曲が終わるやいなや、微笑み、両手を軽く突き上げた。その瞬間観客席に座る人々が立ち上がり、拍手をおくって称えた。

 3月20日、世界フィギュアスケート選手権女子ショートプログラム。坂本花織は完璧な演技を披露し、日本勢最上位の2位につけた。

 冒頭、「鍵を握る」と課題に掲げていたトリプルフリップ-トリプルトウループのコンビネーションジャンプを成功させ、波に乗る。残る2つのジャンプも決め、ステップ、スピンも最高評価のレベル4を獲得。すべての要素が加点される非の打ちどころのない演技で、自己ベストを大きく更新する76.86点を得た。

「前の自分に勝てました。すごく満足しています」

 雪辱を期した大会だった。昨年末の全日本選手権で優勝を遂げて臨んだ、2月の四大陸選手権。ショートでは2位になったが、フリーでミスが出て4位、連覇を逃した。勝ちたいという欲がマイナスに働いた。

 帰国すると、猛練習に励んだ。

「(昨年出場した、平昌)オリンピック前より練習しました」

 それまでも坂本は、1日に3度リンクで練習してきた。そのうち朝の練習を1時間から2時間半に伸ばした。

「自分の持ち味の幅と高さのあるジャンプができていたので、しっかり、落ち着いてできました」

 練習が成果につながったと語る。

実はSPで苦しんできた紀平。

 パーフェクトだった坂本に対し、紀平梨花と宮原知子は、ジャンプでつまずくことになった。

 今シーズン出場した国際大会すべてで優勝している紀平だが、冒頭のトリプルアクセルが成功したのは一度きりと、実はショートでは苦しんできた。今回もシングルアクセルになり、規定により0点。その後は着実にまとめたが、よいときに比べればどこか精彩を欠いた。結果、70.90点で7位にとどまった。

練習が試合での演技を保証するわけではない。

「緊張はあまりなかったです」

 初めての大舞台に対し紀平はそう話したが、一方でこうも語った。

「自分に集中しすぎて、まわりに目がいかなかったというか、もっとまわりを見渡さないといけなかったと思いますし、強気になりすぎたと思います」

 リンクとの感覚のずれも失敗の理由にあげていた。緊張はなかったと言うものの、気持ちの持っていき方という点においてやはり初の大舞台であることは影響があったのかもしれない。

 宮原知子は、70.60点の8位で終えた。

 冒頭のトリプルルッツ-トリプルトウループのコンビネーションジャンプで、1つめの軸がぶれ、2つめが回転不足になったことが響いた。

「悔しいです。スピードがなかったのがいちばんの理由かなと思います」

 練習自体はきちんとできていたと言う。もともと練習量と取り組む姿勢に定評のある宮原だ。世界選手権へ向けてしっかり取り組んできただろう。それでも、「(試合では)練習ほど大きくできなくなってしまいます」。

 練習の成果をいかにして発揮するか。どれだけ練習しても、それだけでは試合での演技は保証されない。

 そこに、リンクにただひとり立ち、自身と向き合うことになる試合特有の難しさがある。その難しさは、宮原に限らない。

ザギトワ「精神を鍛えられました」

 ショートでトップに立ったのは、アリーナ・ザギトワ。冒頭のトリプルルッツ-トリプルループを成功させると、それ以降も圧巻の演技を見せた。得点も80点をただ1人超える82.08点と、大きくリードを奪った。

 精度の高いジャンプを武器に平昌五輪で金メダルを獲得したザギトワだが、今シーズンは中盤からジャンプに苦しんでいた。グランプリファイナル、欧州選手権のどちらも2位にとどまり、ロシア選手権でも5位に終わった。その停滞から脱却する演技に、感極まった表情を見せた。

 不調を取沙汰される機会が少なくなかったこともあってか、このように語りながら、笑顔を見せた。

「精神を鍛えられました。たくさん失敗はありましたが、乗り越えました」

決着は、22日のフリーで。

 選手それぞれにさまざまな表情を見せたショートプログラム。だが、まだ試合は終わっていない。22日にフリーを控えている。しかも2位以下は僅差である。

「頂点は目指していますけど、今はフリーでノーミスをすることだけを考えたいです」(坂本)

「できると思うかできないと思うかじゃなく、やるしかないです」(紀平)

「最後まで自分を信じて、そこがいちばんの課題なので、それができるように滑りたいです」(宮原)

 それぞれに、22日のフリーを見据える。

(「オリンピックへの道」松原孝臣 = 文)