4月から「さいたまスポーツコミッション」の会長として活動しはじめて、日々さいたまのポテンシャルを発見しています。

 地域活性化のキモは“よそ者”とよく言われますが、その土地に住んでいる人がなかなか気づけない、目を向けない、眠っているブランディング価値の高いものごとがそこかしこに存在することを実感する日々です。

 中でも新鮮な驚きだったのが、先日じっくりその中を見せていただいた、さいたまスーパーアリーナです……と言うと驚かれるでしょうか。

 もちろんスーパーアリーナはみなさんご存知でしょうし、私も何度もコンサートやスポーツイベントで行ったことがありました。でも今回案内をしてもらって、「こんな凄いものをどうやって建てたんだ」と改めて驚きました。

 あのアリーナの価値が、あまり世の中には知られていない! と強く思いましたので、ちょっと紹介させてください。

イベントによって壁を動かせる。

 まず、建設費が680億円、総開発費は1250億円です。これがどのくらい凄いかというと、大阪城ホールの建設費がだいたい100億円、横浜スタジアムなどをはじめとするプロ野球のスタジアムが現在価格で100~200億円、東京ドームですら350億円です。2500億円と言われる新国立競技場を除けば、日本にこれほどの“ハコ”は他にありません。

 2000年にできましたが、当時の知事が「後世に残るものを作ろう」と言って、埼玉スタジアムとスーパーアリーナを作ったそうで、確かにどちらも日本最高のスタジアム、アリーナという評価が定着しています。

 では、具体的にスーパーアリーナの何がすごいのか。

 大きなところで言うと、まず壁が動くんです。ご存知でしたか?

 私は何回も行ったはずなのに、大きなコンサートばかりだったせいか、壁が動くとは想像もしていなかったので聞いて驚きました。

 アリーナの片側の壁を座席やトイレやそういう設備ごと移動させて、イベントに応じた形で使うことができるのです。

最大で3万7000人、6000席ホールも。

 バリエーションとしては、全体を1つのイベントで使うスタジアムモードが一番大きい形で、これが3万7000人はいります。

 壁を動かして、2万2500人はいるメインアリーナモードと7500平米のコミュニティアリーナの2つに分けることもできます。つまり、2つのイベントを同時に開催することができる。しかも、片方でどれだけ音を出してももう片方には何も聞こえません。

 あとはクラシックコンサートで使うような舞台と客席の形で、6000席の超大型ホールにすることもできます。

 どの形でも、座席は壁や地面に収納されていて自動で出てきます。しかも普通なら座席ってプラスチックが多いんですが、スーパーアリーナは全部布です。これは理由があって、コンサートの音響を考えた時に、プラスチックだと反響してしまうので布で吸収性を上げている、とのこと。もちろん壁も音響に最適なものを使っているそうです。

 こういった1つ1つのディテールは、最初に「何に使うか」「どうやって使うか」を想定していないとできないことなので、本当に考えて作ったんだろうなと感心します。

 実際に使う機会はあまりないそうですが、アメフトのスタジアムとして使用するための人工芝も完備されています。

細かいところまで最強のアリーナ。

 あとイベント開催者が喜ぶポイントとして、天井が降りてきて照明や音響機材の取り付けが地面でできること、大型トラックの動線がアリーナ中央まであるので積み下ろしからセッティングまでがすさまじく便利、というのも地味ながら重要です。

 お客さんに直接は関係ありませんが、主催者の負担が減ればコンサート時間を調整できたりチケット価格に反映できたり、という恩恵はあるはずです。

 他にも挙げればキリがないので列挙するだけにしますが、防災活動拠点にもなっていますし、雨水の濾過装置や自家発電もあって、屋根一面には太陽光発電のパネル、壁面は緑化……。

