今月13・14日のスイス・マイリンゲン大会を皮切りに、今年もボルダリングW杯がスタートする。昨年はチョン、ショウナ&ヤンヤの後塵を拝した日本勢は王座を奪還できるか?『スカイA』の解説でおなじみ、伊東さんが展望![女子] 4強の優勝争いに阿…


 今月13・14日のスイス・マイリンゲン大会を皮切りに、今年もボルダリングW杯がスタートする。昨年はチョン、ショウナ&ヤンヤの後塵を拝した日本勢は王座を奪還できるか?『スカイA』の解説でおなじみ、伊東さんが展望!

[女子] 4強の優勝争いに阿島&ふたばが挑む!

 今年は世界選手権イヤー。男女共通の注目点となりますが、9月6~16日にオーストリアで開催される2年に1度のビッグコンペに向けた各人のピークの作り方が、W杯の勝敗にも影響を及ぼすでしょう。選手たちにとっては、五輪イヤーのリハーサル的な位置づけにもなるシーズン。加えてボルダリング中心だったクライマーもリード、スピードの強化を始める中、大会によって伏兵が勝つ可能性も高まるかもしれません。

 とはいえ女子は、昨年のW杯でそれぞれ4勝、3勝とトップを独占したショウナ・コクシー、ヤンヤ・ガンブレッドが年間王者争いの大本命。正直「穴がない」両者に、BJC優勝で好発進した野口啓代、コーディネーション系や緩傾斜など現在主流の課題への対応力は2人に匹敵する野中生萌が、どれだけ食らいつけるか。一戦一戦、僅差の戦いになるはずです。

 この4人が抜け出す現状ですが、2018年は楽しみなニューカマーがいます。昨年リード種目でW杯にデビュー済みの白石阿島と、今年から参戦を果たす伊藤ふたば! 阿島ちゃんはボルダリングW杯にも数戦出場予定で、昨秋から私のスクールに来て相当の登り込みをしていました。ふたばちゃんが凄いのは、その時その時の課題に適応できる能力。今のユース年代は大舞台でも自分の力を出し切ることに長けており、いきなり決勝に上がってもおかしくないですね。この他、昨年は決勝進出2回だった尾上彩には初の表彰台を期待したい。海外では2月のUSオープンを制し、東京2020を目指して準備を進めるアメリカのアレックス・プッチョが面白い存在になりそうです。

2年連続でボルダリングW杯年間女王に輝いているショウナ・コクシー(イギリス)

昨季はボルダリングで3勝、リードで6勝を挙げた“2刀流”ヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)

既にリードでW杯デビューを果たしている白石阿島(アメリカ)(写真=新華社/アフロ)

伊藤ふたばはいよいよW杯デビューとなる(写真=窪田亮)

 

2017年ボルダリングW杯 女子年間ランキング

1位:ショウナ・コクシー(25/イギリス)/560pts
2位:ヤンヤ・ガンブレット(19/スロベニア)/470pts
3位:野口啓代(28)/381pts
4位:野中生萌(20)/377pts
5位:ペトラ・クリングラー(26/スイス)/290pts
6位:スターシャ・ゲージョ(20/セルビア)/234pts
7位:カーチャ・カディッチ(22/スロベニア)/227pts
8位:ミカエラ・トレイシー(26/イギリス)/190pts
9位:ファニー・ジベール(25/フランス)/187pts
10位:尾上彩(22)/165pts
[男子] 日本勢が頂点に迫る!あの大物も参戦か

 昨年はチョン・ジョンウォンが2年ぶりに王座君臨。女子にも言えることですが、より課題傾向の変化が順位を左右すると思い知らされたのが男子でした。コーディネーション系メインの前年から“登る力”を求められる方向に揺り戻された2017年のW杯、楢崎智亜は優勝ゼロに終わりました。オールラウンドな選手として進化を続ける智亜の巻き返しに注目しましょう。今年もチョンと楢崎、そして同等の安定感を備えるアレクセイ・ルブツォフが軸になるのは間違いない。中でも昨年、各大会の決勝でダントツの完登率を記録したチョンは、先日もSNSで片手懸垂を軽々20回ほど、たぶん世界記録くらいの勢い(実際、片手懸垂のギネス記録は22回)でこなす動画をアップしてましたし、保持力だけでなくパワーも備えた選手に成長しましたね。

 しかし、日本勢のレベルもどんどん上がっている。多くの選手に表彰台を期待していいと思います。昨年、優勝1回/決勝4回の藤井快に、同1回/5回の渡部桂太、上位常連の杉本怜も体全体の強さなら世界屈指です。さらには、ユース世代を牽引してきた緒方良行。伸び盛りで総合的に能力をアップさせており、飛躍のシーズンになるかもしれません。また、BJCで決勝に進出した村井隆一、原田海、石松大晟らも実力的には遜色がない有望株です。

 海外勢では、世界選手権イヤーとなると……あの2人の動きを無視できませんね。世界選手権の過去2大会でリード連覇、ボルダリング金・銀獲得と、コンペシーンに顔を出せば栄冠をかっさらっていくアダム・オンドラと、彼同様に外岩で驚異的な実績を重ねているアレックス・メゴスです。2人がW杯に数戦でも出場した場合、年間王者争いは一気に混戦模様となるはず。彼らと智亜たちによる半端なくハイレベルな戦いが今から楽しみです。

昨年のトップ3である(左から)楢崎智亜、チョン・ジョンウォン(韓国)、アレクセイ・ルブツォフ(ロシア)

セカンドブレイクが期待される緒方良行

世界最強クライマーとの呼び声も高いアダム・オンドラ(チェコ)(写真=Ryu Voelkel)

アレックス・メゴス(ドイツ)も参戦するとなれば、優勝争いは一気に混戦模様に

 

2017年ボルダリングW杯 男子年間ランキング

1位:チョン・ジョンウォン(22/韓国)/453pts
2位:楢崎智亜(21)/404pts
3位:アレクセイ・ルブツォフ(29/ロシア)/399pts
4位:渡部桂太(24)/372pts
5位:藤井快(25)/327pts
6位:杉本怜(26)/278pts
7位:ヤン・ホイヤー(26/ドイツ)/235pts
8位:緒方良行(20)/232pts
9位:イェルネイ・クルーダー(27/スロベニア)/201pts
10位:ヤコブ・シューベルト(27/オーストリア)/186pts

※選手の年齢は2018年3月末時点

2018年ボルダリングW杯(予定)

第1戦/4月13日~14日/マイリンゲン(スイス)
第2戦/4月21日~22日/モスクワ(ロシア)
第3戦/5月5日~6日/重慶(中国)
第4戦/5月12日~13日/奉安(中国)
第5戦/6月2日~3日/八王子(日本)
第6戦/6月8日~9日/ベイル(アメリカ)
第7戦/8月17日~18日/ミュンヘン(ドイツ)


伊東秀和(いとう・ひでかず)

1976年、千葉県出身。02年、03年のジャパンツアー年間王者。日本代表として11年まで世界選手権5大会連続出場(リード)。現在は『伊東秀和クライミングスクール』を主宰し、多くの日本代表選手からユース世代、一般の方まで幅広く指導。『スカイA』スポーツクライミング番組の解説でもおなじみ。



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編集部 /

写真

藤枝隆介