東京2020の日程が発表された。オリンピック種目は、テレビの放映権をもつ米国TV局の意向もあり、水泳のほとんどの種目、そして陸上の一部種目が午前決勝。またマラソン、競歩のほか、トライアスロンも朝6時~7時のスタートと、世界選手権などとは異なる日程になった。

 スタート時間が早いことに関しては、選手も関係者も「みんな同じ条件だから」と納得している様子。だが選手たちにとってはもう1つ難しい問題がある。

 睡眠対策だ。

フェルプスも愚痴った北京五輪の日程

 20年ぶりのアジアでの夏季五輪開催だった2008年北京五輪。水の怪物マイケル・フェルプスが前人未到の8冠に挑戦とあって、大会前から大きな話題をさらった。そのため、米国のプライムタイムにあわせて、水泳の決勝は午前中になった。

「大会中、ずっと眠かった」とフェルプスは大会後にぼやいていた。

「午前中にピークを合わせるためには、いつもよりも起床時間を早めなければないし、午前で力を出し切っても休む暇がなかった。表彰式に出て、ランチを食べて、ちょっと昼寝したら、あっという間に午後の試合だったから」

 フェルプスの場合、これに加えてドーピング検査があったため、「休む時間がほとんどなかった。わずかな時間を見つけて寝ていた」と話す。

 北京五輪の場合、選手村と水泳会場が近かったこともあり、移動時間が少ないことだけはプラスに働いたが、多種目を掛け持ちする選手にとっては、狙った大会で最高のパフォーマンスをするには少し酷な環境だった。

 フェルプスのように8種目に出場する選手はさすがにいないと思うが、多かれ少なかれ、水泳選手は同様の悩みを抱えながら東京五輪に臨むことになる。

マラソン選手は午後6時に寝ることに?

 大会最終日の午前6時スタートのマラソン男子は暑さ対策だけではなく、睡眠時間の確保も最重要解題となる。

 一般的な起床時間は、レースのスタート4時間ほど前。つまり午前2時前後。6~8時間ほどの睡眠を確保したい場合、逆算すると前夜の午後6時~8時くらいには就寝しなければならない。

 2000年シドニー五輪から5大会連続で五輪に出場し、2つのメダルを獲得し、現在はマラソンランナーとして活躍するアメリカのラガト選手は、「レースと同じ日程で3~4日間過ごして体を慣らさないといけない。問題は選手村の騒音。陸上は後半日程で、男子マラソンは最後のイベントだから、それは大きな問題になるね」と指摘する。

自国の選手と同部屋ではあるが……。

 五輪の選手村というのは、五輪のために新しく建てられたマンションなどが多く、国ごとに棟を割り当てられるのが一般的。2LDKの間取りなどの部屋で、各国選手は、同じ種目の選手とシェアをする。仲のいい選手、同じ国のチームメイトなどを指名することもできる。

 ちなみに陸上の欧州遠征などでは、大会主催者が自動的に部屋を割り振りすることもある。テレビの音量、エアコンの温度設定、夜中にトイレに行く音などで試合よりも気疲れしたという声もたまに聞く。

 しかし五輪では自国の仲間と同じスペースを共有するので、そういったストレスは少ないし、自分の種目が終わっても、ルームメイトの試合がまだだったら、相手を気づかい、静かにする選手がほとんどだろう。

 翌日に試合がある選手が寝ている横で音をオンにしてゲームをする選手に閉口したという日本人選手の話も耳にしたことがあるが、これは特別なケースだと信じたい。

選手村の夜はパーティ続き?

 問題は部屋の外の騒音だ。

 前半に試合が終わり、閉会式まで時間のある他競技の選手達が、夜な夜な選手村でパーティをしたり、外出して夜中に帰ってきたときに騒いだり、ということは一般的だと聞く。

 五輪まで節制したり、ストレスが多い生活をしているため、競技後にハメを外す選手も多いだろう。連盟によっては後半日程の選手を気づかって、前半の選手を早く帰国させるケースもあるが、全てではない。

 夜11時以降は静かにしてくださいと言われたら、多少気を使うことはあっても、午後8時以降に静かにしてほしい、と言われてもなかなか厳しい。

 メダルや入賞を狙う選手たちは、選手村に宿泊しないケースも多い。形式上、選手村に入村手続きをしたあと、代理人やチームのマネジャーが手配したホテルや一軒家などに移り、最終調整を行う。シドニー五輪で金メダルをとった高橋尚子選手も、コース近くの家を借りていた。食事や睡眠など自分にとって快適な環境で調整する選手も多い。

 そういった対策が取れるチームや選手には、レース前の睡眠確保は問題ないかもしれないが、財政的に余裕のない選手にはそれも難しいところだ。

 とはいえ、質の高い睡眠の確保はパフォーマンスにも影響してくるため、選手にとってはクリアしなければならない問題だ。

最終的には精神力の勝負になる。

 解決策はあるのか、と聞かれても、なかなか答えられないのが現状だ。

 選手村でもホテルでも完全防音の場所はないし、生活音を消すことは難しい。普段と異なる環境でもストレスを溜めず、自分のペースで生活できるような精神力を身につけるしかない。

 発表された五輪の日程を見て、「暑くて大変」、「朝早くてきつそうだな」と思われた方もいると思うが、その舞台にたどり着くまでの選手の苦労も知ってもらえればと思う。

(「Overseas Report」及川彩子 = 文)