「スノーボードが一番上手いのは誰なのか」

 これを決めるために、作家・東野圭吾が主催する大会「スノーボードマスターズ(以下、SBM)」の第2回大会が、4月6日からの2日間、新潟県妙高市のロッテアライリゾートで行われた。

 昨年の第1回大会は、「スノーボードの総合力が問われる世界で唯一の大会」と評価された。ソチ五輪に出場し、「X GAMES」で優勝経験もある角野友基は「前回は日程の都合で参加できなかったが、今年は何としても出場する」と表明。鬼塚雅選手、広野あさみ選手などオリンピアンだけでなく、日本中のトップライダーもエントリー。まさにオールスターが春の「アライ」に集結した。

 第1回のSBM大会期間中に構想を練っていた、ガリレオシリーズ最新長編『沈黙のパレード』(http://www.bunshun.co.jp/galileo/)を昨年10月に刊行し、「週刊文春ミステリーベスト10」で1位を獲得。11月には映画『人魚の眠る家』が公開され、つづく今年1月にも映画『マスカレード・ホテル』が大ヒット。7月には最新作の長編の発売を控え、多忙を極める東野氏。関係者の証言によると、執筆業の傍ら、「第2回SBMを盛り上げるために、並々ならぬ情熱を注いでいた」という。

創造性が試されるSBM。

 初日の競技は、「フリーライディング」+「ジャンプ」。

 大きく変更になったのは、カービングのスキルを競うフリーライディングとジャンプの採点方法だった。前回はそれぞれ分けて採点していたのを、一体化して評価することになったのだ。

 東野氏とスタッフで何度も話し合った結果、コース設計をフリーライディングのゾーンとジャンプ台として、明確に分けるのではなく、いずれのアイテムも「飛べるし、滑っても見せられる」ものにした。

 大会を運営する五味克彦氏はこう語る。

「初日の競技は、どんな技術も披露できるコースとなりました。誰にもできない滑りをどう見せられるか。まさにスノーボーダーたちのクリエイティビティが試される大会になると思います」

 この結果を受けた2日目は、タイムレースとなった。急斜面に作られた立体的なカーブである「バンク」の内側に設けられた、複数の旗(旗門)をターンし、滑走のタイムを競う「バンクドスラローム」。

 総合優勝のために、難コースをどこまで攻めるのか。二代目のSBM王者のタイトルをかけて、白熱のレース展開が期待された。

角野「自分の滑りのすべてを見せたくて」

 連日のスタッフの努力もあり、絶好のコースコンディションの中、大会初日は、各選手が素晴らしい滑りを見せた。

 男子の1位が稲村樹、2位、稲村奎汰、3位、阿部祐麻。

 女子の1位は本多未沙、2位、谷上加七子、3位が浅谷純菜となった。

 大会で東野氏のアテンドを務めた丸山格さんは、初日をこう振り返る。

「五輪競技だけではなく、ほぼすべてのジャンルのトップ選手が集まりました。ただ、今回のコースは難易度が高く、ターンやジャンプを、スタートから最後までミスなく滑ることは至難の業でした。ジャンプに入るまでのスピード、コントロール、ターンのすべてをジャッジは判断していたと思います。選手たちがそれぞれの技術をとことん見せ合う、とてもレベルの高いフリーライディング+ジャンプでした」

 「X GAMES」を主戦場とする角野選手は、初日は4位につけた。

 大会2日目を前に、ルールなどを再確認するライダーズミーティングを終えた角野選手は、会場内で東野氏を見つけると、駆け寄ってこう話しかけた。

「スノーボード界に強烈なインパクトをくださって有難うございます。僕たちライダーは、自分の滑りのすべてを見せたくて、うずうずしていたんです」

 その言葉を受けた東野氏は、

「世界を舞台に戦っているなかで、こんな『草大会』に来てくれてありがとう」
 と、ほほ笑みながら答えていた。

角野「X GAMESより緊張した」

 角野選手は「4位」という結果に悔しさと楽しさをにじませていた。

「初日のスタート地点に立ったとき、『X GAMES』よりも緊張すると思いました。だって、なにをやってもいいコースでしたから。ただ、いろんなライダーの滑りを見ているうちに、これは僕の創造性が問われているんだ、と吹っ切れたんです。

 初日のトップテンのメンバーは、誰が1位になってもおかしくないハイレベルな戦いだったと思います。自分がスノーボードを始めた小学生の頃にDVDを見て、『かっこいい!』と感激した先輩ライダーたちと同じ大会で滑ることができるなんて、こんな幸せなことはないです。今日は4位でしたが、明日は優勝を狙います」

