2020年東京五輪の競泳決勝は午前中に始まることが19日固まった。「アスリートファースト」を掲げ、世界選手権などと同様に午後決勝を要望していた大会組織委員会や日本水泳連盟の意向はなぜ通じなかったのか。背景には多額の放映権料を払う米テレビ局の意向が強くにじむ。

 「非常に残念です。選手のためにも、日本の水泳ファンのためにも、やはり午後決勝にしてほしかった思いはある」。19日、日本水連の坂本要専務理事は声を落とした。

 競泳の決勝開始時間をめぐっては、国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委が協議を重ねてきた。昨年7月の時点で、IOCのコーツ調整委員長は「競泳は北京と同じような可能性になる」と示唆。午前決勝になった2008年北京大会と同じように午前中から始まる可能性に言及し、日本水連の中でも「午前決勝は避けられない」という見方が強かった。

 だが、日本水連は日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長や大会組織委を通じてIOCに午後決勝を要望。元競泳選手のIOC委員らにも働きかけ、国際水連(FINA)にも午後決勝にするように依頼した。

 「(日本)水連、大会組織委、FINAは午後決勝を要望している。午前はIOCだけだ」。11日のIOCとの折衝の場でも、日本水連側はこの点を強調。IOCとFINAが話し合って決定することになったが、結局はIOCに押し切られた。

 競泳の決勝開始時間は五輪では変則的になりつつある。16年リオデジャネイロ大会では現地時間の午後10時から準決勝、決勝が始まる「夜決勝」。選手たちが会場をあとにするのは深夜1時ごろだった。なぜ、競泳の時間はこれほどまで変わるのか。

 水連関係者は米国における「競泳熱」の高さを挙げる。米テレビ局NBCの発表によると、リオ五輪で放映があった15日間で最も視聴率が高かったのは8月9日。女子400メートル自由形でケイティ・レデッキー(米)が世界新で優勝し、男子400メートルリレー決勝でマイケル・フェルプス(同)がこの大会自身最初の金メダルに輝いた日だった。

 五輪史上最多の金メダルを獲得したフェルプスがいた影響もあり、12年ロンドン五輪の視聴率トップ10(生中継)のうち、四つが競泳種目。日本水連関係者は「競泳は米国では別格の扱い。そこは譲れなかったのだろう」。リオ大会では競泳32種目中、15種目で米国勢が金メダルを獲得した。大会前半にある競泳は、NBCにとって五輪を盛り上げるのに適したコンテンツといえる。

 NBCは14年に、32年までの米国向け放映権を独占契約。夏、冬の計6大会とユース五輪の放映権として76億5千万ドルを支払うため、競技時間の決定に大きな影響を持つとされる。冬季平昌五輪でも、米国で人気が高いフィギュアスケートの開始時間は午前になった。最終的な決定権はIOCにあり、最後はNBCの意向をくむIOCに従わざるを得なかった形だ。

 選手たちはどう受け止めるのか。国内大会では午後5~7時台の決勝がほとんどで、「正直やったことがないのでわからない」と多くの選手が語る。ただ、日本水連の平井伯昌・競泳委員長は「対策できないことはない」と語っていた。

 北京五輪では開幕2週間前ごろから、午前4時半に朝食を食べるなどして対策をした。その結果、男子100メートル平泳ぎで北島康介が世界新記録で優勝して2種目連覇を果たすなど、実績も残した。

 「アスリートファースト」という言葉の捉え方によっても変わってくる。ある関係者は「夕方決勝よりも選手の露出が圧倒的に増え、メリットも生まれる」という。「パフォーマンスとしてはそれほど変わらない」という声もあり、早大の奥野景介総監督は「北京は10年前なので、さらに科学的な対策ができるかもしれない」と言う。日本代表で高校3年の池江璃花子(ルネサンス)はすでに朝練習の回数を増やすなどして対策を立てている。(照屋健、遠田寛生)