ラグビー・ワールドカップ(W杯)の開幕まで、12日であと100日に迫った。初の決勝トーナメント進出を目指す日本代表には、帝京大出身者が8人も名を連ねる。姫野和樹(24=トヨタ自動車)や流大(26=サントリー)は社会人1、2年目に所属先で主将を務めるなど、リーダーも多い。なぜ人材が育つのか? 大学選手権V9を誇る帝京大ラグビー部の岩出雅之監督(61=帝京大スポーツ医科学センター教授)に聞いた。【取材・構成=佐々木隆史、桝田朗】

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帝京大から大学別では最多となる8人が日本代表に入っている。坂手、堀江、堀越のフッカー3人、フランカーのツイ、NO8姫野、SH流、SO松田、CTB中村。大学選手権V9メンバーがそのまま成長した、という単純な話ではない。リーダーが育っているのだ。流は社会人2年目、姫野は入社1年目で所属チームの主将に抜てきされた。

岩出監督 姫野は大学時代、ケガがちであえて試合数を少なくした。未来の大器だし、うちのためにも日本のためにも、大学4年のラスト1カ月にいてくれたらいいぐらいの気持ちだった。キャプテンをさせてもらって苦しかったやろうけど、それがダッシュした3年間になって結果的に良かった。

主将就任当初、姫野はよく岩出監督のもとを訪れ、苦しい思いを吐露したという。自身の経験を踏まえ「今は苦しいかもしれないが、20代にこんな財産をもらったと後からしみじみ気付くもの」と励ました。流には「大学時代とは違う挑戦をして、変化、成長をみたい」と期待する。監督として教育者として、卒業後も教え子たちの伴走役を務める。

1996年、関東対抗戦下位の常連だった帝京大の監督に就任。「朝起きて学校に行く。講義をまじめに聴く。練習をサボらない」から始め、クラブを少しずつ変えていった。それまで1年生がやっていた雑用を4年生に任せ、1年生の負担を少なくした。それこそが、帝京大からリーダーが多く育つ要因でもある。

岩出監督 今の1年生は親から大事に育てられ、我々の時代のように「鉄は熱いうちに打て」でやると勝手につぶれていく。本人が4年間成長していくために上級生が懐が深く、たくましいところを見せて関わっていく。その1つが雑用。1年生に安心感が生まれ伸び伸びすると周りを気にし出して、自己承認欲求や仲間への欲求が高まっていく。それに満足した中で、能動的になっていくという成長プロセスがある。結果的に自分のことで精いっぱいだった下級生が、他人のことに一生懸命汗をかく人になっている。今の世の中のリーダー像は関われる力がある人。相手の心を動かせる人。お世話になっている(社会人)チームがそれを求めますね。

組織のあり方を変え、練習では全体の7割が達成できることを標準とする「7割の法則」で指導した。ケガ防止のため当時の大学スポーツでは画期的な管理栄養士の採用や、トレーナーとの連係を促進。選手の血液検査で、疲労度やトレーニング効果を数値化し強化に生かした。選手同士のコミュニケーションを高めるため、企業や海外の軍隊で採用されている情報伝達メソッドを取り入れた。

岩出監督 人は育てるものではなく、育っていくもの。本人が自分を変えようとする挑戦の場作りを提案できる指導者になりたいと思っています。4年間でいくら成長しても、その4年間が人生の中で一番輝いた期間で終わったら、それって実は不幸ですよ。人としての魅力を世の中に入って生かしながら成長していける、そういう発想で育てて、出口もしっかりサポートしているつもりです。

姫野や流らが、社会人になっても活躍する理由が、ここにある。そして迎える、今年のW杯。

岩出監督 ラグビーって仲間との関係でさまざまなことを学んでいける競技。のちのちに精神的な自立と、本当に大人になっていくためのプロセスを兼ね備えた競技だと思うんですよ。そういうところも感じて欲しいですね。

◆岩出雅之(いわで・まさゆき)1958年(昭33)2月21日、和歌山・新宮市生まれ。新宮高でラグビーを始め、日体大4年の78年に主将(フランカー)として大学選手権優勝。卒業後、滋賀県の教員採用試験に合格し、中学、高校の教員を務め、30歳で八幡工に赴任。念願のラグビー部を率い、7年連続全国大会出場。高校日本代表監督も務め、96年から帝京大監督。10年1月の全国大学選手権で東海大を破り、初の全国制覇を達成。そこから18年まで9連覇。11年4月から同大教授。