投手の分業制が確立され、“勝ちパターン”の重要性はより強くなってきた。ここ数年リーグを制してきた球団は、強固なリリーフ陣を擁してきた。

 数人で試合を締める役割とともに、相手の反撃意欲を削ぎ落す役割も担う。各球団が据える勝利の方程式は多種多様。空振りを奪え、ファウルを取れる剛速球、切れ味鋭い勝負球、精密な制球力など、絶対的な武器を持つ選ばれし投手が任せられるポジションだろう。

 セ・リーグの首位を走る広島で重要な役割を担う一岡竜司は投手としての武器を聞かれると、笑いながら言う。

「僕に武器はありません」

 球速は150キロには満たない140キロ後半。持ち球であるカーブ、カットボール、フォークなどは切れ、制球は平均点以上も、飛び抜けた決め球を持っているわけではない。他球団の勝ちパターンの顔ぶれを見れば一見、個性が見えにくい。

 それでも毎年、気づけばチームの勝ちパターンを任される立場にいる。

マウンド上でつぶやくセットアッパー。

 今年は開幕から中崎翔太、ヘロニモ・フランスアにつなぐセットアッパーを任された。抑え中崎の不調から配置転換されると、左腕カイル・レグナルトとともに相手打者の左右、タイプによって7回、8回のいずれかを抑える役割を託されるようになった。

「いかに速く見せるか、を意識しています。なるべく100(の力)で腕を振らない。80くらいで振るイメージ。逆にカーブは90くらい。一歩引いて自分を見る。ここでカーブを投げたらどうなるかな、って」

 自分が持っている力を最大限に発揮するための術を探る。投手と打者の対戦は、必ずしも強者が勝つわけではない。打者との駆け引きの選択肢を増やすため、クイック投法にも磨きをかけてきた。ホールド時間、左足を上げる長さ、腕の振りの強さ、球種……。さまざまな組み合わせで打者を抑えにかかる。

 一岡がマウンド上でポツポツとつぶやくのは、客観視した自分との大事な確認作業なのだ。

昭和の香り漂う九州男児。

「武器がない」からこそ、備え、考え、工夫しながら、最善の策を探る。そして、自分に厳しくなる。開幕から安定した投球を続けても、自己評価は辛口だ。

 5月11日DeNA戦。7回の1イニングを3者凡退に切り、勝ちパターン3投手が絡んだ今季初の0封勝利にもかかわらず、試合後は開口一番、反省の弁が口をついた。

「今日みたいな投球していたら信頼を失う」

 登板までの準備、先頭打者への入り、球の質、精度……。結果は無安打無四球無失点も、1球が命とりとなる立場にいる者として、危機感を胸に刻んだ。

 地元では大瀬良大地、今村猛とともに“カピバラ3兄弟”といわれるなど親しみやすさが人気だが、中身は芯が通った男気ある九州男児だ。名将・鶴岡一人氏が残した「グラウンドには銭が落ちている」との名言を今も口にするなど、昭和の香りも感じさせる。

 中継ぎ主将を務めた昨年、春季1次キャンプの最終日に手打ち役を務めた。選手会長會澤翼からの打診に「そりゃ、男ですから。逃げるわけにはいかないでしょう」と即答した。

 5月24日巨人戦では中島宏之に頭部付近へ死球を与え、激昂された(一岡は危険球で退場処分)。一岡の精神的な影響を不安視する声も聞かれたが、そんな簡単に心が折れるわけがない。

「当ててはいけませんが、僕のような投手は内に投げないと抑えられない」

 その目は力強く、前を向いていた。その日から6月9日ソフトバンク戦(10日現在)まで7試合連続無失点投球を続けている。

駆け引きを磨いた3年間。

「武器がない」からこそ、身につけなければいけない技術と精神力がある。プロ入りまで過ごした沖データコンピュータ教育学院での3年間が投手としての引き出しを増やしたのかもしれない。

 専門学校の試合相手は、社会人チーム。チーム力だけでなく、個々の能力もレベルが違う。一岡1人で勝てるわけがない。

「1、2点差の負けならOK。引き分けならお祭りでしたよ。だって、引き分けたとき対戦相手は試合後にミーティングしているくらいですから」

 打者のレベルだけでなく、味方守備のレベルも違う。打ち取っても味方のミスで失点することもあった。その中でいかに無失点、最少失点に抑えるか常に考えなければいけない環境にあったことが、18.44mでの駆け引きを磨いた。

武器がないことが最大の武器。

 今季6月10日時点でリーグ3位の13ホールド。防御率1.57の安定感で、自己ベストを大きく上回るペースでホールドを記録している。

「武器がない」と公言する右腕は、思い出したように笑いながら言った。

「僕の武器はありませんけど、専門学校卒業が、武器です」

 慢心もなければ、過信もない。謙虚さ、怖さ、向上心、探究心……。

 成長に必要な要素を持ち続けられているからこそ、今の立場がある。「武器がない」と認められることが、一岡の最大の武器なのかもしれない。

(「炎の一筆入魂」前原淳 = 文)