(21日、大相撲九州場所11日目)

 負けた日と同じように、高安は支度部屋で無言になった。目をつむってうつむいて、報道陣の質問には反応しない。内容は負け。ただ、優勝を争う終盤、物言いがつく際どい結びの一番で、勝ちという結果を拾ったのは大きい。

 出足は良かった。互角の立ち合いから先に前に出て、227キロの逸ノ城を土俵際に持って行った。が、そこで足が止まった。不用意な引き技で呼び込み、攻守が逆転。最後は逃げるように後ずさりし、土俵下に落ちていった。かろうじて捨て身のはたきが効き、逸ノ城の左足の指先がわずかに先に土俵を出ていて、救われた。

 今場所、自身が理想とする前に出る相撲は多くは取れていない。勝った9番のうち、5番の決まり手ははたき込み。「悪いところ」と自分でもわかっている引き技が目立つ。相手の上体を起こすことができれば、はたきも効くが、重たい逸ノ城をのけぞらせるだけの圧力が今は出ていない。

 「運が良かった」。土俵下で見ていた高田川審判長(元関脇安芸乃島)はそう言った。1差でトップを走る貴景勝との直接対戦を残すため、自力優勝の可能性が残った。

 八角理事長(元横綱北勝海)は「優勝する時には、こういうことも味方につけてね。いい方に思わないと」。大関以上でただ一人優勝の経験がない高安に、その心の余裕はあるか。試される残り4日間だ。(菅沼遼)