2018年10月に華々しく開幕した卓球の新リーグ「Tリーグ」。男女4チームずつ、水谷隼や張本智和、石川佳純や平野美宇ら日本のトップ選手はもちろん、各国のトップ選手も参加してのハイレベルな戦いは、男子は「木下マイスター東京」、女子は「日本生命レッドエルフ」が優勝チームとなり、水谷隼が男子MVP、早田ひなが女子MVPに輝いた。
 今回はチェアマンである松下氏とNSBC学長・池田氏の対談形式でTリーグ1年目を振り返り、2年目の課題を語り尽くした。


池田 卓球のTリーグ、1年目のシーズンが終わってから、2カ月ほどが経ちました。松下さん、率直に1年目、いかがでしたか?

松下 ファーストシーズンは、なんとか乗り切ったな……というのが正直なところです。

池田 リーグをいちから作る、というのは本当にすごいことです。本当に大変なことが多かったと思います。まだ1年目ですし、当然課題などが山積みであることは重々承知のうえで、今回は失礼ながら質問や提言などをさせていただければと思います。

松下 立ち上げ期間が1年半しかありませんでしたしね……。2017年の3月に、社団法人Tリーグを立ち上げた時は、社員は私ともう1人、つまり2人からのスタートでした。リーグを成立させるためのチームを揃えなければならないし、チームを成立させるために選手を揃えなければならないし、スポンサーも持ってこなければならない。少しずつスタッフは増えていきましたが……。

池田 既存の日本卓球リーグとの関わりは、結局どのような?

松下 一緒にやる方法をいろいろ考えていたのですが、今回は一緒にやらない、ということになりました。少なくとも2020年度までは、別々の開催となります。ただ、日本卓球リーグからの参入は認めていただいたので、女子1部の日本生命(レッドエルフ)と、男子1部の琉球アスティーダが参入してくれました。でも、残りの6チームは新しく作ることになりました。

池田 男女各4チーム、よく揃いましたね。

松下 実は2017年の12月の段階で、男女6チームずつを発表できたらと思っていたのですが、その時点では3チームずつしかなかった。今だから話せますけど(笑)。2018年に入ってから、埼玉(T.T彩たま)と名古屋(トップおとめピンポンズ名古屋)がやってくれることになって。

池田 チームが揃ったら、今度は選手集めですね。

松下 特に新規のチームはスカウトする体力があるわけではないので、Tリーグ主導で国内外の選手に声をかけていきました。「世界ナンバーワンのリーグにする」ということで、各チームは「世界ランキング10位以内、あるいは世界選手権や五輪のシングルス3位以内、団体戦優勝の実績がある選手」を必ず1人登録する、というルールを偉そうに作っちゃいましてね。
 それがあったものだから、日本のトップ選手はもちろん、海外のトップ選手を呼んでこなければ、と世界中を必死に駆け回りました。結果的には、他地域のトップ選手が数多く参加してくれました。

観客は平均1300人、ファイナルは5000人。

池田 スポンサー集めも、大変だったのでは?

松下 そうですね……なにしろ時間が足りなかったので、交渉事がどうしても後手後手に回ってしまって。本来なら、相見積もりをとるべき局面なのに、見積もりをとらずに相手方の言い値で決まってしまったり。そこも苦労しましたね。

池田 観客動員数はいかがでしたか?

松下 男女4チームずつのリーグ戦とプレーオフで、全86試合。平均で1300人弱のお客様に来ていただきました。開幕戦とファイナル計4試合は両国国技館で開催しましたが、いずれも5000人前後入ってくれました。
 10月のリーグ開幕からしばらくは、なかなか苦戦しました。開幕時にWEB調査で算出したリーグとしての認知度は27%、プロ野球やJリーグの90%以上という数字に比べてかなり厳しいものでした。でも、11月には56%と、Bリーグの62%に迫る数字になり、自然とお客さんが増えてきたんですよね。水谷隼、張本智和、石川佳純、平野美宇、早田ひなといったトップ選手目当てに来てくださる方も増えてきましたね。ただ、会場によっては600人しかお客さんがいらっしゃらなかった試合もありました。