 早朝から競技終了までコースサイドで観戦していた東野氏は、最終日に向けて、スタッフたちにこう語りかけた。

「『こんな滑りを見たかった』というものをすでに見せてもらいましたから、大会は成功したも同然だと思っています。

 僕は、人生において大切なものの一つに、『遊び』があると思います。遊びの部分がなかったら、人生は豊かなものにならないと思うんです。

 だからこそ、選手たちにも、スタッフのみなさんにも、スノーボードマスターズという舞台で、思い切り遊んでほしいと思います」

女子の部の優勝は佐藤亜耶。

 王者を決める「バンクドスラローム」。快晴となった天候の影響もあり、刻々と変わるコースコンディションに注意を払いながら、選手たちは2本のタイムトライアルに挑んだ。

 女子の部で、優勝したのは、初日の4位からバンクドスラロームで1位のタイムをたたき出した佐藤亜耶。

 2位は浅谷純菜、3位は本多未沙となった。

 佐藤選手は、賞金100万円を手にして、

「一緒に出場した選手に、『4位でもあきらめちゃダメ』と、励まされて逆転できました。今シーズン、一緒に滑ってくれた仲間たちに感謝です。この賞金で、海外のレースに出ます!」

 と語った。

 平昌オリンピックでビッグエアで8位に入賞した鬼塚雅選手は、SBM初日の10位から、バンクドスラロームで大きく順位をあげたものの総合4位。レースを終えたゴール地点で、涙を浮かべ、くちびるを噛み締めていた。

 昨年の王者・佐賀優輝選手は、総合6位タイ。

「連覇を狙っていたので悔しいです。昨年の優勝で東野先生からもらった賞金を、どう使うべきかずっと考えていたんです。私はもっと強い選手になるために、来月から海外に留学します。今度出場するときはもう一度、優勝を狙います」

 と語った。

 SBMは、それぞれのライダーの魂に火をつける大会でもあった。

男子の部の優勝は小西隆文。

 男子の部で優勝したのは初日7位から逆転を果たした41歳、スノーボード界のレジェンド小西隆文。

 2位は、角野友基。3位は稲村樹となった。

 22歳の角野と24歳の稲村を従えて、表彰台の真ん中に立った小西は、喜びを語った。

「3種目2日間で総合力を問われるSBMの存在を知ったとき、『自分のための大会だ』と思って、出場を決めました。バンクドスラロームの経験が、みんなより少しあったので、勝つことができたのではないでしょうか。

 家族や仲間、友達、これまでスノーボードを一緒に滑ってきたすべての人にこの勝利を捧げたいと思います」

東野「スタッフの喜ぶ姿が嬉しかった」

 東野氏は大会をこう振り返る。

「第1回の大会から会場が変わったこともあって、前回のノウハウを生かせず、大会の準備は大変だったと思います。スタッフには本当に頭が下がります。

 表情を見ていても、選手たちはすごく楽しんでもらえたんじゃないかと思っています。『ド素人の道楽』として、『一番スノボがうまいやつを決めようぜ』と始めたことですが、この舞台で、選手だけでなく、スタッフも楽しんでくれたことが、なによりも嬉しい。

 スノーボードに出会えたおかげで、雪山を舞台にした小説も書くことができました。2度目のSBMも成功しましたし、大好きなスノーボードに、少しでも恩返しできたのかなと思います」

 スノーボードへの恩返し。

 東野氏の「思い」は確かに届いていた。

 2日目のバンクドスラロームの会場のコースサイドには、真っ黒に日焼けした男たちが、歓喜する姿があった。初日のフリーライディング+ジャンプを採点した大会のジャッジだった。

 ヘッドジャッジを務めた関貴英は、猛スピードでコースを滑り降りる選手たちを、ぐるぐると腕を回しながら、鼓舞していた。

 なかでも、「X GAMES」で戦う角野選手のバンクドスラロームの滑走には、「おー、むちゃくちゃはやい」と叫んでいたという。

 国内で活躍するベテランライダーと、世界を舞台に活躍する若手選手たちが一堂に会し、「一番上手いやつ」を決める戦いは、スノーボードを愛するものたちにとって、至福の時間だったに違いない。

角野「負けてこんなに嬉しい気持ちになるなんて」

 競技を終えた角野選手は、こう語ってくれた。

「これまで、どんな大会も優勝するために出ていたし、2位なら悔しかった。でも、これだけのメンバーが集まって、一緒に滑って、一番上手いスノーボーダーを決められたことが嬉しい。今回だけは2位に納得しています。負けて、こんな嬉しい気持ちになったのは初めてですよ。

 僕は今、オリンピックに出ている十代の選手たちに伝えたいことがあるんです。

 動画をみて、ジャンプだけを練習するのもいいけれど、雪山を滑って、どれだけ上手く滑れるかどうかを極めるのが、本来のスノーボードだと思うんです。若いアスリートたちも、二十歳になったらこの大会に出場して、『スノーボードがうまいかどうか』で勝負してみてほしい。それで負けたらいいと思う。

 先輩たちのすごい滑りを見たら、新しい世界が広がるはずだから。20メートルのジャンプを飛ばなくても、少しのずれもない美しいヒールターンを決める気持ちよさを知ってほしい」

 オリンピアンにして、「X GAMES」の勝者となったアスリートをここまで熱くしたスノーボードマスターズ。東野圭吾は、「小説も面白い」が、“草大会”を企画しても、最高の「エンターテインメント」を作り出したのだ。

 

(「Number Ex」秋月透馬(文藝春秋) = 文)