会場が10万人を収容するダラス・カウボーイズの豪奢な本拠地「AT&Tスタジアム」だったから……というだけではなく、今春のNFLドラフトはずいぶんと華やいだイベントとなった。なぜならば、フットボールの花形であるクォーターバック(QB)が、1巡目だけで5人も指名を受けたからだ。これはNFL史上最多タイの数である。



今年のドラフトで全体1番目指名を受けたQBベイカー・メイフィールド

 ドラフト1巡目と聞けば、すべてを兼備した「エリート」の印象があるかもしれない。だが、この5人のQBを見ていると、必ずしもそういった感じの選手だけではないのだから、より見る者の関心を引く。

 とはいえ、プレシーズンを見るかぎり、5人それぞれがいい形でプロへの第一歩を踏み出していた。思っていたよりも早く、彼らの出番は巡ってくるかもしれない。

 優勝争いを見るのは当然、楽しい。だが、若い選手がドラフト順位どおりの期待に応えることができるのか、厳しいNFLの世界でプロとして確立していけるのか――。そうした点を見るのも、また楽しみだ。

 この5人の新人QBのなかで、もっとも注視されているのは、オクラホマ大のベイカー・メイフィールドだろう。名誉あるドラフト全体1番目指名でクリーブランド・ブラウンズへの入団が決まった。

 彼の場合は、その指名順位に似つかわしくない「危うさ」をはらんでいるという点でも注目を集めている。思い切りよくパスを投げるQBを、アメリカではしばしば「Gunslinger(ガンスリンガー/銃の名手)」と呼ぶ。近年であれば、ブレット・ファーブ(元グリーンベイ・パッカーズ)にその愛称がよく使われていたが、メイフィールドはまさに「ファーブのようなガンスリンガー」と評されている。

 NFLのQBとしては小柄であること(大半が190cm前後である一方で、メイフィールドは180cmほどしかない)や、未熟さを感じさせる人間性(大学時代に飲酒でトラブルを起こしている)など、メイフィールドは少なからず危惧されている。しかし一方で、高いパス精度などQBとしての総合力は高く、ブラウンズはそこを評価したのだろう。2002年以来プレーオフに進出していない弱小球団だけに、メイフィールドのようなリスクの高い選手を獲るという「博打」に打って出た。その決断は奏功するだろうか。

 当初、トップ指名の可能性がもっとも高いと言われていたのは、南カリフォルニア大のサム・ダーノルドだった。プロ向きの体躯と強肩は折り紙つき。だが、ファンブルなどターンオーバー癖が懸念されて、ドラフト順位を下げたと思われる。結果、全体3番目でニューヨーク・ジェッツから指名された。

 しかし、ダーノルドのプレシーズンでの評価は上々だ。ルーキーながらリーダーシップに長けたプレーでアピールに成功し、他の新人QBに先がけて開幕戦の先発に指名されている。

 今年のドラフトでダーノルドと並んで強肩で知られるQBは、全体7番目でバッファロー・ビルズに入団したワイオミング大のジョシュ・アレンだ。ただ、その「鉄砲」ぶりこそ高評価な一方、大学での通算パス成功率は56.2%と精度に欠いている。近年のNFLトップ級QBのパス成功率は65%を超えるだけに、アレンがプロの世界でどこまで成長できるのか興味深い。

 そのアレンとは対照的に、プロの世界にすぐ順応するだろうと言われているのが、名門UCLAからアリゾナ・カージナルスに入団したジョシュ・ローゼンだ。ドラフトではトップ3以内で指名されるだろうという前評価だったが、フタを開けてみれば全体10番目。細身の体型でプロの強いヒットに耐えられないかもしれないという点や、リーダーシップに欠ける(父親は著名な神経外科医であるため、いわゆる「ボンボン」と揶揄する声もある)ところが評価を下げたか。

 そして、5人の1巡目QBのなかでもっとも低い評価だったのは、ルイビル大のラマー・ジャクソンだ。1巡目の最終順位となる32番目でボルチモア・レイブンズが指名した。前出のメイフィールドが2017年に獲得したハイズマン賞(大学最優秀選手賞)を、ジャクソンは大学2年生のときに受賞している。ただ、その当初からジャクソンのプレースタイルは「プロ向きではない」と言われていた。

 ジャクソンはQBでありながら走力が非常に高く、2016年と2017年には自らのランで1500ヤード以上を稼いだ。だがその一方、パスの通算成功率は57.0%と低い。大学時代は「走れるQB」と評価されていても、NFLのディフェンス陣はそう甘くない。プロの世界に入ったのならば、大学時代以上に高いパス能力が求められるだろう。

「ジャクソンはQBではなく、ワイドレシーバー(WR)としてNFLに行くべきだ」。ドラフト前はそんな声も聞こえた。だが、プレシーズンではマイケル・ビック(元アトランタ・ファルコンズ)を思い出させるような独特のステップでランヤードを獲得し、関係者を大いに興奮させた。ドラフトでは低い評価だったが、面白い選手になる可能性を十分に秘めている。

 そしてひとりだけ、QBではないが紹介しておきたいルーキーがいる。それは、ニューヨーク・ジャイアンツが全体2番目で指名したランニングバック(RB)のサクオン・バークリーだ。全ポジションを通して「今年のドラフトで一番の選手は誰か?」と問われれば、「ペンシルバニア州立大のバークリー」という答えが多くを占めていた。それほどの逸材なのだ。

 機動力、パス捕球力、身体の強さ、フットボールIQの高さ……。すべてを兼ね備えており、その潜在能力はずば抜けている。ジャイアンツは37歳のQBイーライ・マニングの後継者を見つける必要に迫られているが、「10年にひとりの才能」と称されるバークリーをドラフトで逃す手はなかった。

 パスゲーム全盛と言われる現代のNFLにおいて、ここ1、2年はふたたびランゲーム、つまりはRBの重要性が再認識されている。バークリーがプロ1年目からいきなりトップクラスの活躍を見せても驚くべきではないだろう。ちなみに、開幕前からバークリーのレプリカジャージーはトップクラスの売り上げを記録している。

 現地9月6日(日本時間9月7日)、2018年のNFLシーズンがいよいよ始まる。優勝争いは昨季の王者フィラデルフィア・イーグルスや、常勝軍団ニューイングランド・ペイトリオッツを中心に繰り広げられると見られている。今回紹介したルーキーQBたちがいきなり優勝争いに絡んでくることは考えにくいだろう。

 ただ、トム・ブレイディ(41歳/ニューイングランド・ペイトリオッツ)やベン・ロスリスバーガー(36歳/ピッツバーグ・スティーラーズ)、アーロン・ロジャース(34歳/グリーンベイ・パッカーズ)といったスーパーボウルを制した「エリートQB」も、いつかは世代交代を迫られる。今年の新顔たちが将来、彼ら大ベテランに代わる新たなスターQBになるかもしれない。