池田 ファンは、特定の選手を観に来ている、という感じですか。

松下 そうですね。純粋に卓球ファン、という方ももちろんいらっしゃいますが、やっぱり選手に紐付いている方が多く、このチームを応援したいから、このチームを観たいから、というところまではいきませんでした。チームとしての積み上げがありませんからね。ここも大きな課題です。各チームが、それぞれの地域に貢献してもらって、ファンを増やしてもらう必要がある。もちろんリーグもその手助けをしたいと思っています。

池田 横浜文化体育館で行われた女子の試合を家族で観に行かせていただいたのですが、驚いたのは、お客さんの観戦スタイルなんです。みなさん、自分があたかもラケットを持ってプレーしているような感じで、シャドウスイングをしながら観ていらして。やはり卓球経験者が多い、ということでしょうか。

松下 そうですね。3人に2人が卓球経験者という数字が出ています。男女比でいうと、男性が65%、女性が35%です。未経験者が1度観に来てくださったとして、2度目も来てくださるかどうか……。まだそのあたりのホスピタリティーが不十分だな、と感じています。

池田 一緒に観戦していた子供と、ショップに行っても、めぼしいものは何も売っていなかったことを思い出しました。それに、たとえば空きスペースに、子供たちも卓球に触れることができたり、時間を楽しめるように、お客さんが自由に遊べる卓球台が置いてあってもいいですよね。
 応援も、バレーボールのようにピッピッピッと応援リーダーが号令をかけるスタイルではなくて、みなさんシャドウスイングをしているので、マラカスみたいな卓球ラケット状のグッズを作って、ポイントごとにそれを振って「チョレイ!」と叫ばせたら盛り上がるかもしれない。

松下 それは新しい!

池田 ベイスターズでも、選手の応援で結構派手な踊りをしてもらうようにしたんです。みんな恥ずかしがるかなと思ったら、むしろそれを楽しみにしているファンが増えてくる。応援も文化ですからね。いまはTリーグの応援スタイルはまだ何も固まったものがないのだとしたら、いちから面白そうなものを作れるといいのでしょうね。

松下 確かに……。それからホスピタリティーの面でも、もっとやれることはありそうです。会場によっては、体育館では飲食が出せない、大学内の施設なのでお酒が出せない、なんてところも、そこもプロスポーツ、エンターテインメントの観戦スタイルとしては不備があるんですよね。改善すべき点だと思っています。

選手の意識は変わったが、もう一段階上へ。

池田 それから試合中、出番を待っていたり、出番を終えた選手たちがどうしてるんだろう、と思ったら、客席みたいなところにいて、お客さんと同化しているようにも見えました。チームの選手などを応援したりはしているのですが、お客さんと同じように座っている印象がありました。もったいないように感じました。

松下 確かに、試合していない選手は観客みたいな位置にいます。

池田 いろいろルールはあるのだろうけど、「ベンチ」があってもいいのではないでしょうか。コート内に選手の後ろに「ベンチエリア」を新設して、チームが一体となって応援しているシーンをつくってもいい。そのベンチワークを眺めるのもお客さんの楽しみのひとつとして加わっていくような。
 お客さんには、視点をあちこちに変えてもらいながら観戦を楽しんでいただいた方がいい。監督の仕草もそうだし、次の選手がアップしている様子もそうですし、試合以外の景色の中に、どれだけたくさん魅力的なものを作っていけるかが、「次の観戦機会」のためには大事だと思います。
 試合の運営、演出などはリーグ側でやっているんですか?

松下 今はそうですね。演出面では、チーム側から「やりたい」という声が出た時に、それを組み入れている状況です。池田さんが観てくださった試合では、木下アビエル神奈川が主導して演出をやってくれました。

池田 参加した選手からは、どんな声が上がってきていますか。

松下 最初は「Tリーグには参加しない。試合しないよ」というトップ選手も正直いたんですけど、最終的には本当に多くの選手が参加してくれました。ほとんどすべての選手から、「楽しかった」「参加してよかった」という声を聞けて、よかったな、と思っています。
 彼らからしても、対戦相手はレベルが高いので、練習でやってきたことをいろいろ試す場としても活用してくれたみたいです。あとは、観客がたくさん入っている試合だと「緊張しちゃいました」という声もありましたね。選手たちは、期待していた以上に頑張ってくれましたよ。感謝しています。

