グッドルーザーとか、クラスアクトというフレーズは、アスリートが持つべき資質を表しているに違いない。たとえ敗れた当事者になっても、目の前の勝者を讃えて喜びを分かち合う。それがスポーツの良さであるし、そんな理性的な態度は人間らしい精悍さを感じさせる。

 そうは言っても、負けて流す悔し涙が否定されるわけではない。

 前回のコラムで紹介させていただいた金谷拓実(東北福祉大3年)は、昨年秋にシンガポールで行われたアジアパシフィックアマチュア選手権で優勝し、今年4月にマスターズに出場。見事4日間を戦い抜き、貴重な経験を得た。

 物事には裏と表、光の当たるところには影ができるわけで、その“アジアアマ”で2位に終わり、オーガスタ行きを逃したのもまた、若き日本人選手だった。

先輩・金谷に敗れ、オーガスタを逃す。

 中島啓太(なかじま・けいた)は2000年6月生まれの18歳。

 これまたジュニア時代から注目されてきた将来有望な才能だ。

 昨年8月にインドネシアで行われたアジア大会では2つ年上の金谷らと臨んだ団体戦だけでなく、チームで最も若いにもかかわらず個人戦でも、20年ぶりに日本に金メダルをもたらした。

 その約1カ月半後、アジアアマで中島は金谷に敗れた。最終日は同じ首位に2打差からスタートし、前半に1歩前に出ながら逆転負け。ナショナルチームでは同部屋になることも多い先輩にオーガスタ行きのチケットを譲る結果になった。

 中島はこの春、日体大に進学した。かつては高校卒業後のプロ転向を目指したが、学生のうちにアマチュアの世界大会をより多く経験する道を選んだ。

「この人、ヤバイわ」

 埼玉・加須市の実家を出てゴルフ部の寮に入ってから間もなく、テレビの向こうでマスターズが始まった。日本代表の一員としてネイバーズトロフィチーム選手権という国別対抗戦を控えていたが、あちらの様子が気になるのも無理はない。

「マスターズの初日が始まるときはまだ寮にいたんです。もう始まったかなと思ったら、金谷さんは(1番から)バーディ、バーディでスタートして……。『この人、ヤバイわ』って思って寝ました(笑)。ビックリというか、本当にすごいですね……」

 世界最高のゴルフショーで“ライバル”が躍動する姿を想像して、深い眠りにつけたかどうかは微妙なところではある。金谷は帰国後、日本ツアーの中日クラウンズでも決勝ラウンドに進んだ。

悔しさを力に変えてきた中島。

 胸にぐっと息を込めてから、中島は言った。

「正直なところ……正直なところ、マスターズも、日本でも、活躍されるたびに悔しい思いが出てきます。金谷さんに連絡したりするんですけど、そのたびに悔しいのがあります」

 オーガスタでプレーしていたのは、自分だったかもしれない。あの時の1打が、あの数秒のうちの判断が。あるいは風が、ライが……。逃した魚の大きさや煌びやかさが実感できるからこそ、それぞれを振り返りたくなるのも当然だ。

 どれだけ苦悶しても、時間はいつもと同じペースで進んでいく。

 実は過去にも同じ先輩に快挙を阻まれたことがあった。2015年の第100回・日本アマチュア選手権に金谷は当時17歳51日で勝ち、史上最年少優勝記録を樹立。その時の2位が、まだ中学3年生、15歳の中島だった。

「そういうことが、多いですよね。ホント……」と笑う。

「でも、金谷さんのおかげで僕も海外志向になったんです。僕は負けず嫌いでもあるけれど、金谷さんの存在は大きい」

 負けた悔しさばかりが目立つようではあるが、それがまた成長を促してきた。

「どハマリした」栄養学。

 先輩とは別の大学に進み、3人部屋で過ごす毎日は「寮と練習施設、トレーニングジムが同じ施設内にあるので、本当に充実しています」という。177㎝の身長から繰り出されるビッグドライブはいま、日本ツアーのプロと比べても遜色なく、アイアンも、パットも、というオールラウンダーとしての潜在能力を強く印象付けるようになった。

 ただ、コース内の技術以上にいま中島が胸を張れるのは意外なところ。

「金谷さんに勝てるところ? ゴルフ面ではないんですけど、“栄養学”とか」

 昨年6月、ナショナルチームの合宿中、専門の栄養士による講習を受けて「どハマリした」。日々のパフォーマンスの発揮、疲労回復には健康的な食生活も重要。その後、自分でも栄養学に関する本を購入し、実践に移した。

 ラウンド中は、栄養バランスにも優れた素焼きのミックスナッツをもぐもぐ……。体育大学の寮の食事は、競技別に用意されるわけではなく、体を大きくすべきアスリートと、そうとはいえない部員に対しても、ほぼ同じメニューが用意される。

 中島は揚げ物などの過度な脂肪や糖質摂取に注意を払い、ナショナルチームの栄養士にも相談しながら、食生活を送る。「ラーメンはもうすぐ1年、甘いものもしばらく食べていません」という節制ぶりだ。

 トップアマとはいえ、学内のゴルフ部には入りたて。“部活帰りにみんなでラーメン”なんて、よくありそうな日常だが、「そういうことは(先輩や仲間に)最初に言いました。『自分はしっかりやりたいので』って」。集団生活の中ではずいぶん鼻持ちならない1年生なのでは……と勝手に心配してしまう。

プロのキャリアに必要なもの。

 けれど、そんな“尖り方”はいずれ足を踏み入れるプロの世界では、持ち合わせるべき気質かもしれない。大海の船は先端が鋭くないと、波をかき分けて進めない。

 それにいまの中島の生活習慣の決まりは、今後の彼の行動を縛るものでもない。いずれ別の指導者や、考え方に接して“揚げ物、ラーメン、スイーツ大歓迎”という決断にも至るかもしれない。だから外野で方法論の是非を問うつもりもないし、その都度“やり方”の価値判断をするのは本人でしかない。

 手段はどうあれ、定めた目標に向かい自分を律する行動力こそ、長いキャリアで必ず重宝されるものだ。

アジアアマ後に作った目標達成シート。

 5月に今年初めて出場したプロツアー・ダイヤモンドカップで中島は予選を通過して4日間を戦った。難コースと向き合いつつ、1週間のうち何日も宿泊ホテル内のジムに通って汗を流したという。「だから、あまり疲れが出ませんでした。そういうところは成長したところかなと思うんです。これから寮に帰って、トレーニングをしようかな」とまで口にして、コースを去った。

 最近、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手が実践したことで有名になった、マス目の目標達成シート(マンダラート)を作るプレーヤーは、最近の若いゴルファーにも多い。

「去年、アジアパシフィックアマで金谷さんに負けてから僕も作りました。2019年の目標、として」

 今年一番のターゲットとして真ん中に記したのは、「アジアパシフィックアマ優勝」の文字。今度こそ--。

 まだ見ぬオーガスタの景色が、みずみずしい頭脳には描かれている。

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(「ゴルフボールの転がる先」桂川洋一 = 文)