「素晴らしい教科書が日本に来た。ちびっ子だけではなく、全員にとって」。ラグビー・トップリーグで3連覇をめざすサントリーの沢木監督は、神戸製鋼に今季初黒星を喫した14日の夜、言った。「教科書」とは、神鋼に新加入して鮮烈な初陣を飾った元ニュージーランド代表SOカーターのこと。世界の年間最優秀選手に3度輝いた司令塔から、日本の王者はどんな刺激を受けたのか。

 「常に2、3個の選択肢を持っている。体を正面に向けてパスを捕るので」。サントリー主将のSH流は、カーターのすごさを間近でそう感じた。キーワードは「正面」だ。

 象徴的なのは前半、カーター自身に奪われたトライだった。神鋼の陣内で相手がカーターにつなごうとしたパスが乱れ、ワンバウンド。敵味方とも一瞬、足が止まる。

 そこで慌てないのがカーター。体勢を崩さず、正面を向いたまま広い視野を保った。ボールを拾うと、出足が鈍った防御の隙間を見逃さず切れ込んで起点に。最後、折り返しのパスを受けてインゴールに走った。

 正面を見たままボールを扱うと、相手にすれば、左右のどちらにパスされるのか、それともどちらに突破を仕掛けてくるのか予想しづらい。横や斜め後ろにパスをつなぐラグビーで、体を横に向けずプレーするのは基本、かつ難しく、おざなりにされがちな動きだ。

 その徹底に加えてカーターには得意のキックがある。サントリーの最後尾を守ったFB松島は「色々な攻め手を想定していたが、さらに注意しなければならないことが増えた」と振り返った。

 もっとも、世界の一流が示したプレーはサントリーが大切にしてきたものでもあったはず。お家芸の高速展開は、基本を突き詰めてこそミスなく成り立ってきた。今季は開幕から2点差続きの2連勝と薄氷を踏む接戦を重ね、神鋼に敗れた。波に乗れない3試合を終え、沢木監督はむしろうれしそうだった。

 「久々に味わった悔しさ。これで自分たちが強くなれる。次は絶対に勝つ」

 両者はプレーオフで再戦の可能性もある。王者が刺激を受けて目覚めれば、より優勝争いはおもしろくなる。(中川文如)