平成から令和へと元号が変わる今年、私も新しいスタートを切っています。

 4月から本格的に動き出した「さいたまスポーツコミッション(SSC)」の会長に就任して、さいたま市をスポーツで活性化させる仕事に取り組むことになりました。

 このSSCは、(1)スポーツイベントや大会の誘致と開催支援、(2)ツール・ド・フランスの日本大会「さいたまクリテリウム」の開催と自転車を活用した街づくりと自転車文化づくり、そして(3)アリーナなどのハードとスポーツ及びエンタメの融合を通じて、スポーツの振興と街づくりを目指す組織です。

 さいたま市をスポーツでブランディングして、スポーツを活用した地域活性化、地方創生のモデルケースにしていきます。

 私は2017年の12月からさいたま市のスポーツアドバイザーを務めていて、市との1年半に及ぶ関わりの中で、さいたま市の可能性と、さいたま市の「スポーツで地域活性化」を図ろうとする意識の高さを実感しているところです。

 浦和レッズや大宮アルディージャといったJリーグのクラブや、埼玉大学、地元企業と提携するとともに、国際的なイベントや高齢化社会を見据えたスポーツイベントなど、日本のスポーツ都市をリードするような、先進的なイベントや大会をプロデュースしていくことになります。組織的にはこれから5年の間に民間性を強め、株式会社化することをさいたま市と私で企図しています。

活力というのは、つまり人口の話。

 では、「スポーツで街が活性化する」とは一体どういうことなのでしょうか。

 街が活性化しているかどうか、活力があるか、その指標となるのは結局、「人口」の話だと私は考えています。この「人口」というのは、その街に家があって住んでいる人だけでなく、外からやってきて時間を過ごす人も含まれます。人がその街で時間を過ごせば、コミュニケーションが生まれ、経済が動く。交流人口や観光人口がどんどん増えていくことが、街の活性化の鍵になります。

 そして、外から人に来てもらい、交流人口や観光人口が増えるにあたって、スポーツは極めて大きな力を発揮します。

 さいたまには『ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム』『さいたま国際マラソン』のような大規模なスポーツイベントもありますし、県全体でもプロ野球やJリーグ、Bリーグ、Tリーグも多くの有望なチームを抱えています。それらのチームや競技と連携し、地域にスポーツ文化を広げていくことも、スポーツコミッションの役割の1つになっていくでしょう。

スポーツはファンの持続力が違う。

 私はスポーツ庁の参与をつとめていた時代から頻繁に提言していましたが、日本の大きな課題である「地方創生」「地域活性化」において、「スポーツは日本の唯一無二の元気玉」だと考えています。スポーツが地域の活性化に有効な理由は、「スポーツは夢を大きく描いていい世界」ですし、何より「ファンの持続力」が強いからです。

 私は以前お菓子の業界で仕事をしていたこともありますが、お菓子は一度メガヒット商品が出ても、次々新商品を出さないとすぐにお客さんが離れていってしまう。ロングセラー商品もあるにはありますが、長くファンでいてもらうことが難しい世界でした。

 でもスポーツは、たとえばベイスターズのように一度好きになってもらうことができれば、その愛情は他のものよりはるかに長く続きます。子供の頃にプロのアスリートを間近で見たり、中学や高校で部活でやっていた競技がテレビでやっていたりしたら、大人になってもついつい見てしまいますよね。好きという感情の「持続力」が全く違う。

 その点を最大限活用することで、さいたま市に「スポーツのファン」を増やしていくことが、地域が元気になる源であり、人が集まる文化が生まれていく根幹になると考えています。「スポーツは持続力が高い」から、持続力のある地域活性化につながるのです。

 だからこそ、まず、スポーツコミッションが地域を代表して、地域がスポーツに興味を持ち、地域がワクワクするような大きな「夢」を描いて、伝えることからはじめなくてはなりません。できるできないは別にして「夢」は地域の人の心を動かします。スポーツは「夢」があるから大きな力が働く世界なのです。

さいたまの巨大なポテンシャル。

 そして、なぜさいたま市なのか。

 端的に言うと、「横浜の次」はさいたまだからです。

 さいたま市のポテンシャルは、まず130万人という巨大な人口があることからも明らかです。東京からはもちろん、東北や北関東、新潟や長野からもアクセスがとてもいい。東北自動車道が通っていて、5つの新幹線が大宮に止まります。首都圏のハブとして機能するポテンシャルが十分にあります。東京や神奈川、横浜とは違うマーケット、都市計画を描ける「横浜の次の都市」なのです。

 だからこそ、4万人近くが入るさいたま新都心の「さいたまスーパーアリーナ」は大盛況。1年中イベント開催で埋まっています。しかし同時に現時点では、さいたまのみならず、首都圏各地で1万人前後のイベントを受け入れるアリーナが足りていない。実際にスポーツ業界やエンタメ業界から、「ハコ(=会場)がなくてイベントが打てない」という声をよく聞きます。

