2019年ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会と2020年東京五輪・パラリンピック。国内で続けて開催される国際的ビッグイベントを運営する組織委員会の事務方トップは、ともに中央省庁の事務次官経験者だ。ラグビーの嶋津昭氏(75)と五輪・パラリンピックの武藤敏郎氏(75)。どんな思いで大会と向き合っているのかを、両大会の運営に携わる元競泳選手の伊藤華英さん(33)が聞き、紙上対談形式にまとめた。

■求められる調整能力

 伊藤 組織運営のそれぞれの特徴は、どういったところでしょう。

 武藤 都庁や国、民間企業からの出向者、直接採用者と様々な立場の職員がいる。そうすると、相互理解において、小さな食い違いが生ずる。思いを一つにすることが非常に難しい。

 2014年1月の発足時の職員は約40人だったが、今や2千人。この先も増え、本番時は8千人になる。彼らと常に問題意識を共有しないといけない。組織として特殊なマネジメントが必要になる。

 嶋津 ラグビーW杯は開催12会場の19自治体と大会組織委の共催のような形をとっている。会場ごとに12の支部があり、職員は計約260人。20年大会と比べると、中小・零細企業だが、働き盛りの若手がいて活気がある。国際統括団体のワールドラグビー(WR)などから10人ほどの外国人が常駐し、職場に英語が飛び交っている。

 伊藤 マネジメントの鍵は何ですか。

 武藤 IOC(国際オリンピック委員会)やIF(国際競技団体)との調整だ。IOCと常にケンカするわけにはいかないが、言いなりになってもいい結果を生まない。そこのバランスの取り方です。

 伊藤 ラグビーも国際団体との調整は難しいのでは。

 嶋津 15年に新国立競技場の設計変更が決まりW杯で使えなくなった後は少しバタバタした。国際的に「失われた新国立」と評判が広まり、WRの理事会でも「本当に開催できるのか」と議論があったようだ。ただ、招致時の計画では横浜国際総合競技場で決勝を開催するつもりだった。今は雨降って地固まる、の状態だと思う。

■学んだ「SAY NO」の大切さ

 伊藤 中央省庁トップから畑違いの分野への転身ですが。

 嶋津 様々な自治体との交渉は、仕事を始めてから50年、ずっとやってきたこと。その延長線上です。

 武藤 スポーツは私に向いていないと思った。でもロンドン五輪組織委のCEO(最高経営責任者)を務めたポール・ダイトン氏と会って変わった。彼は「SAY NOが大切だ」と言う。あちこちの要望にすべて応えたら、もたない。私も大蔵省主計局で各省の予算要求に「NO」と言ってきた。それならできるかも、と。もちろんすべてがNOではないけれど。

 伊藤 組織委同士で連携協定を結んだ。この先どんな協力を考えていますか。

 武藤 個人的なアイデアだが、1964年の東京五輪でカラーテレビが普及したように、今回は8Kテレビや自由視点映像が広まると思う。カメラを競技場の至る場所につけて、様々な視点の映像を提供する。今までとスポーツの見方が大きく変わる。それを世界中に発信したい。ボールゲームに最適だから、まずラグビーで導入してほしい。

 嶋津 21年の関西ワールドマスターズゲームズも含めた3大会で共通してできるのは人材の養成。W杯を経験したボランティアは五輪・パラリンピックの中核になる。うちには公募などで大企業から転身した若手らが活躍している。そういう人材がキャリアを生かして国際大会や国際組織で活躍できるようにしたい。

 伊藤 今後の課題は何ですか。

 嶋津 最大の目標は全48試合を満席にすること。それに向けて様々な活動をしている。入場券は今年1月から開催都市住民などに前売りを行った。国内外で計250万件の応募があり、過去大会と比べてもスピード感があると評価してもらった。しかし、まだ前半が終わっただけ。今月からは一般販売が始まる。ラグビーへの関心が薄い人にW杯を見てもらうにはどうするか。後半の大きな課題だ。

 武藤 大幅に職員が増えると、事務総長だけで処理するのは無理。42の競技会場それぞれの現場で状況判断できるような態勢を作っていきたい。(構成・野村周平)

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 しまづ・あきら 1943年、東京都出身。東大法学部卒。67年、自治省(現総務省)入省。2001年、総務省の初代事務次官に就任。14年春から19年W杯組織委員会の事務総長を務める。

 むとう・としろう 1943年、埼玉県出身。東大法学部卒。66年、大蔵省(現財務省)入省。2000年、大蔵事務次官。03年、日本銀行副総裁。14年1月、20年東京大会事務総長に。

 いとう・はなえ 1985年、埼玉県出身。自由形と背泳ぎが得意で2008年北京五輪、12年ロンドン五輪の競泳代表。ラグビー好きで19年大会のドリームサポーターを務め、20年大会組織委の広報係長としても活躍している。