アメリカンフットボールの全日本大学選手権決勝・甲子園ボウルは16日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場であり、関学大が早大を下し、2年ぶりの頂点に立った。その中心にいたのが、5月に日大の悪質タックルの被害者になったQB奥野耕世(2年)だ。年間最優秀選手(ミルズ杯)、甲子園ボウル最優秀選手に輝くまで急成長した若きQBが、関学大を29度目の学生日本一に導いた。

 今季のチームが始まった時、奥野は関学大のエースQBではなかった。昨季スターターQBを務めた西野航輝(4年)、2番手で今季は主将を務める光藤航哉(4年)が残っていて、良くても3番手という見方だった。しかし、奥野は小学生から一貫してQB。小柄だが、守備陣に追い回されても逃げながらパスを投げたり、「パスが投げられない」と思った時にすぐに自ら走ることに切り替えることができたり。QBに必要な「状況に応じた判断力」が抜群。そして、決めなくてはいけない時に決める、という「勝負勘」が優れている。

 アメフトのQBは攻撃の司令塔と言われる。パスを投げる時は相手守備の作戦を瞬時に読み取り、自らの判断でターゲットを選び、投げ込む。QBの力量がチームの実力を左右すると言っても過言ではない大事なポジションだ。

 関学大の首脳陣は、そんな奥野の能力に期待。今春から奥野に出場機会を与えて、どこまでできるのか試した。その矢先に悪質タックルを受けて、戦線離脱。社会問題化し、奥野は精神的に追い込まれたが、「アメフトが好き」という原点に立ち返って、必死に前を向いて練習してきた。

 それが、秋の終盤に花開く。関西学生リーグ第6節の引き分けた関大戦。実質的には負け試合だったが、最後の攻撃で奥野が冷静にパスを投げ込んで同点に持ち込んだ。西日本代表決定戦の立命大戦は残り2秒から逆転サヨナラフィールドゴール(FG)で勝ったが、そのFGをお膳立てしたのも奥野のパスだった。「自分がやらないといけないことをやっているだけ」と話すが、土壇場で結果を出し続けた。そして、関西学生リーグの最優秀選手(松葉杯)に輝き、誰もが「関学大のエースQB」と一目置く存在になった。

 1年前の甲子園ボウルで関学大は日大に敗れたが、その試合で大活躍したのが、奥野と同学年の日大QB林大希(2年)だった。「すごいなと思って見ていたけど、正直いうと、悔しい思いもあった」と奥野。そんなライバルへの対抗心も胸にはあった。そして、1年前に林が獲得したミルズ杯をとった。次は、林も勝利へ導くことができなかったライスボウル(1月3日、東京ドーム)が待っている。(大西史恭)