ロッテ戦では2回も持たずに降板となったバウアー。苦しい投球は交流戦を通して続いた。(C)産経新聞社運が悪かったに集約され…

ロッテ戦では2回も持たずに降板となったバウアー。苦しい投球は交流戦を通して続いた。(C)産経新聞社
運が悪かったに集約されたバウアーの自己評価。一方で首脳陣は……
2023年、DeNAは球団史上初となる交流戦優勝を飾った。怒涛の快進撃に大きく貢献したのが、3登板で3勝、防御率1.50とパ・リーグの強打者たちを圧倒したトレバー・バウアーだった。
その栄光の瞬間から2年が経過した今季、DeNAにカムバックしてきたサイ・ヤング賞右腕には、当然ながら大きな期待がかかっていた。
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しかし、現実は甘くはなかった。伊藤大海との投げ合いで完投勝利を挙げた日本ハムとの今季交流戦の初登板では観る者を唸らせたが、その後は3連敗。特に最終登板となったロッテ戦では1回1/3(41球)を投げて、7失点KO。バウアーにとってNPBでは最悪の内容となった。
結局、4先発で1勝3敗、防御率5.63と周囲を納得させる結果は残せなかった。それでも当人は「ゲームプランに沿った内容でした。しっかりと投げたいところに投げられていましたし、自分の思う投球はできていたばず」と毅然たる態度でキッパリ。打たれた原因は、“ハードラックにある”と持論を語っている。
「ほとんどが弱い当たり、63マイル(約101.3キロ)くらいの打球速度でもヒットになってしまったり、コースヒットも多かったです。ティーバッティングをしているときでも、9回中8回もヒットになることはなかなかありえないことだと思うのですが、今日はそんなことが起きてしまったということです」
運が悪かった――。バウアーの自己評価はこの点に集約されていた。だが、三浦大輔監督は「悪かったですね。見ての通りです。初回5点取られて、3点返したところで次の回にいきなりフォアボール。あれ以上は引っ張れなかったですね」と指摘。「もちろん、間を抜けていくヒットもありましたけど」と同意しつつも、「しっかり捉えられている打球もありました。ホームを踏ませないという先発投手としての仕事ができなかった」と切り捨てている。
また、日頃からバウアーとコミュニケーションを密にする小杉陽太チーフピッチングコーチも「運の範疇は超えている可能性があるというところは見えてきている」と指揮官と同様に厳しい言葉を並べた。
「不運というのは、打球速度のところだと思うのですが、そういう打球もありましたけれども、いいコンタクトをされていることは事実としてあります」
綿密なデータでも見えない“疲労”の可能性
小杉コーチは2年前もバウアーが打ち込まれた際に助言し、投球内容のV字回復に寄与した。ただ、今回の不調は当時と内容が異なると言う。
「あのときはすぐにできたんです。シンプルにMLBとNPBのストライクゾーンの有効性、つまり、アンパイアがどの辺の、どの範囲をジャッジしてくるのかとかだったので」
その上で、DeNAの助っ人投手の良化に尽力してきた小杉コーチは、主に3つのポイントの修正が必須と説いた。
真っ先に断言したのは「フォーシーム」。小杉コーチは今季のバウアーの“真っすぐ”を2年前と比較し、「平均球速は1.6キロ落ちています。これってかなり落ちていると僕は認識しています」と分析する。
「(球速の)MAXも当然落ちていますし、且つコマンドも悪い。これは2023年と比較してもかなり良くないです。ピッチバリューで見てもマイナスに寄与しているのが目に見えているので、今の感じだったらフォーシームを投げないほうがいいです」
投げない方が良いとまで言い切ったバウアーの真っすぐ。実際に質が低下しているデータもある。6月17日の西武戦では投球割合が15%までに低下。にもかかわらず、「9回にそれを打たれている現実がある」。
では、改善策はあるのか。「コマンドを良くするメカニクスは球速を上げるメカニクスなんです。なので、いくらピッチデザインしても変わらない、良くない点はそこではないというところを理解してもらう」と説く小杉コーチは、「感覚はいい選手なので、ちょっとインプットしただけで、すぐ変わる可能性は大いにありますよ」とバウアーの変貌に期待を込めた。
2つ目の課題として挙げたのは、バウアーの投球において生命線ともなる制球だ。「シンプルにロケーションが良くないのは目に見えています」と、こちらもキッパリと言ってのけた小杉コーチは、思ったところに投げられない現象を次のように解説している。
「実際に打たれているボールは甘いところに投げています。打球速度も出されてしまい、且つフライボールになってしまっている現実がデータとしてありますので。本人は『エラーはないと思う』と言うんですけど、もしかしたら身体やメカニクスにあるのではという仮説を立てて、バイオメカニストとハイパフォーマンスグループと議論した結果、そこは本人も『わかった』と話してくれていますね」
そして、3つ目は130球超えも厭わないバウアーのタフな姿勢だ。NPB挑戦以来、中4日での登板サイクルを実戦してきたエース助っ人だが、さら「トラッキング上ではあまり問題になっていないかも知れませんけれども、もしかしたらリカバリーが追いついていない可能性もありますね」という。小杉コーチは、そこに本人のデータや感覚とは異なる“疲れ”もあるのではと読む。
その私見を踏まえ、小杉コーチは「初回のところに関係しているのかも」と立ち上がりの悪さの部分にも紐づけられているのでは分析する。
「120、130球というバッファーがあるからなのかなかと。彼はイニングを投げれば球速も上がっていくというんですけれども、それまでにやられちゃったらなんの意味もないので。例えばですが100球となれば、早い回からリミットまでに何をしようかと考えるでしょうし。彼もそこはベンチの考えることと言っているので」
バウアーに一般的なピッチャーよりも多い球数の幅を持たせていることこそが、スロースタートの元凶となり、さらにリカバリー不足の負のサイクルに陥っている。だからこそ、小杉コーチは、これまでとは異なるアプローチで、好サイクルへと変換する方が有効だと思考を巡らせる。
リーグ優勝の使者として迎え入れられたトレバー・バウアー。投手としてのプライド高き、“サイ・ヤング賞助っ人”は、ここから2年前と同様にV字回復を果たすのだろうか……。
[取材・文/萩原孝弘]
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