 男性アイドルのコンサートなどで女性客が多い時は男子トイレの一部を女子トイレに変えるための設備があったり、細かいところまでとにかく最強のアリーナなんです。

「大きすぎる」のが唯一の弱点。

 年間のスケジュールはもちろんいっぱいで、1年中フル稼働している状態です。

 内訳はコンサートが大体50%弱で、スポーツイベントが20%くらい、あとは展示販売イベントとか、意外なところでは中学・高校の女子校の運動会が増えているそうです。最近は盗撮やプライバシーが問題になっているので、それを避けるためにも屋内でこれだけ広い空間があるスーパーアリーナは最適なんでしょうね。

 と、ここまで褒めちぎって来ましたが、私が考えるところ、日本最強のアリーナであるがゆえに、スーパーアリーナには1つだけ弱点があります。

「大きすぎる」んです。

 大きすぎるとどうなるかと言うと、開けるイベントが限られてしまう。数万人を動員できる全国区のイベントになるので、必然的に集客のためのマーケットが"さいたま地域"を超えて大きくなり、新幹線で来るお客さんも多いんですね。

 大宮に新幹線が止まるし空港からの直通バスもあるのでアクセスはいいんですが、イベントを目指して来て、終わったら帰ってしまうお客さんも多くて、“さいたま滞在時間”がなかなか伸びづらく、さいたま経済圏でのARPU(average revenue per user=お客さん1人あたりが使う金額)、つまり“さいたまARPU”が中々上がりにくい構造にならざるをえません。

人が流れる場所を街にまで広げる。

 “ニワトリ卵”の話しではあるのですが、さいたまにもっともっと全国区のホテルや観光施設やエンターテイメント施設があれば、コンサート目的で全国から集まった方たちの“さいたまARPU”も上がるのですが、現況ではそうはいきません。

 さいたまに何がしかのイベントで来たり、スーパーアリーナでコンサートを見たんだけど、泊まるのは都心、観光に行くのはディズニーランドとスカイツリー、という人も多いんですよ。

 私が横浜DeNAベイスターズで特に意識したのも、この“ARPU”を上げることでした。試合の少し前に来てもらって買い物や食事やビールを飲んで、人それぞれに野球をつまみに楽しむ場所があって、外にコーヒーショップがあったり、会場内でもお土産を買ってもらったり、と。

 さらには、帰りに飲食店街で1杯飲んでいってもらって、“人が流れる”場所を、野球場の中だけでなく“街にまで広げる”ことで、自分たちだけの利益追求ではなく“地域経済圏ARPU”が上がって、アリーナやスタジアムに集まった人たちの恩恵を街に還元することができるわけです。

さいたまにもう1つアリーナを。

 そしてそのためには、やっぱり地元の人が年に何回も来る場所になることが大切になる。横浜では、ハマスタへ野球を見に行く癖(習慣)を作ることができました。ハマスタへ行くことが習慣になれば、その前後で遊びに行く場所や馴染みの店もセットで習慣になるんです。

 でもスーパーアリーナは大きすぎるがゆえに、全国規模であるがゆえに、地元のお客さんを定期的に集めるイベントの受け皿にはなりづらい。たとえばオリンピックや世界選手権の会場には最適ですけど、TリーグやBリーグのホームアリーナにはなれないんです。

 だからこそ、できるかどうかはさておき、池田論的には、さいたまにはもう1つ5000人~10000人規模のアリーナが必要だと思っています。

 私が特に可能性を感じているのは、スポーツで言えば卓球、バスケット、格闘技。そういうスポーツの「地域密着型ホームアリーナ」として地元に定着することで、巨大イベントのスーパーアリーナと中規模の新アリーナは、2つの顔として共存共栄しながら、地域経済圏を拡大する、さらなる好循環を創出できるはずです。

 そうなれば今はまだまだ少ない、「そこに行きたい、泊まりたい」ホテルやレストランができる条件も整ってくるでしょう。人口集積装置であるアリーナを中心に、さらなる文化を育む土壌もより一層生まれていきます。

 2020年オリンピック後には地域の時代がやってきます。そして地域には、よそ者だからこそまっさらな目線で評価できる、掘り起こせる可能性あるものごとに満ちていて、それらをブランディングしていく可能性に満ち溢れていると思います。

(「【NSBC補講I】 池田純のスポーツビジネス補講」池田純 = 文)