日本代表のW杯8大会の戦いを取り上げる連載の第10回は、歴史的3勝を挙げた前回2015年イングランド大会を2回にわたって振り返る。初回は「スポーツ史上最大の番狂わせ」といわれた南アフリカ戦。キック時のルーチンのポーズが社会現象になったFB五郎丸歩(ヤマハ発動機)らの証言で、W杯2度優勝の強国との舞台裏を探る。(取材・構成=小河原 俊哉)

 15年9月19日、日本代表が世界に衝撃を与えた。英国南部ブライトンで、過去W杯わずか1勝の日本が南アを34-32で破った。「W杯史上最大の番狂わせ」と称されたが、試合後に五郎丸は「ラグビーに奇跡なんてない」と胸を張った。

 1次リーグの最強チームに照準を合わせ、愛称「スプリングボクス」を倒す合言葉「ビート・ザ・ボクス」を掲げて練習を積んだ。国歌斉唱で涙した五郎丸には「これで勝てなかったら一生勝てない」という確信がよぎった。

 フッカーの堀江翔太は「今だから言える話で、試合当日の緻密な準備が功を奏した」と振り返る。巌流島の決戦で佐々木小次郎を待たせた宮本武蔵のごとき心理戦を仕掛けた。会場入りは先に日本、次に南アと順番が決まっていた。日本は宿舎から会場までの道のりや交通状況を何度も下見。相手が早めに到着するのを見越し、会場入りの時刻ピッタリに着く移動を敢行した。「僕らが来るまで会場に入れなかったから、相手は待ちぼうけしてた。結果的にストレスをため、試合にも影響したと思う」

 鍛えた体力は終盤も衰えず、自信が増した。19-19の後半16分には南アがPGを選び、リーチ主将は「相手は焦っている」と感じた。29-32で迎えたロスタイム。相手の反則を受けて下した決断は、同点PGではなくスクラムだった。「スクラムしかないと思っていた。僕には(PGを)蹴る気持ちがなかったので、蹴っていたら外れていたと思う」(五郎丸)。強気に狙ったスクラムが、逆転勝利に結びついた。

 国際統括団体ワールドラグビーの年間表彰では、ファン投票による「最高の瞬間」部門に輝いた。「世界に認められる第一歩になった。桜のジャージーに選手、ファンが誇りを持てるようになったことは大きな意味がある」と五郎丸。「負の歴史」に終止符を打った。

 ◆日本-南ア戦VTR 前半はともにモールからトライを挙げ、10-12で折り返し。後半は「初めて成功した」(五郎丸)というバックスのサインプレーから五郎丸のトライなどで食い下がり、29-32で迎えた終了間際に反則をもらうと、逆転を目指しスクラムを選択。連続攻撃の後、右隅のラックからSH日和佐が球を出し、センター立川が2人を飛ばして大きくパス。NO8マフィが左に移動しながら進み、最後はウィング・ヘスケスが左隅に飛び込み逆転した。

 ◆第8回W杯(2015年9月18日~10月31日、イングランド)

 ◇日本代表の戦績

 ▽1次リーグ初戦 日本34-32南アフリカ(9月19日・ブライトン)

 ▽第2戦 スコットランド45-10日本(23日・グロスター)

 ▽第3戦 日本26-5サモア(10月3日・ミルトンキーンズ)

 ▽第4戦 日本28-18米国(11日・グロスター)

※南ア、スコットランド、日本が3勝1敗で並び、勝ち点3位の日本は敗退

 【優勝】ニュージーランド

 【準優勝】オーストラリア