真面目な顔つきで淡々と質問に答えていたシカゴ・カブスのダルビッシュ有投手が、その表情を緩めてこう言ったのは6月19日、今季16度目の登板を2日後に控えた日の午後、地元リグリーフィールドのクラブハウスでのことだった。

「普通のカチカチしている感じの日本人というよりも、ちょっとダラけたような感じでアメリカナイズドされているのが、僕には良かった。もちろん敬語とかはちゃんと使うし、礼儀とかもきちんとしているんだけど、自然体なところがすごく良い」

 翌20日のNBAドラフトでワシントン・ウィザーズから日本人初の1巡目(全体9位)指名を受けることになる、日本バスケットボール界「期待の星」八村塁選手のことだ。

「餅、渡しといてください」

 代理人事務所が同じ(ワッサーマン)だったこともあり、同選手のゴンザガ時代から親交があったそうで、今年、カブスがロサンゼルス遠征した際には、食事をともにした写真をインスタグラムに載せている。

 ちなみにワッサーマンのクライアントには、13年総額3億2500万ドル(約360億7500万円)で契約したジャンカルロ・スタントン外野手(ヤンキース)や、6年総額2億3300万ドル(約258億6300万円)の大型契約を結んだラッセル・ウエストブルック(NBAのサンダー)といったスーパースターを筆頭に、ドジャースの前田健太投手、NBAグリズリーズの渡邊雄太選手らの日本人アスリートも名を連ねている。

「ご飯食べに行った次の日に、エージェントの人に『八村くんて何が好きなんですか?』って聞いたら、『たぶん、肉かなぁ? ……違うわ、餅とあんこが好きなんです』って。マジか? それ、僕と一緒やん! ってなって」

 ダルビッシュの表情が、そこで一気に崩壊する。

「実は僕、登板前日とかにメッチャ餅とあんこ、食うんですよ」

 羊羹が好きなのは知っていたが、「餅とあんこ」とは……。

「カーボアップのためもあるし、餅は良い糖質でもあるし、体に合うし、もちろん美味いし。その時もちょうどバックパックの中に餅が入ってたから、『餅、渡しといてください』って言って。そしたら向こうも喜んでくれたらしくて」

野茂さんみたいにパイオニアというか。

 まるでダルビッシュ・ファンの人々が「Yu Darvish」のことを話すような感じで、彼は少し興奮気味に、こう続けるのだった。

「この世界にこれだけいろんな食べ物があって、餅が好きっていうのは分かるけど、餅とあんこって……その2つが好きって、ピッタリ合うってなかなかないじゃないですか。そういう人が来週ドラフト行くって言ってたんで、なんか凄いなぁって……」

 最後の「凄いなぁ」に何とも言えない実感がこもっていた。

 そして、32歳のメジャーリーガーが、21歳でNBAにドラフトされたバスケットボール選手に「そういう子」ではなく、「そういう人」と言ったところに、リスペクトを感じる。

 年齢なんて関係ない。アスリートだろうが、ゲーマーだろうが、ユーチューバーだろうが、他の誰もやってないことに取り組んでいる人々、その中で突出した才能を発揮している人々に対し、何の躊躇いもなく、羨望にも似た眼差しを向ける。

 それがダルビッシュ有という人なのだろう。

「他の日本人ができないことをしているってだけで、もう野茂(英雄)さんみたいにパイオニアというか、そういう存在に近いと思う。なんかね、すごい日本人って感じ」

「僕の21歳の時と似てるかも」

 その眼差しはしかし、とても敏感だ。

 ロサンゼルスで食事を共にした時、「(NBAで)絶対、成功してやるとかそういう気負った感じも、そんな雰囲気もなかった」と肌で感じた。

 でも、とダルビッシュが言葉を繋ぐ。

「なんかこう、大きな権力に対して中指立ててる風な空気は、出ていた。僕の若い時と同じっていうか、『は? 俺が一番やし』みたいな。やってることは違うし比べられへんけど、精神的なところでは僕の21歳の時と似てるかも」

「自分を持っていればいい」

 21歳の尖っていた自分自身と、今まさに、「唯我独尊」的に世界最高のバスケットボール・リーグに飛び出そうとしている21歳。

 その接点はしかし、「日本を飛び出して世界に戦いの舞台を求める」というような、我々メディアが書きたくなるベタな部分には存在しないような気がする。

「自分のやりたいように生きて、言いたいことを言って、やりたいようにプレーすれば勝手に結果はついてくる。周りに惑わされず、自分を持っていればいいと思う」

 自らに由って、自らが在る。

 自由自在であるがゆえに日本を飛び出し、アメリカという名の「世界」で戦う2人が、世代を超えて共鳴している――。

(「メジャーリーグPRESS」ナガオ勝司 = 文)