5年ぶりの日本開催、場所は前回と同じ、さいたまスーパーアリーナ。

 フィギュアスケートの世界選手権が開幕し、3月21日には男子のショートプログラムが行なわれた。

 昨年11月のグランプリシリーズ・ロシア大会で優勝したものの負傷し、久々の実戦となる羽生結弦。2月の四大陸選手権で主要国際大会で初めて優勝した宇野昌磨。さらには昨シーズンの世界選手権王者であるネイサン・チェン。

 そうそうたる顔ぶれがそろい、優勝の行方に関心が集まる中での試合、首位に立ったのはチェンだった。

 もともとジャンプに定評のある選手だが、この日も持ち味を存分に発揮した。

際立ったチェンのジャンプ力。

 冒頭のトリプルアクセルに続き、2つ目のジャンプとして予定していたのは当初は4回転フリップだった。だが、調子が上がらないことからショート当日朝の公式練習から4回転ルッツに変更。試合でも成功させた。

 一般に、フリップよりもルッツの方が難度は高いとされている。つまり、調子を見て、より難しいジャンプに変えたのである。多彩な4回転ジャンプを持つチェンならではであり、そこにもチェンのジャンプ力がうかがえる。

 3つのジャンプで高い加点を得て、さらにステップやスピン、演技構成点などでも評価を得る。技術点で他を圧倒する60点台に乗せ、得点は107.40、ミスのない素晴らしい演技で2位となったジェイソン・ブラウンに10点以上の差をつけた。

 今シーズンは名門のイエール大学に入学し、学業に励みながらフィギュアスケートに取り組んできた。

「慣れるのに時間はかかりましたが両立できると分かってきました」

 チェンは言う。両立する中で、得たものも大きい、と続ける。

「友人たちとフィギュアスケート以外の会話をする機会も増え、さまざまなことを学び、考え方も広がりました」

 それが競技にも生きていると語る。

羽生は3位も、演技構成点はトップ。

 羽生は3位でショートを終えた。

 冒頭の4回転サルコウが2回転になり、規定により得点なしになったのが響いた。本来、得意とするジャンプだ。失敗の理由はどこにあったか。

 その一因となったのは、6分間練習にある。

 羽生は、「外的要因」と表し、こう説明した。

「跳ぶスペースをうまく見つけられなかったということもあります」

 6分間練習は、同じグループで滑る選手が同時に練習をするものだ。

 羽生やチェンのいるグループは6人だったが、6分間練習の中で選手は氷の感覚をたしかめたり、ジャンプを跳ぶなどして本番に備える。ジャンプを跳ぶ場合、リンクのどこでもいいわけではない。プログラムで想定している場所で跳ぶ。

 羽生も6分間練習で4回転サルコウを跳ぼうと試みた。だが、他の選手との兼ね合いであきらめざるを得なかったケースが数回あった。

 やむをえず、本来とは異なる軌道で跳び、失敗する。もう一度試みて成功させたが、失敗したことが不安へとつながったのである。

 ただ、ジャンプ1つが得点なしに終わった中でも演技構成点で全選手中トップ、各要素のGOEでも加点があり、94.87点を得たのは羽生の地力を物語っていた。

宇野「いさぎよく逃げました」

 一方、宇野は91.40、6位にとどまった。

 冒頭の4回転フリップが回転不足になった上に転倒したことが大きく響いた。

「本来のコースからそれました」

 宇野は「防げたミス」と悔やむ。その後のジャンプでは、4回転トウループ-トリプルトウループの連続ジャンプを予定していたが、2つ目を2回転におさえた。

「いさぎよく逃げました」

 宇野はこの場面をこう表現した。

「4回転フリップを失敗した時点で、置いていかれないために選択しました」

 もう一度失敗すれば、巻き返しきれない点差がつく。結果を求めて臨んだ試合だから選んだ変更だった。

フリーでチェンとの差をどう埋めるか。

 チェンとの差は大きい。だが、宇野はすでに23日へと目を向ける。

「無難な演技をしても勝てるような試合ではないですし、点差的にも不可能なので、フリーは攻めなければいけないと思います」

 羽生はフリーへ向けてこう語った。

「自分の構成をしっかりやりきって、1つひとつのジャンプをきれいに決めたいです」

 羽生の次に滑ることになったチェンはこのように抱負を語る。

「僕も人間だから、ミスもします。それでも高みを目指して、今日の結果を得られました。自信をもって臨みたいと思っています」

 優勝候補と目されていた3人は、三者三様でショートプログラムを終えた。成功、失敗それぞれにあったにせよ、それをフリーでどういかすかが鍵を握る。

(「オリンピックへの道」松原孝臣 = 文)