関東学生3部リーグCブロックに所属する電気通信大学クラッシャーズ。攻撃の指揮をとるのは攻撃コーディネーターの高柳里紗(4年)。電気通信大では初となる女性コーディネーターだ。練習前の高柳はハキハキとしていて、よく笑う元気溌剌とした明るい印象だ…

関東学生3部リーグCブロックに所属する電気通信大学クラッシャーズ。攻撃の指揮をとるのは攻撃コーディネーターの高柳里紗(4年)。電気通信大では初となる女性コーディネーターだ。

練習前の高柳はハキハキとしていて、よく笑う元気溌剌とした明るい印象だ。しかし、練習になると、表情は一変。真剣な表情でサイドラインから指示を送っていた。

「プレーの話をしている時、たまにものすごい険しい表情になっている時があります。本人は気づいていないと思いますが…」

先発QBの梅島裕太郎(3年)は真剣な高柳の表情に気圧されることがよくあるという。

高校まではバスケットボール部の選手だった高柳は、3年時には先発として関東大会に出場するほどの実力の持ち主だった。大学進学後は女子バスケットボール部がなかったため、何をするか迷っていたところ、フットボール部からの熱烈な勧誘を受け、フットボールの世界に足を踏み入れた。

マネージャーとして入部した高柳は1年時に動画の撮影、管理を担当。2年生になったときに大河原一憲監督から「アナライジングスタッフになって、相手の分析などをしてみないか?」と、打診があった。アナライジングスタッフとは、対戦相手のビデオを見ながら戦術分析を行う役割だ。

「高柳には将来的に選手に意見が出せるレベルまで成長する見込みがあったので、まずは対戦相手のスカウティングを学ばせた」

大河原監督は高柳の高いコミュニケーション能力と、スポーツパーソンとしてのセンスに、将来、コーチとして戦力となってくれるかもしれないという可能性を見出していた。

「より選手に近い立場でチームに関われることに魅力を感じました」

高柳は申し入れを快諾。2年の秋には選手にも意見を出せるレベルに到達し、リーグ戦第4節からはプレーコールを出していた。大河原監督も舌を巻く急成長だった。

女性コーディネーターとしては昨年、早稲田大学の4年生アナライジングスタッフだった濱部莉彩子(現・オービックシーガルズ守備アシスタントコーチ)が対法政戦で攻撃コーディネーターを努め、21対13で勝利したという例がある。また、今季も法政大学や東京大学には、スポッター席にいる攻守コーディネーターからのプレーコールを受けて、選手に伝達する役割を担っている女性スタッフが活躍している。しかし、1シーズンを通してコーディネーターを努めているという例は極めて希である。

高柳には当然、プレーの経験はない。しかし、知識取得のために、とにかく選手とのコミュニケーションに時間を割いた。大学の講義の間、練習後、練習がない日まで先輩QBたちとのミーティングを行った。一日中ミーティングをする日もあったという。それまではルールをなんとなくしかわからなかった高柳だったが、ミーティングを重ねることでフットボールを理解していった。

3年生から攻撃コーディネーターに就任し、今年で2年目。高柳がコーディネーターとしていつも心がけていることは「選手を第一に考えてプレーを選択すること」だ。

「NFLやXリーグを参考にプレーを考え、自分の中ではいいプレーだと思っていても、実際にプレーする選手にとってはいいプレーでない時もあります。一番大事なのは選手がプレーの意図を理解してプレーすること。その上で、ベストなイメージがチームで共有できていることを大事にしています」

机上の論理でプレーを選択していまいがちなコーチも少なくないが、高柳はプレーする選手たちがいかに思い切り、心地よくプレーさせることができるかが、コーディネーターの役割だと考えている。

今年、RBから転向し、先発QBになった梅島にとっても高柳の存在は大きい。

「転向した直後は不安がありましたが、高柳さんが客観的に私のパフォーマンスを見てくれ、自分では気がつかなかった癖や短所を修正できています。プレーは一緒に考えているのですが、同じ目線に立って話をしてくれる先輩なので意見交換を活発に行えています。絶対的に信頼しています」

電気通信大は10月13日のリーグ戦第2節で、城西大学に28対10で勝利し、1勝1敗。2部リーグ昇格まで負けなられない戦いが続く。高柳率いる攻撃チームが勝負の鍵を握っている。