2016年のNFLドラフト。ロサンゼルス・ラムズが栄えある全体1番目で指名したのは、カルフォルニア大学バークレー校のQB(クォーターバック)ジャレッド・ゴフだった。それから、わずか3年--。ゴフは24歳にしてチームをスーパーボウルにまで導いた。



ラムズのオフェンスを牽引する24歳のQBジャレッド・ゴフ

 だが、それほど目覚しく飛躍したにもかかわらず、ゴフの存在はここまでどこか地味だった。同じ若手でも、スポットライトが当たるのはカンザスシティ・チーフスのQBパトリック・マホームズなど、派手でクリエイティブなプレーをする選手に向けられてきた。カンファレンス・ファイナルでも、残った4人のQBのなかでゴフの注目度はもっとも低かった。

 それにしても、プロ入りからこの短期間で、よくNFLの頂点を争う位置にまで来たものだ。ゴフは1年目のシーズン途中から先発に昇格したものの、出場した試合で全敗。パフォーマンスも冴えず、「バスト(失敗作)ではないか」と揶揄されていたからだ。

 日陰の存在というイメージの強いゴフだが、スーパーボウルに向けられるスポットライトは普段以上に眩しい。ゴフの活躍によってラムズが優勝すれば、ついに彼が光の中心に立つことになる。

 第53回スーパーボウル。ラムズは、3年連続通算11度目の進出の「常勝軍団」ニューイングランド・ペイトリオッツと対戦する。ラムズにとっては17年ぶりのスーパーボウル。その前回の相手もペイトリオッツだった。

 2001年シーズン、当時セントルイス・ラムズはQBカート・ワーナーを中心に強力なオフェンスを誇り、下馬評では圧倒的有利とされていたが、ペイトリオッツに17−20で敗北。一方、その後に5度の優勝を遂げるペイトリオッツにとって、これが初めての王座戴冠だった。この時、ペイトリオッツのQBトム・ブレイディは24歳。プロ2年目にしてスーパーボウルMVPに輝いている。

「覚えている初めてのスーパーボウルは……ペイトリオッツがカロライナに勝ったときかな」

 スーパーボウルウィークの幕開けとなるメディアとのインタビューセッションで、NFL専門チャンネル「NFLネットワーク」のインタビュアーに抜擢されたワーナーの質問に対し、ゴフはそう答えた。ペイトリオッツがカロライナ・パンサーズに勝利したのは2003年シーズンの第38回大会。ラムズに勝って初めて頂点を掴んでから2年後の話だ。

 その年のスーパーボウルでもMVPに輝いたブレイディは、これまで合計4度もそのタイトルを手にしている。彼がこの大舞台で大崩れすることはないだろう。やはり、ゴフの出来がスーパーボウルの勝敗を左右することになりそうだ。

 注視すべきは、ゴフの”ディープボール”。つまり、ロングパスの精度だろう。強肩QBはNFLでも数多くいるが、ゴフはロングパスを正確に投げることができる。ロングパスは長い距離を稼ぐことができる「飛び道具」、ホームランのようなものだ。これを高い精度で遂行できるゴフは、高い打率も残しつつホームランも打てるバッターである。

 ただ、身長193cmの大柄なゴフは、自ら走って距離を稼ぐことができるアスリートタイプのQBではない。5人の攻撃ラインが作るポケットの中からパスを投じることで生きるタイプだ。

 それだけに、相手ディフェンスからプレッシャーをかけられた時のゴフはもろい。今シーズンのゴフのパサーレーティング(QBのパスの良し悪しを測る指標)は101.1で7位。だが、専門サイト『フットボール・フォーカス』によれば、プレッシャーをかけられた時のパサーレーティングは56.8まで落ちている。対して、ポケットの中からノープレッシャーでパスを投げた時の数値は117.1と高かった。

 では、対戦相手はゴフにどんどんプレッシャーをかければいいではないか、と言いたいところだが、アメリカンフットボールはそれほど単純な競技ではない。ゴフの後方にいるランニングバック(RB)のポジションには、リーグ屈指の実力を誇るトッド・ガーリーとC・J・アンダーソンが控えている。相手は彼らの強力なラン攻撃も警戒しなければならず、ゴフばかりに的を絞りきれないのだ。

「プレイアクションパス」と呼ばれる基本プレーがある。QBがRBへハンドオフ(ボールを渡すこと)するふりをしてパスを投げるプレーなのだが、これを使うことでランプレーと勘違いした相手ディフェンス陣が全体的に前がかりとなり、フィールドの奥のスペースにロングパスを通しやすくなる。

 ラムズはRBのラン攻撃も大きな武器なので、逆にこのプレーアクションパスも決まりやすい。ラムズは2017年、2018年とリーグでもっともプレーアクションパスを使ったチームで、今季のゴフのプレーアクション時のパサーレーティングが112.3と高いことからも、その有用性はうかがい知れる。

 ただ、相手はペイトリオッツだ。彼らの強さは、事前に準備したゲームプランを完璧に遂行できるところにある。世界のプロスポーツでもっとも戦力が均衡化されるシステムを誇るNFLにおいて、ここ8年で5度もスーパーボウル出場を果たしているのは伊達ではない。

 たとえば、カンファレンス・ファイナルのチーフス戦。ペイトリオッツは今季50タッチダウンを記録したマホームズを封じるため、変則的なパスラッシュをかけて若きスターQBを混乱させることに成功している。プロキャリアわずか3年目のゴフが、スナップ前にペイトリオッツディフェンスの配置や意図をいかに察し、最適なプレーを選択できるかに注視したい。

 そのゴフを支えているのが、33歳ながらラムズをスーパーボウルまで牽引してきたショーン・マクヴェイ・ヘッドコーチ(HC)だ。天才的オフェンスプレーを駆使するマグウェイHCは、有望な若きコーチの代表格。2年前に4勝12敗と低迷していたチームを引き継ぎ、頂点に手をかけるまでに躍進させた。

 また、ラムズはオフェンスだけでなく、ディフェンス陣にも注目したい。ディフェンスタックル(DT)には今季サック王(20.5)のアーロン・ドナルドが構えている。今季のポストシーズンでブレイディはいまだサックされていないので、ドナルドがどこまで迫れるか興味深い。さらに、ブレイディがサードダウン時に頼りにするタイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキーやワイドレシーバー(WR)ジュリアン・エデルマンを相手に、ラムズのラインバッカーや守備バック陣がいかに対応できるかも注目だ。

 41歳のブレイディと、24歳のゴフ--。17歳の年齢差はスーパーボウル史上最大だ。ラムズが勝利すれば、ゴフが新時代の幕開けを宣言することになる。17年前、ドラフトの順位が低く(6巡目全体199位)、バックアップQBとして入団したブレイディがスーパーボウルで優勝し、それからスター選手になっていったように。

 2月3日(日本時間2月4日、朝8時半キックオフ)、ジョージア州アトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムで両軍が雌雄を決する。