(24日、大相撲九州場所14日目)

 支度部屋に戻った高安は大きく息を吐いた。一瞬だけ安堵(あんど)の表情を浮かべ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 「まあ、紙一重ですね」。1敗差で追う貴景勝に土俵際で逆転勝ち。自身最多タイの12勝目を挙げ、初優勝に望みをつないだ。

 立ち合い。押し相撲が身上の貴景勝に真っ向から当たった。予想通りの突っ張り合い。ところが、繰り出した右の押しが外れ、一気に土俵際に追い込まれた。

 「相手の圧力が強かった。押し込まれてしまった」。右足が俵にかかったところで、右方向に体を回転し、圧力をかわす。「体がうまく反応した」。バランスを崩した貴景勝が土俵上に落ちた。引き落とし。土壇場での粘りで、形勢をひっくり返した。

 横綱、大関陣でただ一人、賜杯(しはい)を抱いたことがない。過去、準優勝が3度。そのうちの一つ、今年1月の初場所では番付が下だった栃ノ心が初優勝した。「次こそは自分が、という気持ちで、ひたすら稽古するしかない」と誓った。

 今場所は7日目までに2敗したが、ここから踏ん張った。中日以降、白星を重ね、貴景勝を1差で追走。ここ数日の朝稽古は、土俵脇のシャッターを閉め、報道陣を含めて外部をシャットアウト。集中力を高めていた。

 千秋楽は過去10勝4敗の御嶽海と戦う。「浮足立たないように、しっかりと準備をして臨みたい」。今度こそ。そう心に誓う28歳の大関に慢心はない。(鷹見正之)