1万人前後のイベントは需要がまだまだある。

 これからの時代は今まで以上に「多様性・コミュニティ型社会」の時代に突入していきます。なので、5000人や1万人の熱いファンを集められるイベントというのは想像以上にありますし、これからもより一層増えていくでしょう。バスケットや卓球やバレーボールはもちろん、eスポーツ、地域アイドルや声優さんのコンサート、シニア向けのイベントなど、やりたいけれど会場を確保できなくて実施できていないものがもうすでに数多くあるはずです。

 それを引き受ける場所として、さいたまには巨大な可能性があります。

 それから、私が個人的に実は注目しているのが、荒川の河川敷です。何十面と野球グラウンドやサッカー場が並んでいるため、広い面積がとれてスポーツイベントに使いやすい。たとえばレッドブル・エアレースのようなこともできるかもしれません。他にもいろいろな「人々が楽しめる」アイデアを出すことができるんじゃないか、と思います。結局、「楽しいところに人は集まる」のです。

「そんな大きな規模のイベントは、さいたまクラスの大都市でないとできないのでは?」という反応もあるでしょう。

 でも、この考え方は、街のサイズに応じてダウンサイジングすれば、どんな自治体であっても、いくらでも適用可能です。「あの街と言えば○○だよね」という独自性のあるスポーツやイベントを、街の規模、条件でまかなえるサイズでやればいいんです。

 アリーナを作るのは難しくても、イベントや地域文化を育てていくことはできます。街に住む人にとっても、日本全国にいるその競技のファンにとっても、プラスの影響があるはずです。要はモデルケースをそっくりそのまま真似してもだめで、地域独自のオリジナリティが大切です。

日本社会の特性も、先行者に有利。

 あとは日本特有の性質を考えても、スポーツのブランディングで先行した街は大きなアドバンテージを得られると思っています。

 アメリカでは、メジャーリーグの球団が自治体にお金を積まれて頻繁に本拠地を移したりしますよね。でも私は、日本で同じ現象は起こりづらいと思っています。

 それは、スイッチングコストが違うからです。たとえばベイスターズにはずっと、新潟移転という話がありました。でも少なくとも当時は、どんなにお金を積まれたとしても新潟に移転するという選択はありえないと私は考えていました。それは、1年間を通じ、野球を観て応援しようという文化が、どの街にも同じようにあるわけではないからです。

 野球ですらそうなのに、より小さなスポーツであればなおさらです。

 だからこそ、さいたま市がスポーツファンの心を掴んで地元に文化として浸透させることができれば、たとえ他の街が予算を積み上げたとしても、そう簡単に大会が他の都市に移っていくことはない。つまり、持続的に人に来てもらうことができるんです。

開拓型リーダーとしての自負。

 ベイスターズを辞めてから2年半、色々な組織でスポーツ業界を良くしよう、もっと発展させようと動いてきたのですが、アドバイザーや顧問という形ではやはり限界があって、自身が組織のトップにならないと限界があることを何度も痛感させられました。

 SSCは、行政と足並みを揃えて進んでいく組織ではありますが、自由に大胆に発想し、実践する組織をまずはつくらなくてはならないと思っています。だからこそわざわざ民間の私がトップに置かれているわけです。

 自分自身の組織のリーダーとしての能力を客観視した時に、率直に言って「管理調整型」ではありません。確実に「開拓型パイオニア型」であることは実績からおわかりいただけると思います。それはこの2年半でも私自身も痛感したことです。でも代わりに、既存の考え方に囚われず前例のないことをやる点については自負があります。

 ベイスターズでオリジナル醸造ビールを造った時も、当初は周囲は疑問でいっぱいでした。「なんで野球の会社がビールを造るんだ?」と。でも蓋を開けてみれば、既存のビール会社さんと売り上げを大きく食い合うわけではなく、ビールのマーケットを倍近くにも増やすことができたわけです。

 その成功を見て他球団が同じことをしたり、じゃあ黒ビールを出そうというのは誰でもできます。でも私は、まだ誰もやってない最初の一歩を踏み出すことが好きですし、そこが私の経営者としての持ち味です。

 リーダーが率先垂範することで、組織というものがつくられていくんです。

 さいたまでの活動は始まったばかりですが、まずは5年スパンで、行政の政治の世界やそれに伴う組織内部の権力争いに翻弄されることなく、スポーツといえばさいたま、と日本中で言われる状態にしなくてはなりません。そして10年で、日本だけではなく世界から注目を浴びるような都市にしたいですね。

(「【NSBC補講I】 池田純のスポーツビジネス補講」池田純 = 文)