1月に12球団初の「野球振興室」を設置した阪神が、野球復興にかける情熱を見せるイベントを開催した。野球人口の減少や認知度向上という球界が抱える課題に向けてアプローチを続けている中、16日に高知市総合運動場野球場で行った2軍交流試合・四国I…
1月に12球団初の「野球振興室」を設置した阪神が、野球復興にかける情熱を見せるイベントを開催した。野球人口の減少や認知度向上という球界が抱える課題に向けてアプローチを続けている中、16日に高知市総合運動場野球場で行った2軍交流試合・四国ILp高知戦で新しいチャレンジを行った。
NPB球団の空白地で試合を開催することは、ファンやプレーヤーの増加へつなげる目的がある。ただ、今回は試合を開催するだけではなく、野球振興室がプラスアルファで異例のアプローチを仕掛けた。
試合開始は午後6時。その1時間前から選手と、小学生とその保護者による交流の時間をつくった。公式戦ではないとはいえ、試合開始直前のグラウンドで異例の触れ合いタイムが始まった。
中堅付近では「キャッチボールクラシック」を開催。阪神と高知からそれぞれ1人ずつの選手がコンビとなって計10組をつくり、子どもたちと10分間のキャッチボールを行った。力いっぱい投げ込む子や、憧れのプロ野球を目の前にして緊張の面持ちの子も。選手は声を出してサポートし、盛り上がった。
同時進行で、左翼ファウルゾーンでの「ミート&グリート」(記念撮影)では、小学生が阪神の6選手やコラッキーに囲まれて写真を撮影。握手と会話も交わし、誰もが笑顔になっていた。
試合が始まっても野球振興室は仕掛け続けた。一回表だけではなく、一回の裏も選手が守備位置で待つ人にサインボールをプレゼント。五回終了時はサイングッズプレゼントの抽選を行い、試合終了後にはハイタッチと、ヒーロー選手との写真撮影も実施した。盛りだくさんの内容に1200人を超える観衆は、満足そうな表情で帰途に就いた。
現場の理解がなければ実現しないイベントだった。2軍はシーズン中はウエスタン・リーグで戦っているため、今回は日程の兼ね合いもあって、1泊2日で平日のナイターとなった。しかも移動は片道4時間のバス。野球振興室の室長でもある嶌村球団本部長が、平田2軍監督に賛同を得て“弾丸遠征”が実現した。
2軍は16日の午前中に、バスで兵庫県尼崎市にある2軍本拠地を出発した。バスの中で弁当を食べ、午後1時過ぎに高知へ到着。通常より30分前倒しでグラウンド入りして、イベントと試合に参加した。
シーズン中にバスで往復8時間以上の移動。体への負担はあるはずだが、平田2軍監督は「苦にも何にもならない」ときっぱり。「野球人口を増やすこともわれわれの使命なんで」と話し、「振興に携わって、いろんなことを活動してるスタッフがいるんだから」と実現させた野球振興室のメンバーをねぎらった。
野球振興室にとって今回のイベントは、昨秋のキャンプ中に行った四国ILp・高知とのコラボイベント「未来につなぐ トライアル ベースボール」など、過去に開催したイベントがサンプルとなった。
これまでの経験で体験型の企画に手応えをつかみ、保護者を巻き込んだイベントを進化させてきた。今回も行われた「キャッチボールクラシック」など野球経験がない人でも参加しやすい企画は、「難しい」「危ない」という野球を始める上でのハードルを下げる狙いがある。
野球振興室の関係者によると、「昨秋に安芸でのイベント後に行ったアンケートでは、帰りの車で『お母さん、また野球やろう』と言った子がいたそうです。保護者からも『少しずつ始めてみたい』という声がありました」という。効果は少しずつでも、着実に現れているようだ。
嶌村球団本部長は15日に松山で1軍のヤクルト-阪神をチェックし、高知へ移動。イベントを楽しむ親子の姿に目を細めた。「一番いいのは(参加者した子供が)競技者としてやってもらうことだけど、そうでなかったとしてもライト層でもいいから、野球の良さを感じて、ファンになってもらえたら。両方大事ですね」。今後も四国ILpや日本海リーグなどと連携して、野球振興イベントを開催していくという。プロ野球界でも屈指の人気を誇る阪神が、地道な活動を続けることは、野球界の明るい未来につながっていくはずだ。(デイリースポーツ・西岡 誠)