池田 選手の意識はそこからもう一段階上へと変わっていく必要があるのでしょうね。正直に言えば、ファンサービスの意識が、まだまだだなと感じざるをえませんでした。対戦相手との握手もちゃんとしていなくて、パンと手と手を合わせるだけ。そういう流儀なのかもしれませんが、ちょっとおざなりだなあ、と。
 ファンが見ているし、子供も見ているわけで、その瞬間瞬間もファンを獲得する瞬間として活用したほうがよいのでは、と感じました。さきほどの「視点」の話でいえば、そこもまたお客さんは観ているんです。ボールをファンに渡したり、子供たちと接したりするときの、「今日は来てくれてありがとうね!」という仕草も、もっともっとプロ化がこれから進んでいけばいくほど、リーグ主導で教育や指導なども必要になっていくのだろうな、と。

松下 お客さんが身内しかいない競技会の気分がまだ抜けていないのかもしれません。

池田 ベイスターズの時、選手たちとしょっちゅうコミュニケーションして、まず選手たちにはファンサービスの部分を徹底して変えてもらえるようにしたんです。「ファンが近くにいたら、そこに行って、手を握って、『今日はありがとう。また来てくださいね』と言ってニッコリしてこい。そうすればその人は君のファンになる。また球場に来てくれるし、そのときは君のグッズを買ってくれるかもしれない。もし買ってくれたら、そのグッズ代のうちの数パーセントは君の収入になるぞ」といったように。
 実際そうやってファンは増えていくものなんです。だからこの前も、もし私の目の前に石川佳純選手が来て、握手してくれて「また来てくださいね」と言われてしまったら、否が応でも必ずまた会場に足を運ばなくてはいけなくなってしまいますからね(笑)

グッズは無料配布の方が結果的にお金になる?

松下 試合後にサイン会とか、握手会とかやってもいいですよね。

池田 それから、選手個人だけでなくチームのファンを増やしていくためには、各チームが地元密着に力を入れて、地元の人々にとっての「おらがチーム」になっていく必要があります。いまある8チームの中で、どこか1つでも、成功事例を作ってくれるといいんですけどね。逆に、それができなければ続かない、ともいえる。

松下 残念ながらまだ、チーム自体に資金がないし、何をやっていいか見えていない部分があります。池田さん、何をやっていけばいいんでしょう。

池田 たとえば……地域貢献をしたい地元企業に声をかけて、公共のスペースに、その企業名とTリーグのダブルネームが大きく入った卓球台をどんどん置かせてもらってはいかがでしょう。

松下 いいですね。ボランティアでそこに卓球コーチをつけてもいい。

池田 神奈川県って、電車や道路の高架下にテニスの壁打ちができるスペースがけっこうあって、そこが混み合っています。ベイスターズでも、いろいろなところに「1人キャッチボールができる壁」を作ろうとしました。行政の外郭団体の協会に直談判して、公園のキャッチボール禁止をなんとか解除してもらい、費用はこちらもちで、壁やフェンス、マウンドを作り、グローブとボールを置かせてもらう提案などを何度もして、その幾つかを少しずつ実現してくことが可能になりました。

 グローブにもボールにも、ベイスターズの名前をでっかく表示してね。そういったことの卓球版を、どこかのチームが地域密着で頑張っていくスタイルもありですよね。そういった活動を展開していく中で、「○○県は卓球県!」とTV番組の「秘密のケンミンSHOW!」で紹介されるくらいの存在感のある地域が出て来ればいい。

松下 それ、いいですね。卓球台プロジェクトはやりたいですね。卓球台はコンパクトで移動式ですから、設置できるところ、たくさんありますし。廃校とかもいいだろうし、ショッピングモールだったり、スペースが余っているところをどんどん活用して。

池田 廃校といわず、地域の教育委員会と組んで、小学校中学校に卓球台を寄付してもいい。それから……心と体の癒しスポットとして、いままたスーパー銭湯に注目が集まっているみたいです。
 温泉と卓球は親和性があるわけで、スーパー銭湯の数あるリクリエーションのひとつとして卓球台を置いてもらうのもありです。あとは、待ち時間がちょっとあるようなところにあると、卓球はその暇つぶしにもいい。ほんの5分でもラリーするだけで楽しかったりします。だから……コインランドリーにあってもいいかもしれない。

松下 卓球の愛好者は、全国で800万人と言われていまして、トップリーグがある競技ではナンバーワンなんです。うまくその人たちを巻き込んでいけばある程度のことはできますね。すでに日本生命レッドエルフは全国の幼稚園に、ぶつけても怪我しないタイプの小さな卓球台を1000台寄付する取り組みを始めていて、すでに3、4回コーチをボランティアで派遣しています。

池田 卓球素人の私が勝手なことを申し上げて本当に恐縮ですが、あくまでブレスト的に申し上げさせていただけるならば、正規の大きさにこだわる必要はなくて、それこそ机に簡単に張れるネットとラケット、ボールのセットがあったらいいように思います。そうそう、Tリーグはグッズ販売はしているけど、ギブアウェイ(無料でグッズを配る取り組み)はやっていますか?

