◆明治安田J1リーグ▽第38節 鹿島2―1横浜FM(6日・メルスタ) 鹿島が横浜FMを2―1で下し、9シーズンぶり9度目…
◆明治安田J1リーグ▽第38節 鹿島2―1横浜FM(6日・メルスタ)
鹿島が横浜FMを2―1で下し、9シーズンぶり9度目のJ1制覇を果たした。主要タイトル通算21冠目となり、Jクラブ最多を更新した。
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忘れられない日がある。2022年10月5日、鹿島は天皇杯準決勝でJ2(当時)甲府に0―1で敗退した。岩政大樹監督が会見で「クラブ史に残る大失態」と断じた頃、雨と涙にぬれたロッカールームで主力選手がフロント幹部に詰め寄っていた。監督人事を始めとするチーム編成にビジョンがないとして、容赦ない言葉がぶつけられた。
度重なる監督交代に、助っ人の不発。獲得した日本人もはまらなかった。タイトルから遠ざかる選手たちの我慢も限界だった。ジーコが作り、タイトル獲得とともに育んできた「献身・誠実・尊重」の精神。そして、武器だったはずのフロントと選手の一体感、信頼関係が30年を超えるクラブの歴史で初めて揺らいだ。
18年に引退した小笠原満男から現役時代に聞いた。「今の子たちに厳しく言ったらシュンとしてしまうし、難しい」「(鹿島の精神や伝統を伝えるのは)難しくなっている」。厳しい要求も含めて、選手の距離も遠くなっていった。サッカーの潮流が南米から欧州へと変わり、ブラジル路線を取っていたクラブには逆風だった。
それでも、クラブは鹿島に、伝統にこだわった。「鹿島らしさ」の言語化を試み、移籍、新加入選手にも理解するよう努めた。スタッフもクラブOBを主要ポストに配置。今季はクラブOBで勝ち方を知る鬼木達監督の招へい。フロントのトップもOBの中田浩二氏で臨み、復活を遂げた。
9月20日、敵地で浦和に1―0で勝利した直後、鈴木優磨は「情けないゲームで、これじゃ優勝できないですね。先制点を取ってから、これだけ押し込まれ続けるサッカーは必ず限界がきます」と言った。現実を受け止め、誰の責任にするでもなく、自ら動く。鹿島らしい言葉だった。(前鹿島担当・内田 知宏)