ついに鬼門を破った。 1月26日、27日に行なわれた『第14回ボルダリング・ジャパンカップ(BJC)』で、21歳の野中生萌(みほう)が初優勝。出場9回目での戴冠に笑顔を咲かせた。ボルダリング・ジャパンカップを制した野中生萌 野中は高校…

 ついに鬼門を破った。

 1月26日、27日に行なわれた『第14回ボルダリング・ジャパンカップ(BJC)』で、21歳の野中生萌(みほう)が初優勝。出場9回目での戴冠に笑顔を咲かせた。



ボルダリング・ジャパンカップを制した野中生萌

 野中は高校2年生だった2014年に国際大会のW杯ボルダリングにデビューすると、その年6大会目のW杯ボルダリング・フランス大会で2位。高校卒業後の2016年には初優勝を含めてW杯ボルダリングで2勝してトップクライマーの仲間入りを果たすと、昨シーズンはW杯ボルダリング年間女王に輝き、念願だった世界の頂点に登りつめた。

 舞台が大きくなるほど力を発揮する野中だが、これまでは「日本一」のかかったこの大会のタイトルとは無縁だった。

 その大きな理由がコンディショニング。国際大会を戦う選手たちは11月末からシーズンオフを迎えると、束の間の休息と次シーズンへのトレーニングに励み、年明けはこの大会から始動する。

 ただ、代表常連組の多くは、この大会の優勝よりも代表権の維持にプライオリティを置いている。優勝を狙ってピーキングをBJCに合わせると、4月から始まる国際大会シーズンにコンディションが落ちて苦戦するケースが少なくないからだ。

 野中もこれまでそのスタンスで臨み、今年もこの大会に向けて特別なことはしていない。むしろ、昨季後半に負った右肩の故障箇所を補強するトレーニングに重点を置いたことで、例年よりも強度の高い課題は登りこめない日々を過ごした。

 そのなかで初優勝を引き寄せたのが、意識の変化にあった。

 昨年のBJC予選後は「4月からのW杯シーズンに向けて、オフにトレーニングしてきたことの成果の確認ですね」と語っていたが、今年の予選通過後は「(今年8月の)世界選手権や東京五輪は日本開催。ここ(BJC)で勝つことは、国内大会に慣れるという意味で重要だと思っています」と意気込んだ。

 右肩は「まだ課題によっては痛みが出る」状態ながらも、予選5課題を4完登5ゾーンのグループ1位で通過すると、大会2日目の準決勝4課題を2完登4ゾーンでは4位通過。決勝戦では野中が得意とするランジ(ジャンプ)能力が求められる第2課題を完登して流れに乗ると、最終課題も3トライ目で完登して3完登4ゾーン。

「(優勝は)やっと、という感じ。悔しい思いをしてきたので、すごくうれしい。今回はすべての課題に対応できたのが勝てた理由だと思います」

 12度目の日本一を狙った野口啓代は、完登数では野中と並びながらも1ゾーン及ばず2位。3位には伊藤ふたばが入り、五輪強化選手が順調な仕上がりをアピールした。また、16歳の平野夏海、18歳の倉菜々子、中村真緒が初めて決勝に進出し、次世代も着実に成長していることを印象づけた。

 一方、昨年の世界選手権ボルダリングの金メダリストで、五輪強化選手の原田海の予選落ちで始まった男子は、22歳の石松大晟(たいせい)が初優勝。2017年のW杯ボルダリング・ミュンヘン大会で3位にもなった実力者は、今年4月からの国際大会の出場権を手にするために万全の調整で臨み、最高の結果を手にして表彰式で喜びを爆発させた。

 2位には五輪強化選手の楢﨑智亜、3位には昨年のユース五輪の金メダリストの土肥圭太。4連覇を狙った五輪強化選手の藤井快(こころ)は決勝戦で最下位の6位に終わったものの、年末年始は長い今シーズンの先を見据えてリード種目を強化してきたこともあって、「中途半端な順位よりスッキリしました」と先を向いている。

 その選手たちが次に向かうのが、初開催される「スピード・ジャパンカップ』(2月10日@東京・昭島)。この大会と今回のBJC、そして3月の「リード・ジャパンカップ」(3月2日、3日@千葉・印西)の3種目の複合成績を踏まえて、5月の「コンバインド・ジャパンカップ」(5月25日、26日@愛媛・西条)では優勝者に世界選手権コンバインドの出場権が与えられる。

 オリンピックへの出場権争いが始まる今夏の「世界選手権」、そして来夏の「東京五輪」に向けて、ここからスポーツクライミングの戦いは熱さを増していく。