このチームの主将と指揮官だ。負傷者の心配は多少あるが、展望は暗くない。

 曇り空の下で掴んだ渋い1勝が、その見込みを強くさせる。

(「JリーグPRESS」井川洋一 = 文)