先日行なわれたボルダリング・ワールドカップ(W杯)八王子大会の男子はイタリアの30歳、ガブリエル・モロニが優勝。IFSC(国際スポーツクライミング連盟)の前身であるUIAA(国際山岳連盟)時代の2005年にW杯デビューしてから足掛け1…

 先日行なわれたボルダリング・ワールドカップ(W杯)八王子大会の男子はイタリアの30歳、ガブリエル・モロニが優勝。IFSC(国際スポーツクライミング連盟)の前身であるUIAA(国際山岳連盟)時代の2005年にW杯デビューしてから足掛け12年、60戦目での初栄冠に最終課題ではTOPホールドで男泣きに暮れた。



2016年の世界選手権でコンバインド世界王者に輝いたショーン・マッコール

 ボルダリングW杯の課題傾向は昨夏のミュンヘン大会以降、変わりつつある。2016年シーズンから俊敏さが必要なランジ(ジャンプ)やコーディネーション(※)の課題が増える流れが続き、こうした動きを得意にする日本人クライマーが上位に躍進した。

※コーディネーション=手足をタイミングよく動かして次のホールドを掴む動き。

 しかし今シーズンは、ひじと脇を締めて腕を固めて次のホールドを取る「ロック力」や、手の平を返しながら体勢を入れ替える「マントル力」など、クライミング元来の岩場で求められるパワーや能力を問われる課題が増えている。

 課題内容が原点回帰していることで、この2シーズンはボルダリングW杯での存在感が希薄だった外国人クライマーがふたたび輝きを放っている。今シーズンのボルダリングW杯第3戦の中国・重慶大会で2位となったカナダのショーン・マッコール(30歳)も、そのひとりだ。

 2016年世界選手権のリード、ボルダリング、スピードの3種目で競うコンバインド世界王者であり、IFSCの選手会会長を務めるクライミング界のスーパースターは、この大会では右肩のケガの影響もあって予選敗退に終わった。

「課題はとても難しかったけれど、すごくおもしろかったよ。重慶で2位になったあとは東京でトレーニングをしていたんだけど、2週間前に右肩をケガして……。本来の3割くらいの力しか出せなかったから、メンタル的にはつらい結果だよ」

 マッコールは予選5課題で0完登2ゾーンの73位。本来の彼が得意とする右肩でロックしながら乗り込む課題がいくつかあっただけに、万全のコンディションなら準決勝へ進めていただろう。そんな不本意な結果に終わっても取材を快活に受けるあたりは、さすが選手会会長といったところだ。

「タイムマネージメントがちゃんとできれば、選手会会長をしていることは何の問題もないよ。すべての選手のために働く選手会会長という仕事は重要だし、僕はやりたくてやっているだけだからね。IFSCも僕たちの意見を聞いてくれるから、やり甲斐もあるんだ。日本人選手ではアキヨ(野口啓代)が選手会に関わってくれているよ」

 マッコールは6月8日~9日にアメリカ・ベイルで行なわれるボルダリングW杯第6戦に出場したあとは、7月6日~7日から始まるリードW杯シーズンに向けたトレーニングを開始する。リードで求められるエンデュランス(持久力)を高めるには時間がかかるため、ボルダリングW杯は中国大会までで切り上げて、八王子大会以降は出場を見送る選手もいる。

「ベイル大会のあとから始めるのは練習期間としては短いけれど、僕のクライミングスタイルには、それで十分なんだ。リードでも、ボルダリングでも、パワフルに素早く登っていくのが僕のスタイル。リードの競技時間は6分あるけれど、僕は半分の3分くらいで登っちゃうからね」

 昨年まではヨーロッパに生活拠点を置いていたマッコールは、今年からふたたびカナダで暮らしているが、シーズン前に集中してトレーニングを積むときはヨーロッパへ渡るという。

「カナダは練習環境が整っていないからね。長期の練習時間が取れるときは、オーストリアのインスブルックなどのヨーロッパに行ってやるんだ。中国でのボルダリングW杯のあとは、東京などで八王子大会に向けてのトレーニングを積んだよ。

 日本はボルダリングのトレーニング施設が充実しているからね。だから、日本人クライマーはボルダリングの練習に多くの時間を費やせるんだろうけど、そこまでクライミングに打ち込めるっていうのも、すごい才能だなと思っているんだ」

 その日本人クライマーはマッコールの目にどう映っているのか訊ねると、「トモア(楢﨑智亜)よりも、ココロ(藤井快)のほうが英語は少しうまいから話しやすいかな」と、笑いながら語り始めた。

「僕だって日本語をしゃべれないから、言葉の壁があるのは間違いないけれど、日本人クライマーはみんな性格がいいし、トレーニングもがんばっている。日本代表はそれぞれの選手ごとにクライミングのタイプは違うけれど、本当にすばらしい選手ばかりだよ」

 日本人クライマーのクライミングタイプについて、マッコールはどう捉えているのか。

「ココロは背が高くて、ホールドを押さえつけるムーブがうまいけど、僕とはちょっとタイプが違うよね。どちらかと言えば、僕のクライミングスタイルはトモアに近いかな。僕とトモアは背の高さが同じくらいだし、フィジカルの部分でも似ていると感じているよ。僕も彼もランジが得意で、足を切る(壁から足を離すこと)ことが多いのも似ているね。

 だけど、決定的に違うのは、トモアはコーディネーションがすごくうまい。そこは僕がもっと練習すべきところだね。それから、トモアが得意な課題に向かうとき、彼はいつも自信がみなぎっているんだよ。そういう部分を僕は取り入れたいなと思っているんだ」

 9月10日から始まるオーストリア・インスブルックでの世界選手権に、マッコールは前回大会王者としてコンバインドにも出場する。東京オリンピックに向けてコンバインドの強化をする日本山岳スポーツクライミング協会は、国内初のコンバインド大会『第1回コンバインド・ジャパンカップ』を6月23日~24日に岩手・盛岡で開催する。そこに臨む日本人クライマーのために、コンバインドを戦ううえでのアドバイスをもらった。

「やっぱり大事なのは、楽しむことだね。僕はスピードがそんなに速くないし、世界王者になるための最低限のタイムしか持っていないんだ。きっと日本人の選手のなかには、僕よりも速く登る選手がいると思うよ。だから、まずは楽しんでやってもらいたいな」