松下 まだやれていないですね。スポンサーさんも苦しい状況ですし。

池田 そこは逆転の発想で、ベイスターズも、初期の頃は人気がないから、「スポンサーになってもお客さんいないし、弱い」と、スポンサー集めに苦戦したんです。でも、「モノを配ります。そこに企業名を入れます。なのでお金を出してください」とお願いすると、けっこう出してくれました。企業側からすると、何千、何万という方々に、グッズと共に企業名が伝わることが確定した出費なので、費用対効果がある程度見えていることが決裁の決め手となるのだと思います。

松下 さきほどの卓球台のアイデアも、地域へのギブアウェイ的な取り組みですものね。いろいろ考えてみようと思います。

卓球にとっての「聖地」はどこになるか。

池田 それから興行面で気になったのは、「ここに行けばトップクラスの卓球が観れる!」という場所があるのかどうか。卓球にとっての「聖地」が必要になってくるのでしょうね。

松下 うーん、全日本選手権が行われる東京体育館でしょうか。両国国技館は、やっぱりお相撲のイメージが強いですしね……。

池田 ラグビー協会の仕事をしていた時に、トップリーグの形について、あまりホーム&アウェイ方式にこだわらず、それこそラグビーは秩父宮ラグビー場という「聖地」が最高の立地条件のところにあるのだから、そこを活用すべきじゃないか、と提言したことがあるんです。それこそ、毎週あそこで必ず試合が行われる形にしたっていいんじゃないか、と。結局採用されませんでしたが。

松下 ボクシングだったら後楽園ホールだったりとか、イメージも浸透していますよね。「聖地」となるような卓球アリーナはこれからの課題です。

池田 東京じゃなくてもいいように私は思います。卓球県となるような地域が生まれてくるといいですよね。オセロみたいなもので、一つそういう地域が出てくることがきっかけで、一気に勢力図が塗り替わっていくのではないか、と私は考えています。一つの地域の成功事例が、その競技の日本における世界観が変わっていく大きなきっかけになると思います。

松下 いま、Tリーグのチームがあるところでいうと……。

池田 名古屋か、埼玉がいいのではないでしょうか。

松下 池田さん、さいたま市のお仕事をしていますよね。

池田 そうですね。TT彩たまの方とも接点が増えてくるはずです。頑張ってほしいですね。行政とうまく付き合っていく中で、それこそ「市民クラブ」という形に持っていくことだって、できると思うんです。市民から投資をしてもらって、それこそお金も出してもらって卓球の「聖地」になるようなアリーナを作る。全部自分たちだけでやろうとはおもわずに、周りをどんどん巻き込んでいく。

松下 いま現在も、実業団チームとクラブチームと、いろいろな形が混在していますから、市民クラブもあっていいですものね。

池田 1年目、点数をつけるとしたら、100点満点で何点ぐらいでしょう?

松下 いい部分も悪い部分もありましたので、半分よりちょっといいぐらい。70点ぐらいでしょうかね。大きな事故もなく乗り切りましたから、二重マルではないけど、マル。

池田 2年目はもっと点数が上がるといいですね! 私は、高齢化に対応して、健康年齢寿命の向上が社会的な課題となっている日本において、卓球には潜在的なマーケットがあるし、とんでもない可能性がある、と思っています。松下さんは、人間性が本当に素晴らしいリーダーですし、僕のような若輩者の意見も真摯に耳を傾けてくださる。これからスポンサーさんも増えていくでしょうし、卓球の「聖地」も、卓球県も、いずれ生まれるはずです。期待しています!

松下 これからもいろいろとお力添え、よろしくお願いします。

(「【NSBC補講I】 池田純のスポーツビジネス補講」Number編集部 = 文)