東日本大震災の被災地・岩手県釜石市に今月完成予定の競技場は、津波から子供らが避難した「釜石の奇跡」の学校跡にある。来年のラグビー・ワールドカップ(W杯)の舞台となるその一角に、小さな祈念碑を設置する構想が進む。そこには、「奇跡」の裏で学校で犠牲になった女性の遺族の言葉が刻まれる。「あなたも逃げて」

 遺族は元製鉄会社員木村正明さん(62)。祈念碑設置を検討する市に、刻んで欲しい言葉を提案した。今も行方不明の妻タカ子さん(当時53)は市立鵜住居(うのすまい)小学校の職員だった。子供らが高台に逃げる中、学校に一人残った。校舎3階の教室には津波で流されてきた乗用車が突き刺さった。

 木村さんは「母ちゃんだけがなぜ学校に残ったのか」と市を追及した。分かったのは、保護者からの電話対応らしい、という程度。手がかりが見つからないままW杯の誘致が決まり、校舎跡は「釜石鵜住居復興スタジアム」の盛り土の下に消えた。「跡地に教訓を伝える碑を」と願い、市としても教訓を伝える場が必要と判断した。

 木村さんは、刻む言葉を練る中で、まず考えたのは「生き抜く 信念」。漁師の娘で、津波の恐ろしさを知る妻が学校に残ったのは、仕事への信念だった、と信じたからだ。

 消防団員や民生委員も住民を助けようとして津波に巻き込まれた。「信念で誰かを助けたいなら、自らも生き抜く信念を持ってほしい」。その思いを「あなたも逃げて」と表現した。それぞれがまず避難するという三陸地方の教え「てんでんこ」の深化を願う。