1年目は1勝、2年目は2勝だった。3年目は3勝した。

 昨年、ニュージーランドのウェリントンに本拠地を持つハリケーンズ(初優勝までに20年かかった)との試合前、長年同チームの広報担当を務めてきた男性がロッカールーム前の廊下で言ってくれたセリフを思い出す。

「スーパーラグビーはタフな戦いだよ。最初から何もかもがうまくいくわけはない。だから焦っちゃいけない。1年、また1年、しっかりと力を蓄えていけば、きっとサンウルブズは優勝を狙えるチームになっていくよ。大丈夫、100年も待たなきゃいけないわけじゃない」

 サンウルブズの2019年シーズンが始まる1カ月前、都内で行われた記者会見の席で、新しくヘッドコーチに就任したトニー・ブラウンは珍しく強気な発言をした。

「今年はすべての試合を勝ちに行きます」

 熟考し、言葉を選んで話すニュージーランド出身のタフガイが、確固たる口調でそう語った。

「今シーズンのサンウルブズにはそれだけの力があると思っています」

 選手層、この3年間で積み上げてきた経験、スーパーラグビーに挑んで4年目を迎える今シーズン、トニー・ブラウンが「勝ちに行く」と宣言したのは、本当に勝てる要素があったからなのだろう。

今年のサンウルブズは明らかに強かった。

 2月16日、シンガポールで行われたシーズン開幕戦では、南アフリカのシャークスに10-45で敗れたが、続く第2戦では秩父宮でオーストラリアの強豪ワラターズを30-31まで追い詰め、3戦目にはアウェーのニュージーランド遠征でチーフス相手に30-15の勝利。

 その後は黒星が3つ続いたが、どの試合もこれまでの3シーズンとは明らかに違う、極めて中身の濃い、何かポジティブな動きを強く感じさせてくれる負けだった。明らかに、サンウルブズは前進していた。

南の方から聞こえてきた除外のニュース。

 ところが。

 その不吉なニュースはいきなり南の方から聞こえてきた。

「2020年をもってサンウルブズはスーパーラグビーから除外となる」

 2019年3月20日、リークしたのはオーストラリアの日刊紙だった。

 夕食前だったと思う。ニュースサイトのトップページに現れたその記事に目を通した。ハァ? と声を出し、もう一度その記事を読んだが、1分前に読んだ内容に変化はなかった。しばらく呆然とし、夕食用にオーブンの中で焼いていたパンが焦げた。

 まさかそんなことあるわけないだろ! と笑い飛ばしたかったが、その記事は妙に確信に満ちていた。

 南半球からもたらされたその不吉な知らせは2日後、最悪の現実に姿を変える。

 3月22日、スーパーラグビーを主催する団体SANZAARは、2020年をもってサンウルブズのリーグでの活動が終了することを正式に発表した。

 彼らの発表は、決定に至るまでのプロセスの詳細はさほど語ることなく、決定した事実とその事実を選択するに至った理由を簡単に説明していただけだった。

年間約10億円、だったらしい。

 いわく、スーパーラグビーは参加15チームからなる現行の3カンファレンス制(システムが複雑であまり好評ではなかった)を変更し、2021年からは14チーム総当りのリーグ戦に戻る。

 いわく、サンウルブズはSANZAARが期待していたほどの収益をもたらさなかった。

 いわく、SANZAARとしてはサンウルブズのことを考え、現行のシステムを維持するために必要な金額を支払えばサンウルブズがリーグに残ることも可能、という条件を提示はしたが、サンウルブズ側からはその金額を支払うことは不可能という返答があった。

 SANZAARがサンウルブズに求めた拠出金は、日本円にして年間約10億円、だったらしい。「らしい」という曖昧な表現しかできないのは、この除外に関しての細かい数字は守秘義務契約が守られているために、誰もオフィシャルに発表できないからだ。

 だから、彼らが求めたものが果たして10億円だったのか、あるいは実はさらに多かったのかはわからない。少なくとも、実は2000万円、というようなことではなかったのだろう。その金額であれば、サンウルブズ好きの一般人が街角に立って募金でもすれば、あっという間に集められる。

どうしようもなかった、そして沈黙。

 日本ラグビー協会とサンウルブズを経営するジャパンエスアールは、SANZAARの発表を受けて緊急の記者会見を開いた。ジャパンエスアールからは最高責任者である渡瀬裕司氏、協会からは坂本典幸専務理事が出席した。

 会見をめぐる報道を見渡すと、質問とその返答は、ある意味で予想通りだった。サンウルブズの価値は理解しているが、SANZAARから突きつけられた条件はあまりにも厳しく、到底応じられるものではなかった、というのが会見を通じての結論となった。

 どうしようもなかったのか? と誰かが聞くたび、どうしようもなかった、と壇上のふたりのどちらかが答えるしかなかったようだ。

 どうしようもなかった。そして、もう決定は下されてしまった。次に続くのは沈黙しかない。

日本ラグビーに起こった悲しい事態。

 なんと悲しいことだろう。

 前日本代表ヘッドコーチであるエディー・ジョーンズの助言によって、たとえ当初の目的は日本代表の強化のためだったとはいえ、日本で初めてできたプロラグビーチームは、産声を上げてからたった5年でその命を失うことになった。

 なんと悲しいことだろう。

 サンウルブズは少しずつチームカルチャーを築き始めていたし、サンウルブズが好きだというファンも少しずつ増え始めていた。たとえグラウンドの中でプレーするのが日本代表とは全く関係のない外国人選手でも、その選手が活躍してサンウルブズが勝つならなんの問題もない、と答える新しいラグビーファンが現れ始めていた。

 なんと悲しいことだろう。

 世界のトップレベルのラグビー、それもガチンコの勝負を、東京の青山で見られる機会がいとも簡単に失われてしまった。

本当に守る気があったのだろうか。

 日本ラグビー界はなんとかしてサンウルブズというこの貴重なクラブを守ってあげられなかったのだろうか。国内最高峰のリーグであるトップリーグに目を向ければ、そこには超のつく一流企業名が並ぶ。トヨタ、パナソニック、サントリー、ヤマハ、NTT、キヤノン、リコー、クボタ、東芝……これだけの資本が集まっている世界で、10億円という金額を集めることすらできないのだろうか。

 あるいは、少しだけ辛辣な表現を許してもらえるなら、彼らにはもともとサンウルブズを守る気などなかったのだろうか。

 語るべき立場にある人々が黙して語らない以上、真相は永遠に闇の中にあり、サンウルブズについての議論は、きっとこのまま静かにフェイドアウトしていくのだろう。

 スーパーラグビーからの除外。そのショッキングなニュースから1週間後、サンウルブズはオーストラリアの地で、カンファレンスの首位を走るワラターズに31-29で勝ち、今シーズン2勝目をあげた。

 画面の上で喜ぶ選手たちの姿を眺めながら、思ったことはただ一つだ。

 一体、日本ラグビーは、どこに向かっていきたいのだろうか?

(「ラグビーPRESS」近藤篤 = 文)